問
七つの大罪を体現しているものを1つ挙げよ。気に入った回答を出した者をパートナーとする。
回答希望者は来週月曜の放課後図書室まで
そんな貼り紙がこの奇乃高等学校の校門横にある主に部員募集に使われる掲示板に貼り出された。
群がる男子生徒達の間をもみくちゃになりながら押し通った瞬は掲示板を見上げて目を輝かせた。
「これって僕も参加してもいいんだよね!?」
男子生徒でごった返す掲示板前で瞬の独り言など誰の耳にも入らない。
この貼り紙が男子生徒達を集めている理由はその差出人にあった。
澤口 葵
貼り紙の1番下に書かれたその名前を校内で知らない者はいない。この学校で部員一人しかいないオカルト同好会の部長である。
容姿は長身細身に長い黒髪、目は切れ長で美少女というより美人と言った方がしっくりくる高校2年生17歳。1年生の時、5人いないと作れないはずの同好会をたった1人で発足させ、オカルト同好会という本当に学校側が許可を出したのかと思うような怪しい部活動を誰の入部も許さず維持してきた異常さを踏まえても有り余る美女…それが澤口葵なのだ。
その怪しさ満載の美女がパートナーを選定すると言うのだから男子生徒達が騒がない訳がない。もし、パートナーに選ばれたなら誰の邪魔も入らず放課後は二人きりで過ごせるのだ。下心しかない回答希望者が集まるのは必然だった。
そして、その騒ぐ男子生徒達に埋もれている背の小さな少年は北川 瞬。成績は中の中で運動も中の中、読書が好きな普通の高校1年生で、小動物のような可愛らしい顔立ちからクラスでは男女問わず「瞬ちゃん」と呼ばれている。
そんなど普通な瞬にも少しだけ変わったところがあった。
それはオカルト好き。学校では本屋のランキング上位の本を読み、家では神話やらオカルトやらの本を読むという隠れオカルト好きである。もちろんホラーなども好きで部屋の本棚にはオカルト本の横には夏の心霊番組などを録画したDVDが並んでいる。それほど怖いものや不思議なものが好きなのに、性格は臆病で怖がりで人見知り。同級生が瞬ちゃんとイジッてこなければ入学して半年たった今もクラスに馴染めていたかわからないほどである。
実は瞬は入学当初オカルト同好会に入部する気でいたのだが、澤口葵が入部希望者を尽く拒否したせいで、とても入部したいなどと言えずにいたのだ。そんな瞬にとって今回は願ってもない事である。澤口葵という怪しげな先輩は怖いものの、回答希望者が殺到する事は確実で、落ちて当たり前、受かればラッキーくらいの感覚を皆持っているので自分が落ちてもあまり目立たずにいられるのではないかと思ったのだ。落ちる事はほぼ確実だと思っているので受かった場合の知名度の急上昇は瞬の頭の片隅にもない。
何よりも瞬は貼り出された澤口葵からの問に興味が湧いたのだ。
七つの大罪を体現したものを1つ挙げよ。
オカルト好きの瞬はその問にとてもワクワクした。
家に帰ってからもあの問が頭を離れず、瞬は寝る間際まで面白い回答を考えた。ただ考えるだけでも楽しく、瞬はこれを考えた澤口葵と言う人物を素直に凄いと思った。
「こんなワクワクさせてくれるような事を考える澤口先輩ってどんな人なんだろう。やばっ、もうこんな時間だ」
瞬は澤口葵に会ったことがない。何度か入部届を握りしめてオカルト同好会の部室である図書室奥にある書籍倉庫の前まで行ったのだが、結局踏ん切りが着かずに今に至る。休み時間も教室で読書に勤しんでいたので澤口葵との接点はなかった。
今日は金曜なので明日明後日は休みなのだが、時間は2時を回っていた為、瞬は高揚した気持ちを抑えながらベッドへ潜り込むのだった。