メイドのお仕事
7、
悔しいことに、ローリエはメイドとしては優秀なようだった。
いや、ほんと、さっきの様子を見た後だとあまり信じたくないのですけど!
午前中の時間、メイド服に着替えたチェターラはローリエに城内を案内され、仕事の中身を簡単に教わった。
チェターラの仕事はハウスメイドと呼ばれるもので、掃除が主。あとは各部屋を回って洗濯物の収集。
チェターラは家事仕事が嫌いではなかったので、すぐに覚えた。
ちなみにローリエは、ハウスメイドであると同時に客の案内を担当するパーラーメイドという役職も兼ねていた。来客があるときはそちらの仕事をするが、そうでないときはハウスメイドの仕事をする、という立場のようだ。
「そのうち、チェターラちゃんにもパーラーメイドの仕事を頼むかもしれないけど……、
そのときは、その香水はちょっと落としてもらう必要があります。ちょっと強いから。
それに! わたしがチェターラちゃんのにおいをかぐのにも邪魔です♪」
「チェターラちゃんって、なんですか! ちゃん、って! 子供ですか!
あと、かがせませんからね!」
それから、言った。
「……。
わたくしは、このくらいの香水のほうがいいんです」
なんとなく、これまでの生活で通っていた町の学校の子供たちの顔を思い出した。
町の子供たちの、はやし立てる顔を思い出した。いわく、「オークのにおいがする」とか、はっきり「くさい」とか。
子供たちの大部分は、仲良くなるうちに少なくとも表立っては言わなくなった。仲良くなれなかった子も、チェターラの側が言われたら黙って言われたままにはしなかったので、少なくとも普段は表立っては言わなくなった。
言えば、ひっかき傷やビンタが返ってくるということを、最初に思い知らせたから。自分でも子供っぽい対応だったと今では思うけれど、精一杯、反発したから。
……それでも、言われたことは覚えている。忘れない。
……。
チェターラは、内心でむしゃくしゃして、それを追い払うように、仕事を覚えることに専念した。
城の中の案内が一通り終わったところで、チェターラとローリエは城の裏手側の外に出た。
庭園の向こうに、森を背にして、二つの建物が見えた。
「ちょっと距離があるけど、あの建物も私たちの仕事の範囲内です。
普段は役割分担して無駄な行き来は少なくしてますが、今日は初日なので案内します」
「なんの建物なのですか?」
「まず、奥にあるのが魔術師の塔。
魔術師クレテックさんの住まいであり、『召喚の儀式』が行われる場所です」
「『召喚』、ですか」
チェターラは詳しくは知らなかったが、それはこの国が他の国に対して持っている強みの一つだった。
召喚。
別世界の者を呼び出す儀式。
それは、別世界からの知識の流入源。
チェターラが好きな納豆の製法のようなものから、もっと国政に関わるような知識まで、いろいろなものが、その召喚の儀式によってもたらされたものなのだそうだ。
「そして、手前側にあるもう一つの建物が、来訪者の館。
召喚された者用に用意された建物です。
まず、そちらへ向かいましょう」