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デビルズウィング 3



 花菜はぼんやりと授業を聞いていた。

 自分が翼の人生を、彼の固定観念(お父さんへの思い)を変えることが出来るのだろうか。私は、彼を救えるのだろうか。


「花菜」


「花菜ちゃん」


 祥也と栞奈が目の前に居た。二人共、心配そうな顔を浮かべていた。


「風間くんって、秘密とか守れる?」


「俺は口固い方だから大丈夫だよ。なんかあるの?」


「いや、後で相談が……」


「もちろん、大丈夫さ」


 祥也にとって好きな子に相談してもらえるなんて光栄なことなのだが、花菜にとっては相談することは不安でしかなかった。もしも、この話を聞いて彼らが翼を避けることなんてするだろうか。


――翼は悪魔の子なの。


 昨日、翼の母が言っていたことを思い出す。私は全力で彼を支えられるのだろうか。


「私も口は固いけど、ここは祥也に任せるよ。女同士の方が良いと思うけど、花菜ちゃんをよく知ってるのは加藤先輩か祥也しかいないもんね」


 栞奈はニコニコと笑っていた。これが彼女の優しいなのだろう。花菜も微笑んで頷いた。


 昼休み。花菜は祥也と一緒に空き教室に来ていた。とても静かでここなら誰にも聞こえないと思ったのだ。

 花菜と祥也は置かれていた椅子に座って向き合った。花菜は全てを話した。


「翼は悪魔なの」


「えっ……」


 祥也は非現実にしか聞こえない花菜の話を真剣に受け止めようとした。


「翼は名付け親のお父さんを恨んでいる。お父さんが翼に酷いことをしてしまうのは、お父さんが愛されたこともないから愛し方を知らないからなの。だから、翼に固定観念を変えてもらわないといけないの……」


 花菜の目から涙が零れた。祥也は話を理解するのが大変で、涙を拭うほど頭がついて行かない。


「だから、どうして、良いか……分からないの。どうやったら、翼を……救えるのか……」


 祥也は涙を流す花菜の頭を撫でた。花菜はハッとしたように顔を上げた。


「伝えてあげれば良い。先輩は猛反発するかもしれないけど、お父さんの過去も自分のことも全てを伝えてあげた方が良い思う」


 祥也は苦笑いをして言った。


「言わなきゃ何も始まらないんだ。花菜、お前が動かなきゃ誰も救えねぇんだ」


 花菜は祥也の言葉に胸を打たれ涙を流した。

 そうだ。全てを知ってる私が彼に伝えなくてどうする。私が動かなきゃ翼を救えない。私が翼を救うんだ。

 花菜は涙を拭って立ち上がって祥也に言った。


「ありがとう、風間くん……」


「うーん、祥也って呼んでくれる?なんか悲しいんだ」


「うん。祥也、ありがとう」


「おう……」


 花菜が教室を出た時、祥也が顔を真っ赤にしていたなんて誰も知らない。


 放課後。花菜は雪を降り注ぐ中、必死に走って翼が居る病室に向かった。早く君を救いたいから。


「翼!」


「おっ、花菜。なんか、お疲れ様な様子だね」


 笑顔で迎えてくれる翼の目の前にある椅子に座った。彼の体には痛々しく包帯が巻かれている。

 花菜はなんとか息を整えて翼を見た。


「翼、大事な話があるの」


「うん、何かな?」


 気丈に振る舞う翼に花菜は難しい顔をして言葉を吐いた。


「翼、自分が何者か……」


「えっ、何で……」


 元気そうだった翼の顔が暗くなる。やっぱり大体のことを聞いているようだ。


「知ってる?どれだけ、お父さんに愛されていたかも……」


「そんなわけないだろ!アイツは俺のことなんか大嫌いなんだ!」


「お父さんは知らないだけ」


「何を?アイツが何だよ!」


 翼が暴れ出すのも無理はない。大嫌いな父親のことだから。花菜は深呼吸をして続きを話す。


「お父さんは翼と一緒で、悪魔の子供だった。だけど、お父さんの両親は愛してくれなかった。翼がお父さんにされたことと同じように、毎日暴力と暴言を言われ続けていた。だから、お父さんは知らないの。愛というものを」


 翼の母から父親のことを大まかなことだが教えてもらった。彼がこうなったのは、お父さんの不器用さであるということだ。


「愛し方なんて知らないお父さんは翼から避けようとした。翼を自分の色に染めないように、自分の二の舞にさせないように……」


「そんな……嘘だ!」


「嘘じゃない!翼という名前を誰が付けたと思う?」


 花菜の質問に翼は黙った。誰が自分の名前を付けてくれたのか、翼は何も知らないのだ。


「決して見ることはない悪魔の翼。これからは天使のように羽ばたいてほしい、白い翼……お父さんが付けたんだよ。良い名前だよね」


「なんだよ……父さんがそんな……」


「翼のお母さんから全て聞いた。お父さんは知らないだけで、翼をちゃんと愛してるって……」


 そんな時、色々と混乱している翼が絶叫した。背中から黒い大きな翼が生えた。そんなたった一瞬の情景を花菜は見ていた。


「翼……」


「あれ?動けるんだけど」


「えっ?」


 翼は元の姿でベッドから降りて歩いている。花菜は首を傾げた。これが、翼の能力なのか。

 先程の騒ぎに気付いて駆け付けた医師が驚いていた。急遽退院となった。


「花菜さん」


 廊下に出ると、男が突然話し掛けてきた。自分の名前を知っているということは……。


「翼の父です。そこで全て聞いていました。本当にすみませんでした」


 翼の父は深く頭を下げた。


「お義父さん、顔を上げてください。そこは謝罪よりありがとうの方が有難いです」


「えっ?」


 翼の父は首を傾げた。やはり、それ相応以上に社会性が無い。酷い親だけが、ボロボロの世界だけが翼の父にとっての社会だったからだろう。


「翼の能力が何か分かった」


 よく分かっていないみたいだったが、翼の父は話を変えてきた。とりあえず、能力とはどういうもなのか花菜は知りたい。


「翼の能力は『運命を変える』。極端に言うと、『世界操作』だ。自分も他人の人生も、この世界全てを動かすことが出来る」


 とても非現実な話に花菜の頭を追い付けていけない。翼の能力が、世界を変えるとはどういうことだ。


「翼が、本当にいつも、ありがとうございます……」


「いいえ。私こそ彼に出会えてお礼を言うべきですよ。私は彼に出会えたおかげで世界が変わったのですから」


「そうですか……では、私達はこれで」


「はい。お義父さん、翼を大切にしてあげてください」


 翼の父は花菜の言葉に頷いて去って行った。窓の外を見れば雪が降っていた。

 私は君を救うことが出来たのかな。君の心に進展があるといいな。




まさかの能力発揮。

ただの青春小説にスパイスとして非現実な悪魔を取り入れてみました。

あの、どうですかね……(笑)


評価してくれるとホッとします。なので、よろしくお願いします。


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