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ヤバイトオモッタガ、セイヨクヲオサエキレナカッタ

 はたして、こうして無事投獄されてから、一体何時間たったんだろう。

 今、何時ごろなんだろう。

 ジャージの中に入れて置いたものは獄卒に没収され、この世界に来たときに身に付けていたもの以外、今の僕には残されていない。

 

 と、いっても。元々大したものなんか持ってなかったけど。

 それでも、時間がわからないのは惜しい。ってか不安。

 いや……そもそも、この世界で時計が正確に把握できるんだろうか?

 てか、元の世界の時間とこの世界の時間が一致しているとは、そもそも限らないわけだし……

 となると、没収されたものも、もうどうでもいっか。


 僕に残されたものは……もう、この身一つしかないんだ。

 大変残念なことにね。

 もう踏んだり蹴ったりだね。


 今日一日でいろんなことがあった、ありすぎた。

 待ちわびたゲームソフトをようやく手に入れることが出来たと思ったら帰りにDQNに強奪されて。

 そんで泣きじゃくってたら念願の異世界に、いつの間にか来ちゃってて。

 そんでもってわけのわからない内にゴタゴタに巻き込まれて。

 しまいには、投獄される有様ですよ。


 なんだこの人生。

 元々楽しい人生でもなかったけど、まともな部屋とベッドと食事と娯楽があるだけ、前の生活の方が何十倍もマシだ。

 晴れてあこがれていた異世界に来ても。

 こうして囚人として牢獄に囚われてるんじゃぁ、まったく意味がない。

 違うんだ。

 僕が望んだ異世界はこうじゃないんだ。

 牢になんて閉じ込められたくなかったんだ。

 囚人なんかになりたくなかったんだ。


 僕は、ゲームの主人公になりたかっただけなんだ。

 ゲームの主人公になって、困っている人を助ける! ……ってのは結構どーでもよくて。

 それよりも、リアルなゲームを楽しみたかった。

 リアルなファンタジー世界の中で、リアルなモンスターや魔法にふれあい、のんびりと、ゲーム世界を楽しむ。

 僕が求めていたのはそれだったんだ。

 なのに。僕、囚人。

 あほか!


 狭く、暗く、肌寒く、そして臭い部屋。

 それが今の僕の世界のすべて。

 ……あ、いや、違う。

 僕以外にもう二人、この四人部屋には存在している。

 

 彼らとの出会いは、そう、体感時間的に、一時間ほど前になるんだろうか。






 E4プリズンに到着後、各種手続きを経て、僕は今いる冷たい牢屋に投獄された。

 めでたく囚人の仲間入りってヤツだ。

 僕より投獄されるべき人間は他にもたくさんいるだろうにね。

 僕のゲームソフトを強奪したDQNとか。

 あいつらこそ収監されるべきなのに。

 一体なぜ、いたって善良な僕が囚われの身とならねばならんのか。

 ――理解に苦しむね。

 まったく。ぷんぷん。激おこだよね。


 で、残念ながら房は独房ではなく、四人部屋だった。

 刑務官の手により収監され、とりあえずそこにあった二段ベッドに腰掛けた僕に話しかけてきたのが、先客の二人だった。


「よお、俺はニート」

「ちっ……お、俺はヒッキーだ……ちっ」


 どちらも三十代ほどで、ニートと名乗った人はひょろ長く。

 ヒッキーと名乗った人は、でっぷりと太っていた。

 同じ監獄にいて同じ食事を口にしているだろうに、どうしてこうも体型が違うのか――

 と一瞬思ったけど、まぁ、元から、と考えるのが妥当だよね。


「オラ犬飼玄人、よろしくな」

「……で、お前はなぜこの監獄に?」


 そう問うてくるニートさんに、今日一日にあったことをかいつまんで話す。

 もちろん、僕が異世界から来たってことは、ミンナニナイショダヨ。

 そこら辺、馬鹿正直に話すと、頭のおかしなヤツだって思われること必至だからね。


「ふーん、なるほどな」


 あんま興味ない風に彼は返す。

 聞くところによると、この二人は僕が最初にたどり着いた村の住人らしい。

 とゆうか、僕がこの世界に最初にいた地点から、街道を辿り、村の反対側に、ここは位置しているらしい。


「お二人は、どうして捕まったんです?」

「ああ、俺はずっとぶらぶらしてたんだけどな、ある時性欲が抑えられなくなって、女の子を襲おうとしちまったんだよ。いやぁ、ヤヴァイと思ったんだがな。どうしても性欲が抑えられなくなってな」


 ははは、と彼は快活に笑う。


「………………」

「ちっ……お、俺もどうしても性欲が、お、抑えられなくってな」


 お前もかよっ!

 ――クズじゃんっ!


 この二人、犯罪行為に及んでも、当然、召喚裁判で勝利すれば罪は無効になることは知っていた。この世界の住人だからね。知らない方がおかしい。

 だが、それが彼らを狂わせた。

 召喚裁判で勝利した方が、この世界の正義なのだ。

 ぶっちゃけ、何をしようと、最終的に召喚裁判で勝利すればいい。

 それが、この世界の絶対的なルールなのだから。


 けど――負けた。

 彼らは負けた。

 犯罪行為に及ぼうとして、だが未遂のまま召喚裁判に突入し――負けた。

 うん、もうね。

 どうしようもねぇな、コイツら。

 あんまり関わり合いにならない方がいーかもだけど。

 同じ房だからして、そーゆーわけにもいかないわけで。


 ……ま、こーゆう犯罪者はあんま怒らせない方がいいよね。

 テキトーに相手しとこうって、心に誓う僕なのでしたよ。



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