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試練喚

「さて、じゃあ、さっそく、召喚裁判と行こうか」


 廃村にもどったのはお昼を少しまわった時刻だった。

 それから僕たちはお師匠様のつくったお昼ごはんを食べ、さっそく外へ。

 お師匠様のあとを着いてゆくと、そこは左右を木々、後ろをガケにかこまれた、万が一にも、僕たちのことが見つからない場所だった。


 召喚裁判は、手のうちを見られると不利になる。

 情報が大事なんだ。意味なく自らの召喚獣を晒すことはない。

 今、この村にはお師匠さまと僕とシベ子しかいないわけだけど、さすがに自分でお師匠様と呼べ、というだけのことはあり、用心深い。


 お師匠様は涼しげな顔で、小さくつぶやく。


「召喚裁判」


 冷静で淡々とした声だった。

 刹那、声にこたえて空気が変り、空中にジャッジメントが出現。

 彼女が口を開くまえに、お師匠様は告げていた。


「試練喚だ」

「試練喚?」


 思わず問いかえす。

 召喚裁判にて二度勝利をおさめている僕が、それでも聞きなれない言葉だった。

 お師匠様は僕の発言を咎めるでもなくイラつくでもなく、微笑して答えてくれる。


「試練喚――それは、リスクを伴わない召喚裁判。勝っても負けても何もなく、ただ、純粋な召喚獣同士のバトルを行うための召喚。

 言うなれば、召喚裁判ならぬ『召喚バトル』ってところか。

 これは主に親が、幼い我が子を鍛えるために行うものだが、起源はある商人だと言われている」

「商人?」

「ああ。たとえばゲント、アンタがここから別の地方に行くとする。

 すると、当然、出現するモンスターも違ってくるわけだ。

 それはちょっと怖くないか? あらかじめどんな召喚獣が出現するのかわかっていた方が安心だろう?」


 まぁ、たしかに。


「その昔、そこに目を付け商人がいたんだよ。

 お金を取って、客が旅立とうとしている地方の召喚獣を召喚し、バトルさせ、一体どんな種類の召喚獣がいるのかを教えてやる。

 客はあらかじめ傾向と対策を練ることが出来るというメリットがあり。

 商人の方はそれで金が得られる、というメリットがある。

 それが起源だが、未知の土地に行く前に自分の強さを測る、といった意味で、人々はそれを試練、と捕え、試練喚、という言葉が定着したのさ」

「はぁ、なるほど」


 なかなか深いんだなぁ。

 歴史を感じるぜ!


「もっとも、今は昔ほど情報が入ってこないわけじゃないからねぇ。

 旅人なども頻繁に行き来しているし、本来の意味での試練喚をしなくても、情報が手に入らないわけでもないんだがね。

 まぁ、金に余裕があるならやっておくのもいいかもね」


 試練喚か。

 お世話になるかどうかわからないけど、覚えといて損はないかな。


「そーゆうことで……いいかい?」


 お師匠様の問いかけに、ジャッジメントはうなずく。

 そして、リスクのない召喚裁判が始まる。

 いや、召喚バトル、と言った方が正しいか。

 ジャッジメントが凛とした声で告げる。


「では、双方、デッキを構築、もしくは選択してください」


 ――そして、召喚バトルが始まった。



 ………………

 ……………

 ………


 決着はたった二ターンでついた。

 強い、強すぎる。

 てか、今まで戦った二人なんか比べものにならない。

 いや、それは、召喚裁判だけでなく、今までフィールドで戦った召喚獣たち全部と比べても、圧倒的に強かった。

 もし、お師匠様の召喚獣に太刀打ちできる召喚獣がいるとしたら、僕の知る限りでは、ティンバーの町にくるとちゅう遭遇した、あの派手な男の召喚獣くらいだ。

 どう考えても規格外だった。

 

 召喚バトルが終わり、ジャッジメントや召喚獣が消えると、僕たちは並んで手頃な岩にしゃがみ込んだ。

 そこで僕は聞いてみる。


「あの、お師匠様って、実は、相当強いんですか…………?」


 ん? とお師匠様、なんでもない風に、


「まぁ、そうさね。

 アタシに勝てる奴なんざぁ、この世界に十人もいないだろうねぇ」

「げっ、マジで?」

「五本の指に入る、って言ったら言い過ぎだろうけどね。

 まぁ、十本の指には入るさね」


 そんなとんでもないことを、この色っぽい女性は、さらりと言ってのけるのだ。


「あの……お師匠様って、一体何者ですか?

 召喚裁判で十本の指に入るような人が、一体、こんな廃村でなにを……?」


 おそるおそる聞いてみる。

 聞かずにはいられなかった。

 十本の指に入るほどの実力者が立ち寄る村。

 ここに、一体なにがあるのか。


「なにって、最初にゆっただろ?

 アタシは、旅の途中で、たまたま、ここに立ち寄っただけさ」


 ひとことひとこと、ゆっくりと、言い含めるように。


「それで、ここがちょっとばかり気に入っちまったのさ。

 だから、しばらく滞在している――それだけさ」


 うーん、なんとなく、はぐらかされてる気がする。

 僕はさらに聞いてみる。


「あの、じゃ、じゃあ、一体なんの旅なんですか?」

「んー、そうさねぇ。心を洗う旅、とでも言っておくかねぇ」


 いやわかんねぇよ。

 心を洗う旅ってなにさ。

 自分探しみたいなもんか?

 気にはなるけど、これ以上追及しても、僕の望む答えはとうてい返ってきそうもない。

 お師匠様もあまり語りたくない様子なので、これぐらいにしておくのが賢明か。


 それから他愛もない話をし、少し休憩したあと、僕たちはまた、召喚バトルをした。

 僕が使用した召喚獣はさっきと同じだったけど、お師匠様は変えてきた。

 そしてそれは次も同じだった。

 一回目、二回目、三回目と、お師匠様は、全部ちがう召喚獣を使ってきた。

 それは、最初に彼女自身が口にしたように、僕を鍛え上げるためだろう。


 お師匠様が僕の話をどこまで信じたのかはわからない。

 だけど、それでも、僕のことを思ってくれているのはその態度や口調でわかる。

 正直、じーんと来る。

 あっちの世界で僕に関心を持つ人間はそう多くなかった。


 思い当たるフシと言ったらたった一つだけ。

 たった一人だけ、あっちの世界にも、僕に優しくしてくれる人がいた。

 お師匠様には、その人に似た匂いを感じる。

 だから僕は、ボロ負け続きの召喚バトルでも、気持ちよく勝負することが出来たのだった。



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