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けじめ その五

 そんな中で遅ればせながらの招待客、小野坂と調布が『DAIGO』にやって来る。二人はすれ違いの十年間を埋めるかのようにぴったりと寄り添い、共に暮らしていることもあってどこから見てもカップルといった雰囲気を漂わせている。

「おばんです、そっちはわやなんかい?」

「いやそうでもないけど、まだ一人には出来ない時間だな」

「そうかい。んで調布さん、どったらあんばいで?」

 村木はまどかから小野坂の恋人が体調不良であることは聞いていたので、まともに言葉を交わすのは初めてだが当然の流れのように声を掛けた。

「お蔭様で、今はもう平気です」

「そうかい、就活とか始めてんのかい?」

「えぇ、ハローワークに通ったり就活情報サイトを見たりくらいは……」

 ここでも村木のお節介は健在で、それを初めて目の当たりにする調布は若干戸惑いの表情を見せている。

「したらここで働くんは? フロアスタッフが一気に二人辞めちまったんだと、大悟さん呼んでくっペ」

 村木は二人の返事も聞かずにさっさとその場を離れ、招待客たちにお手製のウエディングケーキを切り分けている大悟の所に向かう。

「ったくこっちの話聞く気ねぇのかよ?」

 小野坂はため息を吐いて頭に手をやる。

「そう言えば求人情報誌に載ってたかも。でも私じゃ……」

 と困惑の表情を浮かべている調布。

「俺は良いと思う、知った顔ぶればっかだからどこよりも安心だよ」

「それを考えれば私もそう思うけど……職歴的に大丈夫かしら?」

「それを決めるのは大悟さんだって」

「うん……」

 調布は村木に連れられてこちらに向かってくる大悟を見て緊張した面持ちになり、そんな恋人を気遣うようにそっと肩を抱く小野坂は大丈夫だと頷いた。

「さっき話した彼女だべ」

「したって急にんな事こいて大丈夫かい? 心構えも要るだろうに」

「したらここで面接すりゃいいんだ」

「相っ変わらず強引だべあんた」

 大悟は村木の強引さに呆れながらも、中年ではあるも整った顔立ちをピッと引き締めて調布と対峙する。と言っても、夏に母旦子が仕掛けた一件で面識はあったのだが。

「きちんとお話するのは初めてですね。相原大悟、ここのオーナーです」

「調布夢子と申します、このような晴れやかな場で図々しい事を」

「いんや、厚かましいんはこん男だべ」

 大悟は村木の頭を小突く。

「ってぇ~、ちょうど良かったでねえか。どのみち智には話すつもりでいたしたから」

「したって準備いうもんがあんべお互い」

「私履歴書も書いていませんし」

「それは構わんさ」

 大悟は村木に見せる顔とは全く違う紳士の表情で調布と接する。

「ウチは基本ホームページの入力フォームを使ってもらうんだ、ここに面接来れりゃ何処にいようが不問にしてっから全国から暇してんのが集まってくんのさ」

「でもさすがに水商売出身の従業員は……」

 調布はかつての職歴を気にして口が重い。

「ん? 飲食店全般水商売でねえか、そういう意味ではほとんどの従業員が水商売経験者だべ。それに前科モンも元ヤクザモンも居んべ、気にする事ねぇ」

「そ、そうなんですね」

 いわく付きの従業員がいる事を聞き、昔の事を思い出したのか彼女の笑顔が若干引き攣っている。

「したっけここはアンタが思ってるほどきちんとした店でもねえごく普通(・・・・)の洋食レストランだべ。今日はパーティー仕様にしてっから豪勢に見えてんだ。嫌でなければ週明けから一定期間見習いで働いてみんかい?」

「えっ? そんな簡単に決めてしまっても……」

「なんもなんも。こったらもんは第一印象、瞬き一つでほぼ決まる。したら仕事についての説明すっからちょべっと彼女借りんぞ智」

「えぇどうぞ、俺そっちにいるから」

「うん」

 調布は思わぬ形で職が決まった事にホッとしたのか、先程とは違う安堵の表情を見せて大悟の背中を追いかけた。小野坂は指差していた方向……根田と里見の居る所に歩き、二人にも早速今あった出来事を報告した。

「良かったですよね、調布さんお綺麗ですからファンが付いて人気が上がるんじゃないですか?」

「智君もおちおちしてらんないべ」

 二人はまるでからかうかの様に小野坂を見てニヤニヤしている。

「まさか」

 それは無いとでも言いたげに笑っている小野坂だが、これまでその手の事が全く無かった訳でもなかったので内心は少々そわそわとしている。

 それから少しして根田と里見は一足先に『オクトゴーヌ』に戻り、大悟に伴われていた調布も姿を見せる。これでようやっと生活が軌道に乗せられる、と笑顔を見せる恋人を微笑ましく見つめる小野坂。

「ホッとしたらお腹空いてきちゃった」

 これまで身辺整理に忙殺されたり、箱館に渡った途端体調を崩したりとなかなか食欲が戻らなかった調布は久し振りに料理に手を付け美味しそうに食事を摂り始める。共に暮らすと決めてから無理をしてきた彼女を気にかけていた小野坂も、人様の結婚パーティーではあるが二人でいられるしばしの時間を満喫していた。

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