召喚獣を仲間にしよう④
その夜はなかなか眠れなかった。
ふだん寝つきは悪くないほうだけど、たまにこんな夜がある。
でも、もう大丈夫。
今夜からは、多い日でも安心(眠りにつくまでの時間が)。
だって、僕には心強い仲間が出来たんだ。
常夜灯の、淡いオレンジだけが支配する闇の中、僕は叫ぶ。
「いでよ! べしゃりバット!」
むふふ。そうなのだ。
べしゃりバットの力で眠りについちゃおうって魂胆なのだ。
ぶつぶつ羊を数えるよりよっぽど効果的ってもんだろう。
だけど――――
し~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん
いつまで待ってもべしゃりバットがはせ参じる気配はない。
「あり~~~~~~~?」
僕は右手をあげ、ちょっとだけカッコつけたポーズのまま、固まっていた。
と、その時、となりのベッドがもぞもぞ動き、リリアナが顔を覗かせる。
「……あんた、こんな夜中になに騒いでんの?」
「あ、い、いや、なんか眠れないから、べしゃりバットを呼んで、んでもってくだらない話してもらって、眠りにつこうかなぁー、って…………」
リリアナは眠たげにマブタをこすり、
「呼ぶって……誰が?」
「僕が」
「どうやって?」
「だから、召喚裁判みたいに…………」
「ばーか」
「え?」
「召喚裁判のとき、あんたが私を呼べるのは、ジャッジメントが力を貸してるから。
より正確に言えば、あれはジャッジメントの力であって、あんたの力じゃないの。
――おわかり?」
出来の悪い生徒にいい聞かせるようにリリアナは言う。
「え、あれ? そ、そうなの?」
「そーなの」
あ、れー?
えーーー、じゃあ、ボク、ちょ~~~~~恥ずかしくね?
呼べもしないのに、呼べると思って召喚ポーズ取っちゃって、恥ずかしくね?
うわー、これじゃあ中二病じゃあないですか!
僕違うのに! ただゲーム好きなだけで中二病とかじゃあないのに!
にわかに死にたくなる僕に、リリアナは一言だけ吐き捨てて、ふたたび眠りについた。
「一応ゆっとくけど、人間に魔法は使えないから」
えー。
じゃあどうやって召喚しろってんだよ。
え、もしかして、召喚裁判のときにしか召喚できないの?
マジカヨー
翌日、次のターゲットを捕えるための下準備として、森へと向かうその道中。
ぷっ、と、ふいにリリアナが吹きだした。
それを見て僕はピーンと来たね。
あ、こりゃ、昨夜のことをからかわれるんだってね。
でもってその予感は大当たり。
「ねぇ、あんた夜中、変なことしてたでしょ」
「う、そ、そのことは忘れてよ! すでにトラウマになってるんだから!」
「うーんでもねぇ、それなんだけど……なんか、あった気がするのよねぇ」
「あるって、何が?」
「召喚裁判以外にも、召喚獣を、呼び出す方法」
「え、マジで? 教えて教えて!」
勢いこんで訊ねる僕。
けども、返ってきた答えは期待したものじゃあなかった。
「よく覚えてないのよねー。なーんかあった気がするけど」
「えー、思いだしてよー。召喚できればちょー便利ジャン」
「知らないわよそんなこと。あー、でも、ほら、つぎの町にいけば、なんか手がかりえられるかも」
「あー、そうだね。そっか、つぎの町ね」
そうだ。つぎの町に行ったら、色々情報を仕入れないとな。
今回のこともふくめてさ。
てことで、とりあえず、僕はそのことを忘れることにした。
つぎの町に着けばなんかしら情報はつかめるだろう。
やがて僕たちは森にたどり着く。
入口付近でお目当ての木を見つける。
木、それ自体にはなんの変哲もない。
が、その実が、つぎのターゲットをおびき寄せる必須アイテムだった。
実自体はクルミのような形で、手に入れるのもカンタン。
手の届かないところになってたけど、木を蹴れば、とたんに実が、どしゃぶりに落ちてきて。
僕たちはそれを根こそぎ拾い、森を出て、ちかくの川へ。
そこで使用するのがさっき収穫したばかりのこの実だ。
川にすむ、トビッコと言う魔物がいる。
トビッコは特に変わった能力を持ってたり、飛び抜けた能力を持つわけじゃないけど、捕まえ方が特殊だった。
まずはちかくの森の木になっている実を、川に投げ込む。
しばらくそうしていると、羽のついた魚――トビッコが、川に落下する直前の実に食いついてくる。
やっつけるためには、その瞬間を狙い、攻撃を加えなければならない。
僕は袋に詰めた大量の実を、一つ一つ、穏やかな水面に投げ込んでゆく。
となりではリリアナが待機している。
しばらくの間、変化はなかった。
異変があったのは、三十八個目の実を投げ込んだとき。
そのとき、びっ、と水面から何かが飛び出してきた。
すかさずそれに反応し、僕のとなりから、炎のビームがターゲットに襲い掛かる。
が――
「あ、おしい…………」
はずしちゃった。
「けっこームズカシーのよ、タイミングが」
言い訳をするリリアナ。
いや、べつに責めてるつもりはないんだけども。
「まぁ、いいよ。まだ実はたくさんあるしね」
そして僕は残りの実を投げ込みつづけたんだけど……
結局その日、それ以上、トビッコが姿を現すことはなかった。
収穫があったのはその翌日。
今日は昨日の反省もふくめ、もてるだけの実をもって川にむかった。
もってきたのは合計千個以上の実。
これだけあれば一匹ぐらい仲間に出来るだろうと思い。
そして実際、見事、一匹と契約することに成功した。
そのために使った実、七百個以上。
リリアナが失敗した回数、昨日もふくめ、合計五回。