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都市伝説奇譚~美女との怪しい部活動~  作者: 黒雪ささめ
時間跳躍編
9/10

 


「遅くなってすいません…」



 そう呟きながらそっと未解学研究部部室のドアを開けて瞬は中を覗く。既に自分以外は揃っていたようで、瞬は申し訳なさそうに小さく開けたドアから体を滑り込ませた。



『あっ、瞬ちゃん!大丈夫だよ、掃除当番だってちゃんと言っておいたから。それに()先輩が来たのも今さっきだし』



「ありがとう。…葵先輩?」



 葵先輩という単語に一瞬気を取られた瞬だが、葵の後ろに置かれたホワイトボードの[タイムトラベル実現案]という文字に意識を持っていかれ、無言で席についた。


 葵は瞬が席につくと同時に席を離れ、ホワイトボードの横に立つ。




『では始めましょうか。テーマは[タイムトラベルを実現するにはどうすればいいか]皆、何か案は考えてきてくれた?』




 葵が言い終えると同時に泉が元気よく手を挙げる。




『はいっ!ちょっとズルなんですけど、日付変更線ってあるじゃないですか!海外に行くのに日付変更線を越えればもう[タイムトラベル]したのと変わらないんじゃないかと。皆で海外へ行きましょうっ!』



 奏輔は苦笑し、瞬と拓はポカンと口を開けて唖然とする。瞬と拓は昨日遅くまで学校に残り、調べものをしていたのだ。その程度のレベルでいいのか?昨日の居残りはなんだったんだ?という思いが二人を呆けさせる結果となった。葵はと言えば、若干目尻がピクピクとしていたが、特に泉を突き放すような事はしなかった。




『それは[タイムトラベル]じゃなく、海外旅行ね。斬新奇抜な意見だけど、確かに日付変更線を越えればある意味では[タイムトラベル]と言えるかもしれないわね。

 でも、実は日付変更線というものは存在しないのよ。各国の地域標準時…国や地域で使う時間ね、その各国各地域の差を線に見立てて日付変更線と呼んでいるの。法的な決まりも無いしね。

 あなたのそうゆう積極的な意見も大事よ。あまり関係なさそうなものでも意外なところで繋がっていたりするものだから。現に今、あなたのお陰で皆意見を出しやすくなったんじゃないかしら?』




 泉をフォローしつつ、他の者の顔を見回す葵。




「確かにね。柴崎君のお陰で下地ができた事だし、次は僕の意見を述べようか」



 そう言い、奏輔が前のめりに机に肘を乗せる。



「初めに言っておこう。僕の出す案に恐らく現実味はない。まぁ、[タイムトラベル]自体、現実味を感じられるかと言われれば何とも言い難いけどね。

 じゃあ、本題に入ろうか。皆はワームホールというのを知っているかな?」




「ワームホール…確か時空の歪み?」



 瞬がすかさず自身の記憶を辿るように呟く。




「そうだね、そうとも言われている。ワームホールとはある一点と別の離れた一点を繋ぐ空間領域だと言われているんだ。分かりやすく言えば…どこで◯ドアのようなものだね」



 泉は青い猫型ロボットを想像し、ほんわかとする。




『どこで◯ドアですかぁ…夢が広がりますねぇ。…あれ?でも、それって[瞬間移動]であって、[タイムトラベル]じゃないんじゃないですか?』




「その疑問は正しいよ。ただ、そのドアとドアの間…領域と領域を繋ぐ境目が光速に近しい、もしくは越えていた場合は話は変わるんだ」




『相対性理論…ですね』



 葵の合いの手に奏輔は頷いた。




「相対性理論について説明は…必要そうだね」



 奏輔が見回す限り、理解していそうなのは葵だけだった。



『わっかりやすく、小学生にもわかる感じでお願いしたいですっ!』



 泉などこの有様である。だが、奏輔もそれは予想済みで既に相対性理論についての要点だけまとめてきていたのだ。鞄から用紙を出し、皆に行き渡ったところで奏輔は話を再開する。




「相対性理論には特殊相対性理論と一般相対性理論の2種類が存在する。かなりざっくりとしたものだが、大体の要点は掴めると思う」



 奏輔が持ってきた用紙に書いてあったものは箇条書きで6つしか書いていなかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーー



 特殊相対性理論(要点)



 ①光速に近づくにつれて、時間の流れは遅くなる。


 ②光速に近づくにつれて、空間が縮む。


 ③光速に近づくにつれて、質量が増加する。


 ④質量=エネルギーである。




 一般相対性理論(要点)



 ①重力は時間を遅らせる。


 ②重力は空間や光をも曲げる。



 ーーーーーーーーーーーーーーー




『あの…、これがどこで◯ドアと何の関係が?』



「特殊相対性理論①だよ。光速と同等もしくは近しい速度で移動するものは時間がゆっくりになるんだ。

 例えばGPSがあるだろう?衛星から情報を受信してカーナビや僕達のスマホのGPSは正確な場所を教えてくれるけど、実はそのGPS衛星にも相対性理論が使われているんだ。

 光速には及ばないが衛星の速度は秒速約4キロ、ほんの微量ではあるけど衛星の時計は僕達のいる地上より遅れてしまうんだ。

 本当に少しなんだが、それをGPSへ反映してしまうと1日で約9キロのズレが生じてしまうんだ」




 拓が口をあんぐりと開ける。




「それじゃ使いものにならねぇじゃねぇか…」



「だよね。GPS衛星では相対性理論に基づいて少し早く進むように設定されているから地上でちゃんと使えるんだよ。実は一般相対性理論も少し影響しているんだけど、それは割愛しよう。

 でも、これでわかっただろう?


 相対性理論は机上の空論ではない。


 ちゃんと使われているんだ。

 さて、ワームホールはどこ◯もドアのようなものだ。一瞬で違う場所へ移動できる。では、今いる場所とドアの向こう側との境界が光速であった場合はどうだろう?」




「光速で移動した事と同じ、ですか?つまりそのドアをくぐる人はほんの少しだけ時間を遅く感じてる?くぐった人はタイムトラベルしたようなものと」




 瞬は必死に思考し、奏輔の言いたい事へたどり着いた。




「そう。だから僕はワームホールを推したい。ただ、ワームホールは大きくても素粒子サイズで不安定、重力の影響ですぐに消滅してしまうと考えられている」



「つまり無理ってこったな?」



 分かっているのか怪しい拓が結論を急ぐようにまとめる。考える事が苦手な拓には奏輔の話は難し過ぎるのだ。嫌いな頭脳労働から解放されたいというのが拓の正直な心境だった。そこへ葵が割って入る。



『結論を焦らないで。会長なら対策も調べてきているんでしょう?』



 奏輔は軽く苦笑し、組んだ手に顎をのせた。



「対策、と言えるほど立派なものではないけどね。まずワームホールを大きくするのに必要なのは、やはりエネルギーだと思う。何のエネルギーなのかはハッキリと言えない。電気的なものかもしれないし、それこそ未知のエネルギーかもしれない。時空の歪みを故意に作れるほどのエネルギーなんて想像もつかないがね。

 次に安定させる点だが、これはエキゾチック物質という反物質、マイナスのエネルギーとでも言えばいいんだろうか。そのエキゾチック物質が必要だと提唱されている。これに関しても実在しないだろうという言われているから、正直ワームホールを使って[タイムトラベル]を実現させるというのは超常現象を期待するしかないというのが僕の意見かな。

 長々話して結局運に任せるような結果になってしまって申し訳ないんだけど」




 本当に申し訳なさそうにする奏輔だが、今まで[タイムトラベル]を実現できた例はないのだ。むしろここまで考察をまとめる事など常人には出来ないだろう。葵もそれは理解しているし、奏輔のお陰で助かった面もある。




『いえ、会長は素晴らしいです。本来[タイムトラベル]に使われているワームホール理論は()()()()()()だもの。

 今の会長の意見は新しい理論の構築と言っても過言ではないわ。それに相対性理論を分かりやすくまとめていただいて、私が説明する手間が省けて時短にもなるし。本当に会長を部に引き入れておいて良かった』




 最早どちらが上なのか分からない発言だが、奏輔は葵を咎める事はなかった。奏輔にとって底の知れない葵はたった1年早く生れた程度で見下していい存在ではないのだ。




「と言う事は澤口君の考えも相対性理論に基づいているのかい?」




 葵が手間が省けたと発言したのは自らが説明しようとしていた事を示唆している。ならば葵の案も相対性理論を基本理論としているのは明らかだった。


 いや、本来であれば逆なのだ。


 世に出回るタイムトラベルに関する理論はほぼ全て相対性理論に基づいて考えられている。葵達が相対性理論を選んだわけではない。



 相対性理論を選ばざるをえなかったのだ。



 それだけタイムトラベルと相対性理論は密接に関係している。だからこそ葵は泉の日付変更線の意見を斬新奇抜と表現したのだ。


 奏輔の案は素晴らしかったと葵は心の底から思っている。自分の案の()を行かれるのは予想していながらも予定外だった。葵にとって嬉しい誤算でもあった。



『そうですね。会長は分かっているかもしれませんが、皆は[E=MC^2]という数式を知っているかしら?』



 だからこそ葵は感情を隠す事が出来ず、微笑みを浮かべてしまう。





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