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都市伝説奇譚~美女との怪しい部活動~  作者: 黒雪ささめ
時間跳躍編
8/10

すいません、遅くなりました。

 


「なぁ、俺が可笑しいのか?」


 残った奏輔と瞬へと拓は問い掛ける。





 ー『アイデアを出してちょうだい。何でもいい、何が切っ掛けになるのかなんて誰にも分からないのだもの。ただ今すぐには無理でしょうから、また明日集まりましょう。あの答えを持ってきた貴方達だもの、期待しているわ』ー




 テーマは[タイムトラベル]だと宣言した葵はそう言い残し、さっさと荷物をまとめて帰ってしまったのだ。泉は葵に何か用があったのか、後を追うように部室を出て行った。


 残った二人も自分と同じようにそのテーマの馬鹿馬鹿しさに呆れているのかと拓は思ったのだが、二人はジッと考え込むように押し黙るだけだった。その様子から自分以外の二人はあの馬鹿馬鹿しいテーマを本気で考えているのだと感じ、拓は先程の言葉を呟いたのである。



 ここで考えていてもしょうがないと思ったのか、奏輔が荷物をまとめ出した。そこでふと自分と同じように思考の奥へのめり込むように集中する瞬が視界に入り、奏輔は帰る間際に瞬の肩へ手を置いた。



「僕は自宅で考える事にするよ。君ももう帰った方がいいんじゃないか?」



 急に触れられビクッとした瞬だが、奏輔を見上げるその目には普段のオドオドしたような、どこか怯えたような様子は窺えなかった。むしろその逆で、どこか楽しそうで好奇心に満ちた表情に奏輔には見えたのだ。



 だからこそ、先日の葵の問いで自らを()()()()()後輩へ、自身の方向性を告げようと思ったのだ。同じアイデアではお互いツマラナイだろうと。



「僕は王道を行こうと思う。澤口君が僕の入部を許したのはその為だろうからね。だから君は君の考えをまとめるといい。小難しい事は僕の得意分野でもあるから」




 そう言い奏輔は部室を出て行った。瞬は奏輔に掛けられた言葉を頭で反芻し、どこか吹っ切れたように立上がり部室を出た。拓は大きなため息をつくと自分も帰ろうと席を立ったところで、部室の扉が開いた。入ってきたのは先程出て行った瞬だったのだが、その両手には10冊を越える分厚い本が抱えられていた。



「…おい、北川。帰らねぇのかよ?」



 返答は分かっていたが、拓は聞かずにはいられなかった。



「はいっ!会長が選択肢を絞ってくれたので、僕は僕の目線で調べたい事がたくさんあるので!ここは調べものをするには最適ですし」



 だろうなと拓は納得し、また大きなため息をついて椅子へ座り直した。



「で、何調べんだよ」



 拓のぶっきらぼうな言葉に瞬は疑問の表情を向ける。



「だぁから、手伝ってやるっつってんだよ。んな分厚いの全部調べたら夜中になっちまうぞ?」




「えっ!?…いいんですか?」



 瞬も夜になってしまうのは仕方なしと覚悟していたのだ。この奇乃高校は独特で生徒の下校を促す事はほとんどない。放任主義なのか、運動部の活動時間も夜は21時まで許されている程だ。それは文化部でも同じであり、さすがに21時を過ぎれば帰れと怒られるがまず一般の生徒がそんな遅くまで校内に残っている事はほとんどないので巡回自体かなり緩いのである。ただし、保護者の許可があればの話である。保護者から学校へまだ帰宅していないなどと連絡が来て、校内で見つかろうものなら停学にはならないがそれ相応のペナルティが課せられるのだ。


 それが分かっているからこそ拓は手伝いを申し出たのだ。言動とは裏腹に、拓は野球部に所属していた頃から後輩の面倒見は良かった。口は悪いが筋の通らない事が嫌いな兄貴分のような性格なのだ。しかし、素直になれないのでどこか突き放すような言い方になってしまうのが悪い癖でもあるのだが。



「別にお前の為じゃねぇぞ?俺は[タイムトラベル]なんてよく分からねぇし、アイデアなんて思いつきもしねぇ。だから手伝ってやるから、お前のアイデアは俺とお前の共同案だ。いいな?」



 言い終わり、少し上から過ぎたかと拓は心配したが、瞬にはむしろ誰かと一緒に自らの好きな事を調べるという事自体が嬉しくてしょうがなかった。



「はいっ!よろしくお願いします!あの、じゃあこれなんですけど…」



 部室へ残った二人の作業は結局20時過ぎまで掛かるのだった。





 ーーーーーーーーーーーーーーー






 泉は先に帰った葵を追い掛けて急ぎ足で校門へ向かう。そして、見覚えのある後ろ姿を見つけ横に並び速度を緩めた。



『澤口先輩、お聞きしたい事があります!』



 奇乃高校で一番謎めいた美少女へ詰め寄る一年というのは周囲の視線を容易に集める結果となった。それだけ周囲の視線を集めても葵は表情を変える事はなく、淡々とした口調で答える。



『何かしら?歩きながらで良ければだけど。あと、もう少し声のボリュームを下げてもらえると助かるわ。私も悪目立ちしたくないもの』



 どの口が言うのだと泉は思ったが、それを言葉にする事はなく、素直に小声で話すことにした。



『さっきの話なんですけど』



『さっき?部の活動内容の事かしら?』



『違います。瞬ちゃんの噂が全部澤口先輩の掌の上だったって話です』



 葵は泉へ視線を向ける事なく、『あぁ、あれね』と呟くだけだった。



『私、気付いちゃったんです。全部掌の上って嘘ですよね?』



 泉は一瞬の変化も見逃さないよう葵の表情を伺うが、葵の表情の変化を読み取る事はできなかった。



『あら、何故そう思うのかしら?』



 感情の起伏が読めない以上、揺さぶりは意味がないと判断した泉は自身の推測を素直に伝える事にした。ただ、少しの変化も見逃さないよう注意を払いながらではあるが。



『皆は澤口先輩が情報を流した張本人だって知って気付かなかったみたいですけど、澤口先輩が『どこかで会った事があったかしら』って瞬ちゃんに言ったの、瞬ちゃんが回答する前ですよね?だとしたらオカシイんです。

 それだと回答を聞く前からパートナーを瞬ちゃんに決めてた事になりますよね?さすがに答えも聞かずに瞬ちゃんを選ぶとは思えないし、それで気付いたんです。『どこかで会った』って言葉の方が本心で、その言葉を詮索されたくなくて上手く利用して皆を手玉に取ったんじゃないかって。…澤口先輩、本当は瞬ちゃんと何かあるんじゃないですか?』



 ここぞとばかりに泉は葵の表情を見る。



 しかし、泉が期待したような反応は得られなかった。葵は一度立ち止まり、泉と視線を合わせた上で否定したのだ。



『何を期待しているのか分からないけど、北川君とは何もないわ。ただ、何度か部室前で見掛けた事があったから聞いただけよ。あの時は話し掛ける前に逃げてしまったもの。あの時に話し掛けておけば、わざわざ大々的に募集をかけなくて済んだかもしれないのに。

 …まさか北川君が私のパートナーになるとは思わなかったけれど、あなたの言った通り『前に会った事があったか』っていう私の言葉を利用して事態を終息させたのは正解よ。私が行動を起こしたのは北川君を見定めた後だもの』



 泉は表情や僅かな仕草から相手の感情を読み取る事に他者より圧倒的に長けていた。それは幼少期から周りの大人の顔色を伺ってきたせいでもあり、泉にとってそれは普通の事で他の皆が同じようなものだと思っている。

 その泉をもってしても葵の表情から何かを感じ取る事はできなかった。だからこそ、泉は素直に葵の言葉を信用する事にしたのだ。



『そう…だったんですね。分かりました。変な事をお聞きしてすみませんでした』



 素直に下げた泉の頭を軽く撫でた葵はもういいという意味を込めて肩をポンと叩いた後、特に何か言う事もなく帰って行った。



 泉はというと撫でられた頭に手を添えて頬を赤らめていた。


『ヤバっ、()先輩、マジヤバい!怖い人かと思ったけど、案外優しい?ギャップ?』



 と、はしゃぐのだった。




 泉から離れた事でようやく一人になれた葵は誰にも気付かれないよう軽く息を吐く。




(全く…()君だけでもいい収穫だと思っていたのに、こんなにも逸材がウチの学校にいたなんて。やっぱり目立ってまで募集を掛けて正解だったわ。さて、明日から楽しみね)



 言葉にはしないが、部の発足に一番喜んでいたのは葵だったのだ。



 これがただの部活動で終わる事のなかった奇乃高等学校、初代[未解学研究部]のスタート地点だった。





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