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小休止 その二

「義君、ぜんこ払うしたからホットココアちょおだい」

 結局最後まで雪かきを手伝った村木は、仕事に戻らずカフェでくつろぎ始める。根田は雪かき後『離れ』に入って朝食中、チェックインの時間まで半休日となっている。

「あれ? ミルクティーじゃないんだ?」

「んだ。正が好物でさ、一緒に飲むしたら美味さが分かってきたべ。ホイップクリームも入れてほしいっしょ」

 川瀬はうんと頷いて厨房に入る。一人になった村木はポケットからケータイを取り出し、画面を見つめてニヤついていた。

「おはようさん、仕事は?」

 とそこに【シオン】ルームに長期滞在している里見が、三階から降りて声をかけた。

「おはようございます、今日は搬送だけで終わりです」

「そうかい」

 里見は村木の隣の椅子に腰掛け、従業員が姿を見せるのを静かに待つ。

「そだ里見さん、姪っ子の画像見ささるかい?」

 村木はこれ幸いと彼を誘い、ケータイの画面を見やすいよう傾ける。

「ん」

 その返事を合図に二人は体を寄せ合い、ニマニマしながら木の葉の成長記録を見つめていた。そこに映っている赤ん坊は、未熟児で生まれたためやや小柄ではあったが、元気いっぱい手足をばたつかせて時折笑顔を見せていた。

 木の葉は生き写しであるがごとく亡き母まどかにそっくりで、肌の白さとくるくるとした瞳は在りし日の彼女を彷彿とさせる。

「この時期の子供って日毎に成長していくべな」

「んだんだ、正とまどかのいいとこ取りでめんこさ倍増だべ」

 村木はこのところ暇を見つけては角松家を訪ね、本領発揮とばかり木の葉の世話を買って出ていた。時には誰よりもはしゃぎ回って彼女を泣かせる場面もあったと祖母衣子が苦笑いしていたが、それでも伯父にあたる彼の助けそのものはありがたいと言っていた。

「今日も角松家に行くん?」

 『離れ』の雪かきを終えた堀江が仕事に入る。

「ん。正夜勤入ってるしたから」

「へぇ、産休取られへんの?」

「ん~。オレも会社勤めいうんはした事ねしたからよう分からんしたって、何でも急には出来ねえんでないかい?」

「そういうもんなんやな、画像また新しなってへん?」

 堀江もケータイを覗き、自然と笑顔をほころばせる。

「ん。毎日毎日違う動き見ささるからシャッターチャンスばっかだべよ」

 画像越しで色々な動きを見せている木の葉は、大人たちの視線を釘付けにしている。たった一人の赤ん坊は店内の空気を柔らかくし、ペンションに出入りする男たちのアイドルと化していた。


「ただちょべっと悔しいこともあってさ」

 先程まで姪っ子可愛やとニヤニヤしていた村木だが、一転神妙な顔つきになる。とほぼ同じタイミングでホットココアを作り上げた川瀬がカフェに入った。

「ホットココアお待たせ致しました」

「ありがと……ん? このカラフルなんは何だべ?」

「チョコカラースプレーだよ。クリスマスのデコレイトで使った分が余ってたからちょっとだけ色どりでかけてみたんだ」

「へぇ、チョコなんかい」

 偏食家で食への関心が薄めの村木は、チョコカラースプレーなるものを理解していなかったが、食べられると分かったことで早速ココアをすすり始める。

「あっ、チョコの味すっペ」

 村木はそれを前歯でかじり、甘さを認識して安堵の表情を浮かべた。

「うん。里見さんも何か飲まれます?」

「今日はしばれるしたからホットミルク頂くべ」

「かしこまりました」

 彼は長期宿泊客のオーダーを取ると、いつもの通り淡々と仕事をこなす。堀江も雪の中訪れたカフェ客の接客を始めていた。

「あっ、話が途中になってたべ」

 村木はカップから口を外して話を引き戻す。

「んだな。何が“悔しい”んだべ?」

 里見が聞き役になったことで、彼は“悔しいこと”を勢いよく語り始めた。

 木の葉が退院してから、村木は姪っ子に会いたいがため角松家に通い詰めていた。そんな中偶々休みが合った小野坂を伴ったところ、木の葉は何日も顔を合わせている自分よりも友に懐くと悔しそうに言った。

「そったらもんしゃあないべ、智君が好みのタイプだったんしょ?」

 里見はこともなげに言い、失笑していた。

「いんやっ! あったら粗暴な男木の葉と釣り合わんべ!」

「したら夢子さんはどうなんのさ?」

「夢子さんはアイツを操縦できる弱みを握ってんだべ」

「それは一理あるかもね、あの二人幼馴染したからさ」

 村木は再びケータイを手に取り、まるで想い人に振られた男のような表情をして画面を悲しそうに見つめている。

「オレの方がなまら愛情注いでんのにさぁ」

「女の子はこの時点で心は女性だべ、したらもう初恋が始まってんのかも知んねえべ」

「そったらことあっちゃなんね! 『あきらくんのおよめさんになる♡』ってこいてもらう夢はどうなんべっ?」

「いやそれはむしろ正君に譲ろうか?」

 里見は伯父馬鹿振りを存分に発揮している村木を見ながら肩をすくめ、ホットミルクの入ったカップを運ぶ川瀬に助けの視線を送った。

「ホットミルクお待たせ致しました」

 川瀬は里見の前にカップを置き、カウンターに両肘を付いて木の葉の画像を見つめている村木を見た。

「こんな礼君初めて見ますよ」

「そうかい、子供好きでなかったんかい?」

 このところ村木の話し相手になることが多かった里見は、彼のデレ顔をすっかり見慣れていた。

「好き嫌い以前にドライな性格だと思っていましたので。それよりも智君がタバコ辞めたのも木の葉ちゃんのためなのかな?」

「やっぱしそうかい! どおりで最近タバコの匂いがしねえと思ったんだべ!」

 小野坂の禁煙話に村木が勢いよく反応する。

「赤ちゃんにタバコは良くないからね。それに夢子さんと暮らし始めてから本数も減ってたし、この周りで吸うのって智君だけだから『匂いが目立つ』って気にしてたよ」

「かぁ~っ! アイツ夢子さんだけに飽き足らず木の葉にまで色目をぉーっ!」

「まぁきっかけはともかく禁煙自体は良いことじゃない」

 川瀬は嫉妬心で小野坂を貶す村木をやんわりと窘めた。

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