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オークの娘さん  作者: yamainu
第3話 『オークの娘さん、母の魔法の日記を見る(中編)』
43/51

野営地の朝餉

 22、


 奇妙な娘よ。

 お前の親であった私は、お前をどのように育てたのか。

 その生活に浪漫はあったか。


 と、若いオークのアレック・ガルムは思った。

 目の前では。

 未来の時間から来たという奇妙な娘が、アレック・ガルムの用意した朝食を前にして、どことなく気がそぞろな様子で食事を進めていた。

 その横にはハーピーのアパリアスと、人間の捕虜でレイヤという名の少年。

 朝食の献立は、携帯していた麦にこの野営地に残されていた食料の中からハムと豆を加えてゆでた粥と、同じく野営地に残されていたパン。

 チェターラは慣れた様子でパンを麦粥に浸して具をすくいながら、上品な仕草で食べていた。

 レイヤ少年は、そんなチェターラの様子を見て真似するようにして食べていた。どうやら、彼にとってこの食事は食べ慣れない物であるようだ。最初に麦粥をどのように食べたものか迷っていたところを見ると、彼の文化圏では手のみで食べる習慣が少なかったか。匙でも用意してやればよかったか。

 アパリアスの食事風景は、アレック・ガルムには見慣れたものだった。片足で器用に器を掴んで固定して体を曲げて顔ごとつっこんで食べる。がつがつ、ぐわしゃぐわしゃ。単純豪快。口元どころか耳元や前髪まで汚れても全く気にしない。器の外にたくさんこぼれるがそれも気にしない。それが、首から下が鳥で手の無いハーピーの食事風景。

 むしろ、ハーピーたちに言わせれば辺り一面を汚せば汚すほど食事が美味しくて無我夢中で食べたという意思表示であり良い礼儀であるそうだ。ちなみに不味い食事を出すと鼻先を近づけた後すぐ器ごとひっくり返す。

 アパリアスのそんな様子を気にしないところを見ると、チェターラにとっても見覚えのある光景なのだろう。一方、レイヤ少年は物珍しげに見ていた。

 アパリアスがふと麦粥の器から顔を上げ、口の中に物を入れたまま言った。

「ああっと、そういやアレック、足は大丈夫かい」

「問題ない」

 昨日足に受けた銃創は、軽いと言えば嘘になるが、頑強なオークにとって重い傷ではなかった。応急処置も済ませた。しばらく余計な負荷をかけることは避けるべきだが、普通に歩くくらいならば耐えられるだろう。十日もすれば、気にせず戦うこともできるほど回復するだろう。

「じゃ、村にゃ帰らず人間たちの後を追うんだね?」

「伝えた通りだ」

「この子たちを連れて、かい」

 アパリアスはチェターラとレイヤ少年を見た。

 内心ではやや疑問に思っているらしいが、鳥の撫で肩で器用に肩をすくめて無関心を決め込む素振りを見せた。

「ま、あたしゃただついてくだけさね。

 人間のあんた、ちょいとそこのパン、あたしにおくれよ」

 チェターラとアパリアスの様子を伺いながら食事をしていたレイヤ少年は、声をかけられて驚いた様子を見せた。だが言葉は分からなくとも言われた意味は通じたらしく、アパリアスが翼の先で示したパンを手に取り、身を乗り出して渡そうとした。

 二人の間にいたチェターラに必然的に体が近づいたとき、チェターラはびくっとして、レイヤ少年から不自然に体を避けた。

 ?

 若いアレック・ガルムは、疑問に思った。昨日の様子では、もっと馴れ馴れしい娘ではなかったか?

 何を気にしている?


 十数年後のアレック・ガルムならば、そんな娘にすぐ声をかけただろう。

 娘がまた自分のにおいを気にして萎縮しているのだと気づけば、そんなことは気にすることではないのだと態度で示しただろう。


 だが、さすがに若いアレック・ガルムにはそこまで娘の挙動を推し量る材料が無かったので。

 この時はただ、観察して気に留めておくだけだった。


 レイヤ少年とアパリアスは受け渡していたパンに意識が向いていたのでそもそもチェターラのそんな動きに気づかず、四人はそのまま食事を済ませた。


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