八ターン目
七ターン目、ヒエロウィストのターン。
彼はふたたび同じ作業を繰り返す。
プレイングカードFを召喚し、同化させる。
すでにそのステータスはヤヴァイことになってる。
HP 3400
ATK 3400
DEF 3500
AGI 200
すでに勝ちを手中に収めたようにヒエロウィストは言う。
「見ろよこの戦闘力!
ガッチガチだぞ!
ゾックゾクするだろ!」
くっ……くやしいです!
泣けるぜ。
お師匠様が操る強力な召喚獣にも届き得る。
色々制約があるとはいえ、なかなかに恐ろしい召喚獣だ。
「ヒエロウィスト、ターンエンド!
ゲントのターン!」
八ターン目。
とうとう八ターン目だ。
九ターンキルまで、猶予はあと二ターン。
僕はあと二回の攻撃で、あの成長し続ける怪物を攻略しなければならない。
ひっじょ~~~~にきびしぃ!
考え方自体は、やはり間違ってないんだ。
だからあとは、一体あの召喚獣の正体は何者なのか、ということ。
ただそれだけなんだ。
正体を暴き、それを殺すことのできる剣を使用すればいい。
それだけで、僕の勝利なのだ。
なのに、それがなんとも難しい。
あの召喚獣の正体候補=『王女』を除いた映像の七人。
の中で、後世まで崇められるに至った人物。
それは一体誰なのかを、僕は考えなければならない。
僕は抜群の記憶力で、光の欠片の映像を思いだす。
そのときに、頭の中に響いてきたいくつかの文章。
それを正確に思いだす。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『王女』は『商人』の仕掛けた悪意の毒により、命を落とした。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『農民』は『僧侶』の短剣により絶命した。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『道化師』は『農民』の手にした剣により、胸を貫かれ絶命した。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『王子』は『貴族』の持ち込んだ剣により、首を撥ねられた。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『貴族』は『兵士』の剣により、絶命した。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『兵士』は『王女』に短剣で刺され、絶命した。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『商人』は『王子』の剣で、胸を貫かれた。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『農民』は五人の死体を確認した。
……これをそのまま解釈しようとすれば、人が生き返ったり死んだりしてることになる。
もちろんそんなことはありえない。
なら、こう考えればどうか。
時系列がごっちゃになっている。
それだと、なにも矛盾は発生しないハズ。
あくまでこれはこの順番に見せられ、そして、頭の中で声が響いてきただけで、その順番通り事が起きたとは限らない。
とゆうか、前述の理由――つまり矛盾が発生することにより、順番通りに起きたなんてことはありえない。
時系列は間違いなくごっちゃになっている。
まずはこの正しい時系列を、大まかに把握する。
祝福の鐘がまた一つ鳴り、『農民』は五人の死体を確認した。
この一文があるから、農民は、五人よりも後に死んだと確定できる。
ではその五人とは?
それは人数や文章と一致する五人、すなわち、その時、城の最上階にいた五人――
王女、王子、商人、兵士、貴族だ。
その前に、農民、道化師、僧侶は部屋を出ていたから、おそらくは、鐘の音が鳴り始め、農民が最上階の五人を呼びにきたんだろう。
そこで農民は、五人の死体を目の当たりにする。
すなわち、城の中で起こった事件は、二つに分けられるのだ。
城の最上階=密室内で五人が死んだ事件と、密室外で二人が死んだ事件。
農民の生き死にで、どちらが先に起こったかが判別できる。
五人の死体を確認したとき、農民は生きているので、密室内での事件が先、密室外での事件があと、ということになる。
そして、密室外の事件では、農民を含む二人が亡くなっている。
農民と道化師だ。
一人だけ助かったのは僧侶。
彼が短剣により、農民を殺している。
農民はその前に道化師を殺しているから、順番としては、
道化師→農民、の順番で死んでいることになる。
生き残った僧侶は、道化師を殺した農民を殺している。
ただ一人、僧侶だけが殺されなかった。
はたして彼はこの物語において、どんな役割を果たしたのか。
具体的に何が起こったのかは、僕にはわからない。
けれど、必ずしもすべてを把握する必要はない。
一体何があったのか、誰が誰を殺したのか、それを完ぺきに把握する必要など、ない。
最終的に、一体この七人の中で、誰が人々に崇められるようになったのか。
それがここでは問題なんだ。
密室内で死んでいた五人にその可能性は薄い……気がする。
だって、その理由がない。
なら、残りの三人か。
これを、映像と音声により正しく解釈しようとするなら、密室内での死体を見てとち狂った農民が道化師を殺す。
そしてそれを目撃した僧侶が農民を殺す。
農民は、密室内の五人を殺したわけじゃなかったかもしれない。
けれど、とち狂って道化師を殺してしまい、その後、僧侶によって処刑された。
そして、人々は、狂気に取り憑かれた連続殺人犯を葬った僧侶を、後世まで崇めるにいたった――
と、まぁ、そう解釈すれば、矛盾はない気がする。
なんたって、密室内の五人の死体を目撃し、その後道化師を殺した農民は、事情を知らない者からすれば、自国の王女と他国の王子を殺した凶悪犯として見られていても不思議はない。
そんな凶悪犯を排除した徳高き僧侶は、後世まで語り継がれてしかるべきではないか――
……うん、なにも問題はないように思える。
僕のこの推理、なにも穴などない……!
――たぶんね。
そして何より、ちょうど良い事に、僕はすでに『僧侶を殺す剣』を持っている。
ならもう、決まりだろう。
僕はそう決めたが、失敗した時のことも考え、クリスタルエッグを破壊、アイテムを入手しようとするが……あえなくハズレが飛び出していた。
……糞ぅ。
まぁいい。気を取り直し、僕は宣言する。
「魔法アイテム使用『僧侶を殺す剣』!」
僕の宣言と同時、例によって例のごとく、宙に、なにやら出現。
それは――――神様のようだった。
神々しく、長い髪の、慈愛に満ちた、温和な瞳。
巨大なそれが、プリンセス・エラリィに微笑みかける。
次の瞬間。
ぴしっ、と、その神々しいお姿にヒビが入る。
ぴしっ、ぴししっ、ばりりりりぃ、
包装紙でも無造作に破り捨てるかのような音が響き渡り――
するとひび割れた神様の中から、まっくろな、邪悪な笑みを浮かべた、アクマのような存在が現れる。
アクマのような存在は、プリンセス・エラリィをあざ笑うかのように挑発し、周りを飛び回り、からかい倒し、そして、姿を消す。
と同時に浮かびあがる文字。
MISS。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
僕は失敗した。
違った。
僧侶ではなかった。
まだだ…………まだ僕は、真相に辿り着いていない…………!
浅すぎた。
もっと、もっと深く、物語に潜り込まなければ。
もっとだ、もっと、もっと、もっと、深く…………
ジャッジメントが僕のターンの終わりを告げ、ヒエロウィストが召喚獣を呼び出し、同化させているようだけど、その間も、僕は考えていた。
誰だ……一体誰が、召喚獣になるまで崇められるに至ったんだ…………!