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召喚獣を仲間にしよう③

 その日の夕方。

 僕たちはおそってくる敵を蹴散らし、新たな修験者の宿にたどり着いていた。

 外観は今朝までお世話になっていたのとまったく同じ。

 変わったところなんてまるでない。量産型だ。

 中に入ってもそれは変わらず。

 あいも変わらずおなじ内装で、さらには備蓄食料や設備なども変わらなかった。


 ベッドは二つだし、テーブルの上には手引書があるし。

 けれど一つだけ、今朝まで使っていたのとは違ったところがあった。

 それは、宿の裏手に、天然の温泉が湧いていたこと。

 これだけは嬉しい誤算。

 携帯してきた食糧で夕食をすませるなり僕はいう。


「よし、みんなで一緒に入ろう」

「きゅーん」

「私はやーよ。一人で入る」


 少女がぶーたれる。

 色気づきやがって、ガキンチョが。

 いいよ。

 僕たちは男同士で入ることにした。

 わんこはお湯に毛が入るけど、まぁ、いーよね。

 この温泉、めっちゃ毛深い人も入るだろうし。

 それを考えればどうということはない。


 まともなお風呂に入るのはずいぶんと久しぶりだ。

 てか、屋敷を出て以来、まともに風呂に入るのは、今夜が初めて。

 今までは、昼間川で水浴びしたり、暖めたお湯に手ぬぐいを付けて、それをしぼって体を拭いたりしていたのだ。

 だから、今夜はようやくまともな風呂に入れてしあわせだった。

 体の芯からあったまってやる。


「あったかいねー」

「きゅーん」


 僕に抱えられたわんこが鳴く。

 ……そう言えば、名前、考えてなかったな。

 わんこ。これでも悪くないけど、もっとちゃんとした名前を考えてやるか?


「ねえ、わんこ?」

「きゅーん?」

「名前、考えてやろっか」

「きゅーん」


 肯定。明らかに肯定。

 僕はわんこを見る。

 わんこも僕を見あげてくる。

 わんこの外見に相応しい名前を、僕はたかが五秒で考え付いた。


「よし、わんこ。お前は今日から――シベ子だ」


 見た目がシベリアンハスキーっぽいから。

 で、シベ男だとゴロが悪いってかキモイから、シベ子。

 うん、問題ない。


「きゅーん、きゅーん」


 僕に向かってあまえた声をだすシベ子。

 うん、喜びまくってやがるぜ。


 風呂を上がると、早速少女にわんこの新しい名前を告げた。


「シベ子?」

「うん、そう。わんこはきちんとした名前じゃないしね。だから、今日からちゃんと、シベ子って呼んであげてね」


 少女はうーんと考え込んで、


「そういや、私も名前、ないのよねぇ……」


 感慨深げにつぶやく。


「アンノウンって言うりっぱな名前があるじゃない」

「なにがりっぱか。ただの正体不明じゃない」


 あっ、そうだわ、とばかりにぽんっ、と手を打つ少女。


「私も、温泉に浸かりながら、自分の名前、考えてみる」

「アンノウン子とか、どう?」

「――死ね! そして死ね!」


 二度も死ねと言われてしまいましたよー。

 えーん、えーん。

 ガラガラガラ、少女は温泉へ。

 でもってそのしばらくあとで。

 ホカホカになって帰ってきた少女は、自ら考え出した自らの名前を告げた。


「リリアナ。私の名前は、今日からリリアナよ」


 少女――リリアナは、そう告げた。





 翌日

 午前中いっぱいを使って食料をあつめ終えた僕たちは、それで昼食をこさえ、食べ、食休みをタンノーし、そうした上で、ようやく召喚獣を探しに出かける。

 ターゲットはもちろん、ヤンチャうさぎ以外なのだけど。

 けど一番多く遭遇するのもまたヤンチャうさぎだ。

 てか、今までヤンチャうさぎ以外遭遇していないという恐るべき事実。

 そろそろべつの召喚獣と戦いたいんですけど。

 いや、まぁ、うん、戦うのは少女ことリリアナだけど、ね。


 そこで僕は久しぶりにメイドさんの本を開く。

 これには色々情報が詰まっているのだ。

 これなしでは僕はもう生きていけないのだ、なんてね。

 開く。モンスター名で検索。

 グレイトブル。ソンムスが使ってた召喚獣だ。

 これは確か、ヤンチャうさぎよりはるかに仲間にするのが困難、って話だった気がする。

 が、最強の召喚獣を持つ僕に、不可能はない、と思いたい。

 まぁ、事実、召喚裁判で一度勝利しているし、負ける理由はないだろう。


 ページを捲り、出現場所を調べる。

 出現場所は…………山、とあった。

 山の中を歩いていると、稀に良く遭遇するらしい。

 ――どっちだよ!

 うん、とにかく山だ、山。

 そうだ! 山へ行こう!


 さいわいなことに、修験者の宿は、大体山や森や川などにほど近い場所に建てられている。

 わざわざ遠出をするまでもなく、宿からすぐに山のふもとに行けるのだ。


「よし、山へ行こう!」


 そして僕たちは山へ向かった。

 といっても何も山頂を目指す必要はない。

 登山じゃあないのだ。

 それに、僕は基本、体力はないしそのうえ怠け者。

 いくわけないじゃん、山頂なんかによ。

 いったとしてせいぜい山の中腹だ。

 けど今日は初日ということもあり、僕たちは、山のふもと辺りを適当にブラブラした。

 よってきたのは、もうすでに見飽きた、ヤンチャうさぎだけだった。




 チャンスがめぐってきたのは、それから四日後のこと。

 四日後デスよ、四日後。

 どんだけレアリティ高いんだよ、牛。

 その前日、僕たちは山にて、グレイトブルのものらしき足跡を見つけていた。

 それを辿って、巣らしき場所を見つけていたのだ。

 結局その日は合うことは叶わなかったけど、今日、再び足跡をたどっている最中、荒ぶるいななきを耳にした。

 見ると、茂みをものともせずに、にゅっと突き出た黒く艶やかな顔が、こちらを怒りに満ちた表情で見つめていた。


 僕はあせるが、リリアナはあせることはない。

 なにせ、別個体とはいえ、一度勝利を収めた相手。

 僕の指示を待たず、リリアナは炎を放つ。

 茂みから姿を現したばかりのグレイトブルは、苦しげに呻き……プライドがそうさせるのか、しばらくふんばっていたが……やがて倒れた。

 しばらく待ってみたけど、契約書は出てこない。

 それから五体ほどのグレイトブルを倒したけれど、指輪の効果をもってしても、グレイトブルから契約書を引き出すことは出来なかった。

 


 その翌日、僕はターゲットをグレイトブルから変えていた。

 てか、グレイトブルはこの地方で一番強い召喚獣だ。

 言い換えると、たぶん、一番契約するのが難しい敵。

 なので、ヤンチャうさぎから、徐々に敵を強くして行き、最終的に、この地方の、おそらくはボスであるグレイトブルを仲間にすることに決めた。


 メイドさんから渡された本を見ても、グレイトブルは要注意、みたいな描写はある。

 なので、ここはやはり、ヤンチャうさぎの次に強い魔物を仲間にすべきだろうと僕は思ったのだ。


 さて、グレイトブルの代わりのターゲットは……


「べしゃりバット?」

「うん。そう、こんな感じの洞窟にすむ、巨大な蝙蝠。洞窟の主らしいよ」


 僕たちは今、たいまつを手に、宿の近くの洞窟を進んでいる。

 べしゃりバットはこんな洞窟に、ボスとして、最奥に君臨することが多いらしい。

 もちろんあくまで多いってだけで、必ずいるわけではないらしいけど。


「べしゃりバットはものっすごいおしゃべりらしい。で、その内容がすっごいくだらないから、聞いた相手は眠くなるって寸法」

「うへぇ、なにそれ」

「だから、先手必勝! なにかしゃべりだす前に叩いちゃってよ。もちろん、火力は調整してね」

「はいはい、わかってますよ」


 たいまつの明りが天井を照らしだしている。

 そこに無数の蝙蝠が張り付いている。

 彼らに用はない。

 用があるのは、彼らの親玉。

 さらに奥に進む。

 途中、二手に分かれていて、一度道を間違えながらも、僕たちは、ようやくそこにたどり着く。


 でかい、あまりにもでかい。

 常識外れにデカイ蝙蝠が、天井に張り付いて、じっとこちらを眺めていた。

 大人の男ほどの大きさだろうか。

 そんなやつが天井からぶら下がっている様は実にシュールだった。

 これがおそらくは、べしゃりバット。

 身構えるリリアナ。べしゃりバットが口を開く。


「おっ、ひっさし」


 ぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお


 敵が口を開くのと、リリアナが炎をぶつけるのはほぼ同時だった。

 しゃべり始めを、リリアナは叩いたことになる。

 炎に包まれてなお喋っていられるほど、敵は狂人でもなく。

 言葉の代わりに、今は苦しげなうめきを漏らすのみ。

 炎を纏ったべしゃりバットは地面をのたうちまわりながら苦しんでいる。


「――手加減した?」

「ん、一応」


 なら、よし。

 苦しみ悶えるべしゃりバットから炎が消えるのを、しばしぼーと待つ。

 やがて炎が消え、べしゃりバットは這いつくばりながら、言う。


「イキナリなにさらしてけつかりまんねん! 一体わいがなにしたってゆーんや! あんさんら人のネグラに無断で入って来て」

「もう一発、いっとく?」


 もちろん、長話に付き合う僕じゃあない。

 そうすりゃこっちが眠ってしまい、負けフラグだ。

 僕の言葉に、べしゃりバットは露骨に気圧される。


「い、いややなぁ、あんさんにはかないまへんわ! もう、もってけドロボー!」


 言葉と同時、べしゃりバットの体から、契約書が浮き出てくる。

 おっし、二匹目、ゲット。

 けど血判を躊躇う僕に、今回もまた、リリアナがナイフで切りつけて来たのだった。

 ……うーん、これ、なんとかならんもんかね?






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