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黒毛連盟 2

「大事件ないし大きなイベントねぇ……」


 人さし指を口元に当てて可愛らしく考え込むミナトさん。

 それからミナトさんはいくつか事件の名前をあげたけど、どれも僕の琴線には触れなかった。


「他には?」

「あとは、ダイヤが盗まれたことが……あっ」

「どしました?」

「いえ、いいの。あれは私のカンチガイだったわ」

「――?」

「あとは、そうね…………」


 彼女が悩んでいると、警備兵の男が横から言ってくる。


「大きなイベントと言えば、旅のバザーが来たのが、ちょうど半年ほど前ではありませんでしたかな?」


 言われてミナトさん、ぽんっと手を打つ。


「そうそう、そうだわ。

 思いだした。妹に頼まれて、連れて行った覚えがあるもの」

「バザー、ですか……」


 僕は考え込む。

 半年ほど前に現れた黒毛連盟の会長。

 時を同じくしてやってきた旅のバザー。

 ひょっとして、これは…………


「ミナトさん、バザーが開かれた場所はわかりますか?」

「ええ、噴水広場から、少し西に行った辺りね」

「じゃあ、人を派遣して、そのあたりに露店や店、家を構える人に聞き込みを行ってください」

「聞き込み? なにを聞くの?」


 不思議そうに問うてくるミナトさんへ、僕はぴんっと人さし指を立て言ってやる。


「――バザー開催中、骨董品を買った黒髪の人間を見かけなかったか」

「……わかったわ」

「それと、黒毛連盟の会員全員に接触して、話を聞いて下さい。

 バザー期間中、そこでなにか骨董品を買った人間がいるか。

 あるいはそんな黒髪の人間を知っているか」


 わかったわ、ともう一度うなずくミナトさん。

 話の内容から、なんとなく僕の言わんとすることを察したのかもしれない。

 ミナトさんは警備兵に僕の言ったことを告げ、さらに彼女は騎士団の団員にも伝令を飛ばすと宣言した。

 てきぱきと警備兵や近くにいた団員に指示を飛ばすと、彼女は僕の方をくるりと振り返る。


「ゲント、説明をお願い」


 ほいきた。


「初歩的なことですよ、ミナトさん。

 黒毛連盟の主催者は、骨董品店の店主だった。

 そして彼が現れたのは、半年前のバザー開催期間と前後する。

 さらに骨董品が黒毛連盟の興味の中心になっていた。

 なら、店主の目的は明らかじゃないですか」

「バザーで購入された骨董品を探している?」

「はい。そんで、購入したのは黒髪の人間だった。

 目的の物がなんなのかは僕にはわかりません。

 けど、店主はおそらく、バザーの商人から骨董品の情報を手に入れたんでしょう。

 でもって、商人が、それを黒髪の人物に売り渡したことも聞いた」

「なるほど……店主はそれを手に入れるため、黒毛連盟を立ち上げ、彼らから、目的の骨董品を購入した人物を探り出そうとしたわけね。

 彼らの中に目的のブツを購入した人間がいればそれでよし。

 いなくても、黒髪同士なにかつながりがあるかもしれない、と」

「そゆこと」


 だけどまぁ、僕は黒毛連盟の会員の中に、その人物はいるんじゃないかと踏んでいた。

 もちろん絶対ではないけれど。

 理由の一つに、この街に黒髪の人間が少ないことがあげられる。

 だったら、同じ黒髪の連中がなにかをしていたら、自分も仲間に加わりたいって思うんじゃないか。


 それに、バザーで骨董品を買うくらいだから、決して骨董品はキライじゃないだろう。

 さらに今朝方になって店主が失踪した。

 それはすでに目的のブツを所有している人物を特定した、ってことだ。

 ならば、ごく最近黒毛連盟に加わった人間の中に、その人物がいる可能性が高い。


「最近加わった人物ね……よし、今朝方警備兵に通報してきた男の元を訪ねてみましょう。

 色々わかるかもしれないわ」


 と、ゆーわけで。

 僕たちは警備兵の男に連れられて、通報してきた男の元に向かった。

 彼は快く情報を話してくれた。

 それにより僕たちは黒毛連盟の古株で、内部事情にも詳しく、会長である店主とも親しくしていた男と接触することに成功。


 けれど、その男から話を聞くまでもなかった。

 なぜなら、彼に事情を説明している間に、黒毛連盟の会員に接触していた騎士団員の一人が、僕たちを見つけ、話しかけてきたからだ。


 団員は酷く慌てていた。


「ふ、副団長、す、すぐに来てください、じ、事件です!

 黒毛連盟の会長がやらかしました!」


 なにか起こったらしい。

 すでに店主は事件を起こし逃げた後なのだろうか?

 ミナトさんはすぐには団員の後を追わず、同行していた警備兵の男にこう告げる。


「一時的に、この街を封鎖して。

 もちろんすべての人間の出入りを防ぐのは難しいでしょうけど、可能な限りお願いします」

「わ、わかりました」


 具体的な序列はわからんけど、五十過ぎと思しき黒服のおっさんよりも、白の制服を着こんだミナトさんの方が立場は上らしい。

 男は指示を実行するため、すぐにいずこかへと駆けてゆく。


 その後ようやく、僕たちは団員の後を追う。

 途中、街を巡回していた団長やほか数名の団員たちと合流し、僕たちはその屋敷へとたどり着く。


「うわぁ、でけぇ」


 見上げるくらいの大きな屋敷。

 この街には金持ち連中がわんさかいるけど、その中でも上の方なんじゃあないだろうか。

 ……て、見惚れてる場合じゃない。

 僕は団長たちに少し遅れて中へ入る。

 するとこの屋敷の主人だろう黒髪の男が、玄関ホールにて待ち受けていた。


「盗まれたものは?」


 団長が聞いている。


「色々です。で、ですが、彼とした話からすると、おそらく目的のものはバザーで購入したルビーの首飾りでしょう。

 それ以外にも貴重品を色々盗まれたようですが……詳しくはわかりません」

「なるほどな。それで、盗んだ男はどこへ行った?

 今、どんな服装をしている?」


 犯人に関する質問を矢継ぎ早に行い、団長はてきぱきと情報をあつめていく。

 それは数分ほどで完了した。

 館の主人を質問攻めにしていた団長は、一段落つくと、くるりとこちらを振り返り、


「聞いたな? お前たちは犯人を追え。

 俺は現場を確認したあと、すぐに後を追う」

『わかりました!』


 団員たちが口々に答え、我先にとこぞって屋敷を飛び出してゆく。

 僕もそれに続く。

 ミナトさんは僕より少し遅れて現れた。


「すでに街中には警備兵がうようよしているはずだから、まずは彼らと接触して、情報を伝えましょう。

 その上で、犯人を追いこみます」


 うなずく。

 彼女の言葉通り、すぐに黒服の警備兵は見つかった。

 彼に事情を話し、仲間たちと連携を取ってもらう。


 情報は、瞬く間に街を駆け巡った。

 騎士団や警備兵だけじゃない。

 すでに事件は一般の人々にも広まっているだろう。

 僕たちはじわじわと犯人を追いつめているハズだ。


 はて、犯人の胸中とは、一体いかなるものなのか。

 僕は漠然と、犯人のことを考えていた。






 まったくもってマズイことになった。

 時間こそかかったものの、計画は順調だった。

 一体何が間違っていたのか。

 少なくとも、目的のブツであるルビーの首飾りの情報を手に入れ、客を装って屋敷に入り込み、主人のスキを窺って目的のブツ――ついでに持ち運びやすい金目のもの数品――を手に入れるまでは問題なかったはずだ。


 その後、依頼人と接触しようとのんびり街中を歩きまわっていたのが悪かったのか。

 とっととこの街から出ればよかったというのか。

 だが、受け渡しはこの街で行われる予定だった。

 情報を手に入れた後すぐに伝令を飛ばしたから、今この街に、依頼人は来ているはずなのだ。

 あとはその人物に依頼品を渡し、目ン玉の飛び出るほどの高額な報酬を受け取り、この街をトンずらすればよかった。


 そのハズ、だったのに。

 未だ自分は依頼人にも会えず、そして、なぜか迅速に張られた包囲網により、こんなところにまで追い詰められていた。


 こんなところ――

 

 街を一望できる、物見の塔の中。

 今、犯人の男はそこにいた。

 いや、追い詰められていた、と言った方が正しい。

 来たくて来たわけではない。

 白と黒の制服に巧みに追いまわされ、気付けばこんな場所まで追い込まれていた。


 まったくもって不愉快だ。

 このままでは捕まってしまう。


 ――否。


 捕まるわけにはいかない。

 せっかく目の前に、一生かかっても稼ぎきれないほどの巨大な報酬がぶら下がっているというのに。

 こんなところで捕まってなるものか。


 しかし現状は――


「犯人に告ぐ、悪いことは言わない!

 無駄な抵抗をやめ、今すぐそこから出て来るんだ!」


 すでに、面も居場所も割れている。

 彼は考える。

 どうにかして、逆転する手立てはないか、と。


 その時、静寂の中で、彼は確かに聞いた。



 ことり……



 という、それはそれは、小さな小さな物音を。

 人気はないと思っていた。

 立ち入りを禁止されてこそいないものの、ここは普段、人が好んで近づくような場所ではない。

 だからこそ、逃げこめた、ともいえる。

 が、はて、今の物音はなんだ?


 他に誰かいる――?


 その可能性を認識し、彼の顔が不敵にゆがむ。

 ひょっとしたら、これはチャンスかもしれない。

 祈りが神に通じたのだ。

 やはり、神様には縋っておくものだ。

 祈りを捧げるだけならタダなのだから。


 彼は物音のした方へと向かう。

 階下から、警備兵の突入してくる気配がうかがえる。

 もはや一刻の猶予もない。

 彼は一足とびに音のした物陰に飛び込んでいた。


「きゃっ!」


 そこにいたのは……幼い女の子だった。

 怯えた瞳でこちらを見つめていることから、どうやら状況は把握しているらしい。

 彼はますます下卑た笑みを浮かべ、言ってやった。


「おぢょーちゃぁあああん、大人しくしてまちょーね?

 良い子にしてたら、優しくしてあげるよおおおおお?

 でむぉぉぉ、抵抗したら、痛くしちゃうからぬぅえええええええ?」

「ひぃ!」


 怯える瞳で後ずさりする少女の体を、男は強く抱きしめていた。

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