BreakLove 5
翔は学校に行った。雪が降っている。その景色がとても懐かしく思えるのだった。
教室に入り、自分の席に座った。優樹がいつものように駆け寄ってくる。
「おはよう、翔」
「おはよう、優樹。俺さ……」
「俺?」
翔の一人称が変わっていることに優樹は驚いた。翔は驚いている理由を察したようだ。
「思い出したんだよ。古の記憶をな」
「お前、中二病だったの?」
「ちげーよ、バカ」
「口悪っ」
元に戻った翔を笑う優樹を睨み付けた。ピュアから悪ガキになった翔に周りが騒然としている。
「まぁ、俺はそんな翔でも仲良くさせてもらうぞ。何せ、お前は俺にとって親友さ」
「……女の子をいじめて自殺させたこんな俺でも?」
「うん……えっ?」
翔の言葉に優樹が目を見開いた。利奈を自殺させた俺は紛れもなく犯罪者だ。俺は犯罪者と同様なんだ。
「翔が記憶を無くした原因って、翔がいじめた子の自殺を目の前で見たから?」
「大正解」
「えっ!お前、恐ろしいヤツだな」
優樹は苦笑いをした。ドン引きされるだろうと翔は身構える。
「何があろうと俺は翔の親友だ!今ここで宣言する」
「うん……ありがとう」
翔はただ嬉しかったのだ。こんな最低な自分を信じて受け入れてくれて。そして、優樹は翔に聞いた。
「もしも、その子が生きていたら翔はどうしたい?」
「謝りたい」
「俺も探すの手伝うから頑張ろうぜ」
「ああ、そうだな」
翔と優樹は顔を見合わせて笑った。そんな時、教室の扉が開いた。
「翔、話があるの」
「咲花……」
翔は咲花に連れて行かれ、ひと気の無い廊下に連れて行かれた。咲花は顔を真っ赤にして俯いた。
「もう一度、付き合ってほしいの!」
翔はその言葉を聞いて困惑した。咲花は優樹の彼女なのだ。それに翔は咲花に興味など無かったのだ。
「俺は付き合わない。俺は彼女に謝るんだ」
「どうして?何で、あのストーカー女を大事にするの?翔は自分を責め過ぎよ」
「俺は全てを思い出した。俺は目の前でアイツが自殺するのを見た。あのケータイ小説を読んでいて、全ては自分のせいだと悟ったんだ」
翔は目の前に居る咲花を睨み付けた。咲花は目を見開いて、一歩退く。咲花は深呼吸をして言った。
「私はそれでもずっと翔が好きだった。だから、翔の近くに居れるように優樹と付き合った。だけど、この気持ちは消えないの。私は翔が好きなの!」
その時、俺は目を見開いた。咲花の後ろを歩いてくる人物が居た。それは、優樹だった。
「咲花」
「あっ、優樹……」
優樹は咲花を抱き締めた。
「俺は咲花が好きなんだ。翔のことをまだ好きでいても良い。それでも良いから、俺のことを見てほしい。咲花、お願い……」
「……優樹、ごめんね。私、ちゃんと見るから。優樹のこと好きなれるように頑張るから」
さすが我が親友、翔は苦笑いをした。イケメンのクセに優樹も一途なんだなぁと思った。
そして、優樹が咲花から離れて翔と向き合った。
「今度は“四人”で弁当食べようぜ」
「ああ、そうだな」
生きているなら見つけ出そう。俺が殺しかけた君を。
最近、部活をサボりがちだったが久しぶりに出ることにした。あの時の翔は気付いていなかったが、当時彼女と同じクラスだったサッカー部の爽が居る。彼に聞く以外無いだろう。
翔がサッカー部に入ったのは、なぜか上手に出来ていて先輩達に褒められたからだ。それで、サッカー部に入った。
『上手いね、翔くん』
『ありがとうございます。僕もこの部活に入って良いですか?』
『良いよ!本当に翔くんはピュアで可愛いな』
翔は恥ずかしく懐かしい思い出を思い出し、サッカー部の練習場であるグラウンドに向かった。西宮高校は様々な部活の特化のため、サッカー専用に人工芝を引かれたグラウンドも設備されている。
グラウンドに行くと、ベンチで爽が座って居た。翔はその隣に座った。
「久しぶりだね、爽」
「先輩、まさか……」
「全部戻ったよ」
翔が爽に話し掛けたということは記憶を取り戻したということになる。実際そうなのだが、爽は突然のことに驚いて言葉も出ない。
「あのさ、利奈って生きてる?」
「いきなり本題っすか。生きてます」
翔はホッと一息を着く。本当に死んでいたら自分は人殺しと変わりないのだから。
「じゃあ、どこのクラスに居る?」
「先輩、まさか謝罪するとか言い出します?」
「察しの良いヤツだ」
爽はため息を吐いた。未だに翔は自分を責めているのかと不安に思った。爽とは対照的に翔は自信満々でニコニコだ。
「ケータイ小説読んだけど、あれは彼女の作品だろ?あの内容が本当なら謝らないといけないんだ。あれは、俺達が勘違いして起きてしまったことなんだから」
「そうっすか……」
爽は何も言葉が出なくなってしまった。それ以前に翔が彼女の作品を読んでいたことに驚いた。誰かが読ませて思い出させたのだろう。翔の元カノならあり得る。
「アイツは西宮高校に居ます。何せ、彼女の祖父はこの学校の創立者っすから。どうせ、先輩も責任を感じたアイツの家族に入れられたんだろ?」
それは大当たりだ。病室に高齢なのにも関わらず若く見える男が来て、高校に勧誘されたのだ。それは全て彼女が犯した罪滅ぼしなのだろう。元はと言えば、俺がいけないのだ。
「アイツと同じクラスの友達を紹介しますよ。そうすれば話は早く済むだろ?」
「うん、ありがとう」
「記憶戻してもピュアか?」
「いや。人を思いやる気持ちは大切だからな」
翔は記憶を思い出して、人を大切に思う大事さに気付いた。一人ひとりの人権を侵さないという精神でやって生きたいと翔は思っている。
爽はスマホでその友達を連絡しているようだった。
「じゃあ、部活終わりに俺の友達と会わせます」
「ああ」
そんな会話を終えて、部活が始まった。
部活が終わり、玄関に集合する約束をした。すると、爽が男女を連れてやって来た。
「俺は保科春翔です。隣は同居している深瀬結衣です」
春翔はさらりとすごいことを言った。この年で同居ってどういうことだよ。
「利奈は俺らと同じクラスですよ。ご安心下さい、絶対に会わせますから」
春翔にそう言われていた時、校門で翔を呼ぶ声がした。金髪の征也だった。
「翔!」
「征也!」
翔と一緒に春翔もついて来た。そんな彼らを見て、征也は首を傾げた。
「何で、春翔も居るの?」
「征也先輩、覚えててくれたんですか?俺は征也先輩みたいになれる頑張ってい……」
春翔は強く肩を引っ張られた。肩を手に乗せていたのは結衣だった。
「征也先輩のファンだからって、本人に向かってマシンガントークしないの」
「はい、すみません……」
征也が一番驚いていると思ったがそうでもない。同じ中学校出身なんだろうか。征也に熱烈なファンが居たなんて取り残された翔達はそう思っていた。
「翔先輩、明日には無理矢理でも会わせます。いや、サプライズにしようかな。まぁ、とりあえず、また明日で」
「ああ、ありがとな」
昼休み。優樹と咲花が陰で見守る中、この日がやって来た。翔は中庭で利奈を待っていた。
「あの、ここですか……えっ?」
深い茶色の髪が肩の高さぐらいまで切られていた。これが今の彼女の姿である。
彼女は顔を蒼白させていた。翔を覚えているのだろう。肩まで震わせている。
「ごめんなさい!」
翔は深く深く頭を下げた。利奈は目を見開いた。
「俺が勘違いしたせいで苦しませてごめんなさい!死んでも償い切れないって分かってる。だって、俺がやったのは人殺しと変わらないことだから……」
「先輩、顔を上げて下さい……」
か細い声に翔は顔を上げた。目の前に居る彼女は涙を流していた。
「貴方にまた会えて嬉しいです。一秒たりとも貴方のことを忘れられませんでした……」
彼女は涙目で笑って言った。
「翔先輩、よろしくお願いします」
懐かしの二人も登場させました(笑)
無事に謝罪が出来て良かったです。
次回は純愛過ぎるあの二人が登場です。
イケメンの彼の正体が分かります。
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