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けじめ その二

「オメエもうちょべっと何とかなんねえのかい?」

「あーもうしつこいっ! 何遍同じ事こかせんだ!」

 村木の説得と言う名のお節介は自宅のみに留まらず、『オクトゴーヌ』のカフェ内でも容赦無く繰り広げられていた。何度も同じ事を言ってくる兄にまどかは完全に辟易している。

「きかないはおめえの方だ、あんな親切な男をそこまで無下にする意味が分かんね」

「それも説明したでねえか! 一遍別れた男に借りは作りたくねえんだ!」

「借りでねえ、味方増やして楽せえこいてんだっ」

「冗談でねえ! 私の美学に反する事出来っかい!」

「そんなヘッポコな美学なんぞ投げちまえ~っ!」

 二人は場所も弁えずに兄妹喧嘩を始める。厨房で様子見をしていた小野坂が現場に割って入り、フロント業務をしていた根田が他の客に頭を下げていた。

「喧嘩するなら出てってくれ」

「「すっすみません……」」

 二人はシュンと肩を縮こませ、他の客にもすみませんと頭を下げた。根田が先回りで謝罪していた事で幸いクレームにならず、すぐに和やかな空気に戻る。

「ったく、家でする内容の話だろ」

「したってこんのたくらんけが……」

「それはあくまでまどかちゃんの問題だろ、お前ちょっとお節介過ぎるんだよ」

 小野坂は興奮冷めやまぬ村木を見て肩を竦める。

「いいや! 子供んとっては父親だって必要だべ、ただただちょっかい掛けてるってなら関わらんでいい思わさるしたっけ、少なくともまどかと子供ん事案じてるんは傍で見てても分かるだけにさ」

「そこ二人がこじれたら元カレ? も余計入りづらくなるだろうが」

「ぬっ……」

 村木はまどかと元カレにヨリを戻させようと考えており、それが思いっきり顔に出ている。

「やっぱり企んでたか」

「正はイイ奴だ! ヤリ逃げするだけのクズ男でね!」

 小野坂に見破られてあっさりと開き直った村木の目がキラキラと輝き出したが、ポケットに入れているケータイが動きを見せて席を外す。まどかは兄を視線で追いかけて複雑な表情を見せている。

「正がいい男なんは私がよう知ってるってんだ」

 まどかは誰に言うでもなくボソッと呟いた。これ案外迷いがあるな……小野坂は彼女を放っておけなくなって村木が座っていた椅子に腰掛けた。

「元カレさんは何て? 少なくとも無関心ではなさそうだけど」

 まどかは珍しく下を向いて袖口をいじり始めた。

「体調気遣ってくれたり、出来る手伝いはするぬかしてくれる。したって一旦はこの子生む事反対されたし、生きるか死ぬか分かんねえ私に付き合わして人生棒に振って欲しくねえんだ」

 彼女なりに相手を思いやっての突っぱねと判り、心の何処かでまだ彼に気持ちがあるのでは? と考えた小野坂は、一度話し合った方が良いと言った。

「礼の言ってた通り味方は多い方が良いと俺も思う。ただでさえ出産って命懸けって言うし、弱みを見せても安心できる人間が家族以外にも必要なんじゃねぇかな?」

「どう言う事だべ?」

「家族だと本音を見せ合えても遠慮が無い、普段の状態なら何とも思わない事でも精神状態によっては誰のどの言葉よりもダメージが大きくなる。別に主治医の先生でも友達でも良いんだけど、なるべくまどかちゃんの事をきちんと理解してくれる人が側に居るだけで、心の支えが出来て気持ちに余裕が持てる様になるんじゃないかな?」

 あぁ……まどかは再び下を向いて袖口をいじる。

「いずれにせよ正君? に思ってること伝えよう。最終的な決断をするのはまどかちゃん自身だけど、お互いが本音を出し合って一杯考えてから手を取っても間に合うよ」

「うん、そうする。ありがとう智さん」

 まどかはしおらしく頷いて残りのオレンジジュースを飲み干したところで電話で外に出ていた村木が元いた席に戻る。

「宅配の注文が二件入ったからしたっけ。まどか、続きは後だ」

「要らね、一遍正とくっちゃる」

「そうかい、なら良いや」

 村木は慌ただしくカフェを出る。

「俺チェックイン業務が終わったら上がりなんだ、それまで待てるなら送るよ」

「お願いして良いべか? 礼君しつこいから疲れた」

「了解」

 小野坂は席を立って通常業務に戻り、入れ替わりで川瀬がスイーツを乗せたトレーを持って今居る客たちに振る舞っていた。彼らの反応は上々の様で、美味しいと絶賛する声も聞こえている。

 私んとこにも来るかな? まどかは今か今かとワクワクして待っていると、他の客への配膳を終えた川瀬がまどかの隣に立った。

「新作を作ってみたんだ、味見がてら感想も頂けたら嬉しな」

「うわっ、可愛い~♪」

「クリスマス時期に出してみようかと思って。そうなると多少のデコレイトはあった方が良いでしょ?」

「うんうん♪ さすが義さん女心分かってるべ。あんのたくらんけにも見習ってほしいさ」

「礼君あれで案外モテるんだよ。言葉に裏表が無いし、お節介なのも家族と男限定らしいよ」

 まどかは村木が“モテている”のが俄に信じられないといった表情を見せる。

「何だそれ? 他人の女にはしねえってか」

「うん、『ふんふん聞いてあげる方が喜ばれる』とか『最後に一言バシッとキメる』って言ってたよ。『男はレスポンスする方が真剣さが伝わる』って、それは解る気がするな」

「一時期流行った『男脳・女脳』ってやつかい?」

「うん、多分」

 川瀬とまどかはしばらくその話題で盛り上がり、男と女が分かり合うのは至難の業なのだろうと妙に納得してしまった。黙って逃げてても分かり合えないな……まどかは角松に本音を伝えることを決め、川瀬お手製のスイーツを堪能した。

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