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ヤンチャVSグレイト

「話はまとまりましたね。

 さて、何の罪を問いますか?」


 凛とした声でジャッジメントが言い、イジワルな声でソンムスが答える。


「そこの地面にツボやら宝石やらが無残に破壊されているだろう? その罪だ」


 ジャッジメントはこくりと一つうなずいて、


「双方、使用デッキを構築、または選択してください」


 言葉の意味はわからんが、とにかくソンムスと僕の代理人となった男の人はなにやら準備をしているらしい。

 それからほどなく、


「では、召喚獣を召喚します」


 ジャッジメントの言葉と同時、ぶぅん、とわずかに空間が歪む。

 少女の力強い呼びかけに応え、場に二体の召喚獣が召喚される。


「ぶるんひひひひひぅ!」


 初めに視界に飛び込んできたのは、荒ぶる一体の牛だった。


「ソンムス、グレイトブル!」


 グレイトブル、そんな名前らしい。

 名前の通り牛らしいけど、やけにでかい牛だ。

 普通の牛の二、三倍くらいありそうで。

 でもって黒々とした毛並の下に、はち切れんばかりの筋肉が隆起している。

 やべぇ。ちょ~強そうなんですけど。いやマジで。

 これ百倍強いでしょ。僕の百倍強いでしょ?

 ……いや、千倍か?

 焼肉にしたら美味そうかなとか、筋肉質だからマズイかなとか、のんきにヨダレたらしてる場合じゃねぇやっ。

 

 でもって次に、代理を引き受けてくれた男の召喚獣が出現。


「きゅーいきゅいきゅい」


 あら可愛い。

 アイドル声優のようなやんごとなき可愛いらしい鳴き声ですこと。


「ジョン、ヤンチャうさぎ!」


 ………ヤンチャて。おい。

 いや、確かにヤンチャそうなうさぎではある。

 そしてデカイ。

 まるまるもりもり太ったそのうさぎは、牛くらいの大きさはあるね。

 好奇心旺盛そうなつぶらな目玉をくりくり、口元をふにふにさせてる。

 

 強そうか弱そうかで言えば、すっごい強そう。

 いやいやいや、だが待ってくれ。

 そもそも強さとは何だろうか?

 各人、それぞれ定義はあろうが、一つ確実に言えることは、大事なのは相対的な強さ、と言うことではなかろうか。

 もしもこのうさぎがたった一匹で召喚されて来たならば。

 僕は素直にこう思っただろう。


「べっ、このうさぎマジべっ」


 だが――先にも述べたように、往々にして強さとは相対的に語られるものなのだ。


 では、それを踏まえて、うさぎに相対している召喚獣を見てみよう。


 牛。超デカイ。超鼻息。ツノやべぇ、超歪曲。超筋肉質。超血走った目。全身から沸き立つ湯気。気が触れたような立ち居振る舞い。




 ――逆 立 ち し て も 勝 て そ う に な い !




 絶望した! 逆立ちしても勝てそうにない現状に絶望した!


 僕は男に抗議する。せずにはいられない。


「ウェイウェイウェイ! ちょ待てよ! なんだよヤンチャうさぎって! グレイトに対するヤンチャって何だよ! グレイトは偉大なティチャーに冠する称号でもあるけど、ヤンチャなんて中途半端な元ヤンが『昔ヤンチャしてました(笑)』で語るほどしょぼい代物でしょ! グレイトとヤンチャじゃ格が違いすぎるでしょおおおおお! てかちょ~~~~弱いでしょそのうさぎ! ねぇあんたなんでわざわざ名乗り出たの⁉ 僕の人生かかってるんだよ⁉」


 いささか興奮気味に問いかける僕を男は振り返り、へらっ、と笑う。


「いやいや、そんなこと言われましても、相手がどんな召喚獣を出してくるかなんて、私にはわかりませんからねぇ」


 僕は一瞬にして男のウソを見破った。


「それは違うよ!」

「な、なにいいいいいいい⁉」

「だってそうでしょ? 村人の話を総合すると、あの村長の息子――ソンムスは、今までに何度も同じような手で女の子を自分の屋敷のメイドさんにしてきたんでしょ? で、断れば、召喚裁判で叩きのめしていたハズだ。――じゃあなぜ、言いなりになった女の子たちは召喚裁判で彼を叩きのめさなかったのか? ……できなかったんだよ。なぜなら、女の子たちは、ソンムスが、グレイトブルってゆう、恐らくはマジ超tueeeeeee! 召喚獣を所持してるのを知っていたからだ。だからほとんどの女の子たちは彼の言い分に従うほかなかった。……何が言いたいかわかるよね? 

つまり、みんな知ってるってことだよ。

そう、この村の人間ならね」


 決まった。

 言い逃れできないほどの僕の超推理。

 男はぐぅの音も出ない。

 と思いきや。

 コイツ……笑った?


「へへ、ぼっちゃん。そりゃ、あきまへん。そりゃ、あきまへんで」

「え、な、なにが?」


 なんでイキナリ関西弁やねん、とツッコむのも忘れて問い返す。


「ぼっちゃん……わいがこの村の人間って、ただの一度でも言いましたかね?」

「い、言ってない」

「なら、先ほどの推理は無効! わいがこの村の人間であることを証明して初めて、ぼっちゃん、あんたはんはこのわいに難癖を付けられるんでっせ! さぁ、どうですぼっちゃん! わいがこの村の人間であるって言う証拠が、果たしてあるんですかいね!」

「うん。あるよ」

「なん……だと……?」


 僕はおもむろにギャラリーのおじいさんの一人を指さす。

 そして、問う。


「ねぇ、おじいさん。あの人、この村の人ですよね」

「そだよ」


 おじいさんは実にフランクに答えてくれた。


「証明終了。――他に何か言うことは?」


 男はしばらく、ぐぬぬ、と唸っていたが。

 やがて開き直ったように明るく笑いだす。


「あっははぁ、バレちった」


 ちっとも悪びれたところのないその態度。

 こ、この男、一体何を企んでいる…………?

 たじろぐ僕の目の前で、召喚裁判を行っている最中の二人は。

 敵であるハズの二人は。

 軽く親指を立てあうのだった。


「いぇ~い!」

「いぇ~い!」

「よっしゃ! うまいこと引っかけたな。お前には後で特別ボーナスを出そう」

「うっはっ、至福!」


 ――つまりはそーゆーことだった。

 仕組まれていたのだ。初めから。何もかも。


 ……あとはもう、良く覚えてない。

 彼らは茶番となった召喚バトルを繰り広げていたが、すでに敗北が確定していた僕には、もはやそれはどうでもいいことだった。


 僕はがっくりとうなだれ、ただ地面を見つめていた。

 アリさんが、必死に食料を運んでいた。

 それがその時の最後の記憶で――





 気付くと僕はお縄で。

 兵士っぽい人に連れられ、夜の山道を歩いていた。





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