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オークの娘さん  作者: yamainu
第1話 『オークの娘さん、城へ行く』
5/51

左右非対称の王様

 5、


 二人の王子が退出した後、部屋にはチェターラと父親と、メイドと王様が残された。

 猫背で初老の王様がぶつぶつと言った。

「やれやれ、言うことを聞かん息子どもだ。

 まったく、いつからあんな子供に育ったのか……」

 それから、チェターラたちを見た。

「おお、おお、待たせてしまっていたな。

 アレック・ガルムの娘よ。こちらに来て、わしにもう少し顔を見せるがいい」

「はい、王様」

 チェターラは慎ましやかに一礼した後、王様の前に立った。

 近づくと、王様がこちらを見るのと同じように、こちらからも王様のことをもっとよく見ることができた。

 猫背で、まるで意気消沈でもしているような格好で椅子にぐったりと座っている王様。だが近づいてみると、肌が見えている手元や首もとには、古い刀傷が残っているのが見えた。

 右のこめかみから下顎にかけても薄く傷跡が残り、そのせいなのか、右目は左目よりも細目で、右の口元は左の口元よりも幾分つり上がっていた。

 チェターラの視線に気づいたのか、王様は言った。

「戦で受けた古い傷がたくさんあってな。そのせいか最近、体にガタが来ておる。

 今は、どことも戦をしておらんが、一昔前は色々と剣呑でな。

 アレック・ガルムにも大いに働いてもらっていた」

 それから、右の口元をさらにつりあげて、右の細目をさらに細めて笑った。

「騎士だったおまえの母親にもな」

「わたくしの母をご存じだったのですか」

「ああ、ああ。おまえは母親にそっくりだ。もう少し育てばさらにそっくりになるだろう。美しく母親そっくりに」

 チェターラには母親についての記憶はなかったが、それでも無性に嬉しくなった。微笑して、一礼した。

 王様は、右片面の笑みでそれを見ていた。

「だが、さてさて。

 おまえは母親や父親のような騎士になるのではなくメイドとして城で働きたいのだったな。それが良かろう。今、この国は平和を謳歌しておる。子供が剣を取る時代ではない」

 王様は、扉の傍に控えていた年若い栗毛髪のメイドを見た。

「そこのメイド。

 この子のことは、家政婦長には話がついておるはずだな?」

「はい。しばらくは私の預かりで、ハウスメイドとして働いてもらうことになってます」

 王様は頷くと、またチェターラを見た。

「だそうだ。

 城で働きたいというおまえの望み通りのはずだ。

 精進して働くがよい。以上だ」

「承知いたしました」

 チェターラは一礼した。

 王様は、右片面で笑った。奇妙なほど気さくで親しみやすい笑みだったので、思わず、チェターラは言葉を付け加えた。

「あの、もしご迷惑でなければなのですが……。

 今はご無理でも、お時間のあるときに母のお話を聞かせていただくことはできますか?」

「……おまえの母親の、女騎士リクアの話を、か?」

 王様は、会話は終わりと考えていたらしく、チェターラの言葉に意表をつかれたような顔を一瞬した。

 それから。

 王様は右片面で笑うと、アレック・ガルムのほうを見た。

「いやいや、その話は父親から聞くべきではなかろうかな?」

 アレック・ガルムは、黙ってチェターラに目を向けた。

 チェターラは、父親に微笑みながら言った。「お父様から聞くお母様のお話はとても好きです」それから、王様に目を向けた。「それでも、父以外の口から母の話を聞いてみたくなったのでございます」

「そうか、そうか……」

 と、王様は頷いた。

 そして。

 始めて左側の顔にもはっきりと笑みを浮かべながら、言った。

「長話となると、時間が難しいな。

 さてさて。

 例えば夜に、わしの部屋で、二人きりでというのは、おまえの父親の許しをもらえるのかな?」


 あれ?

 夜に、王様の部屋で?

 まあ!

 これって、もしかして、あの、いきなりそういうお誘いということではございませんか? 名誉なことですよね? 王様のお誘いでございますし!

 えっと、さすがにそういうことは全然考えていなかったのですが、どう返答したらよいのでしょう。それに、年もとても離れておりますし。

 あ、でも、いっそそのくらい大人のほうがわたくしの心の美しさをよく分かってくださる、ということも、あるのでしょうか? お母様のこともご存じでいらしたようですし。

 と、チェターラは内心でドキドキした。


 だが。

 ここまでずっと黙ってたアレック・ガルムが、娘に言った。

「愛しい娘よ。忠告だ。

 王とは盲目に信じて心を委ねる対象ではない。思慮し量るべき対象だ」

 ?

 チェターラは、何を言われたのかよく分からず首をひねった。

 一方、王様は、アレック・ガルムに言った。

「はっはっはっ、おまえの忠義は王には厳しいな。誠に身が引き締まる思いだ。疎ましくすらある。盲目に信じてくるカカシ頭どものほうが気が楽だ。

 アレック・ガルムの娘よ。先ほどの言葉は冗談だ。

 そのうち、機会を見つけて正しく時間を作るとしよう。少なくとも最初は、日の明るいうちにな」

 いつの間にか、また片面の笑みに戻っていた。


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