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オークの娘さん  作者: yamainu
第3話 『オークの娘さん、母の魔法の日記を見る(中編)』
44/51

セントールたち

 23、


 朝食後。

 昨夜の戦闘で人間の騎士たちに放棄された、森の中の野営地。


 森の奥に去った女騎士リクアを追う前に、オークのアレック・ガルムは簡単に荷物をまとめたり他の異人族と情報交換したりと出発の準備をしていた。チェターラはそれを待ちながら、肩の上にハーピーのアパリアスを乗せた状態でレイヤ少年と並んで野営地の風景を眺めていた。

 午前の光の中、いなくなった人間たちの代わりに今は異人族が行き交っていた。多くの異人族は昨夜の戦闘後そのまま追撃のため森に入っていったはずだが、それでもそれなりの数が残っていたようだ。

 彼らの様子や耳に入ってくる会話から判断すると、彼らは二手に分かれてそれぞれ皆出発の準備をしているらしかった。一方は、この野営地に残された物品を戦利品として持ち帰る者に負傷兵を加えた、異人族の村へ帰還する一団。もう一方は、前者の出発準備を手伝った後に改めて人間たちへの追撃に参加するため森の反対側へ向かう一団。

 方向的には、アレック・ガルムとチェターラたちも後者の一員という形になるだろう。

 四方を森に囲まれた中で異人族の姿を眺めていると、何とはなく、チェターラは過去に訪れたことのある異人族の村を思い出した。異人族の村も、森の奥にあった。

 ただ、もちろん雰囲気は違った。

 村と比べると、戦争のために遠征してきたこの場所での構成員は当然偏っていた。通訳も兼ねるアパリアスのようなやや特殊な立場の者を別にすれば、ここにいるのは武器を常に携帯した戦闘員の集団だった。

 それから村でよく見かけた草木の精ドライアドや、目立っていた巨人トロールなどはここにはいなかった。ドライアドは自分の草木から離れたがらないからで、トロールはおそらく奇襲が念頭にあった今回の行軍では目立ちすぎたからだろう。

 そして特に気になったのは、半人半馬のセントールの集団だった。チェターラが覚えている村では、セントールはほとんどいなかった。エルフなどと同じように、人間からは異人族と一括りにされてはいても実際には共生していない種族だとばかり思っていた。

 ……そういえば、お父様から昔聞いたことがあるような。

 ……セントールたちとはあまり仲が良くなくて、最終的に戦争で人間たちから割譲された土地に彼らが移り住むことで距離を置いて、お互い不干渉になったのだとか。

 だとすると、この時代はまだぎくしゃくしつつも一緒に行動していた頃なのかもしれない。おそらく今まさに進行中のこの戦争の結果として、セントールたちは異人族の村から離れていったのかも。

 そう思いながら眺めていると、実際、セントールと他のオークやゴブリンやハーピーたちとの間には気持ち的に垣根があるようだった。他の種族がだいたい入り交じって行動しているのに対し、セントールだけは集団でまとまって行動していた。

 それが特に目立っていた一画は、人間の騎士たちが行軍の食料を大量にまとめて残していた場所だった。セントールたちがそこを占拠していて、他の種族の者にそれを分けるのをかなり渋っているようだった。口論している様子も見られた。

「おい! 寄越せよ!」

「これは我々が管理する。最初に見つけたのは我々だしな。

 だいたい、考えなくお前らに渡したら無駄に使い潰すだろう。管理する者が必要だ」

「だとしてもてめえらに管理する権利はねえよ。

 そこに転がってる酒の空き袋はどういう管理の下で飲み散らかしたんだ? 言ってみろよ」

 ……これってどちらが正しいのでしょう? どうなるのが正しいのでしょうか?

 そう思いながら眺めていると。

 セントールの一人と目が合った。

 目を逸らすべきだったのかもしれないが、それも失礼かもと思い迷っているうちに、そのセントールは周囲の数人の仲間に目配せしてから二人ほど後に引き連れて馬の足でまっすぐこちらにゆっくりと歩いてきた。

 わっ、ど、どうするべきでしょう?

 不安になって、チェターラは若い父親の姿を探した。アレック・ガルムは少し離れた位置で他の異人族と話をしていたが、すぐにこちらに気づいてセントールに目を向けた。

 セントールたちはアレック・ガルムの視線には構わず、まず先頭の一人がチェターラの肩の上のアパリアスに言った。

「おい、人間の男など捕まえても生かしておく必要ないだろう。さっさと殺せ。

 それからその人間の女はこちらに寄越せ」

 アパリアスはこれ見よがしに羽根づくろいをして、セントールたちの威圧的な態度には気づきもしていないふりをしていた。ぞんざいに言った。「あいにくと。この子は先約済みさね。あっちに行きなよ」

「人間の女は優先的にこちらに回せと言ったはずだぞ」

「おとなしく順番を待てと言ったはずさね。

 だいたい、見て少しは遠慮しなよ。この子はまだ小さい。あんたらみたいな乱暴者に渡してすぐ壊されたらたまったもんじゃない」

 アレック・ガルムが割って入り、言った。「彼らは私が捕まえた。私の戦利品だ。どう扱うかの裁量は私が持つ」

 セントールたちはアレック・ガルムをにらんだが、アパリアスに向き直り、言った。

「次は忘れるなよ。なんなら金を払ってもいいんだ」

 セントールたちは他の仲間の元に去っていった。

 アパリアスが言った。

「ああやだやだ。嫌な連中に目を付けられたね」

 アレック・ガルムは言った。「行こう。準備は済んだ」


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