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オークの娘さん  作者: yamainu
第2話 『オークの娘さん、母の魔法の日記を見る(前編)』
40/51

強情で、奇妙な

 19、


「愛しい娘よ。私が妻の顔を初めて間近に見たのは、チェタ森でのことだ」

 と、チェターラの感覚では今から半日ほど前に、未来の父親は言った。

「顔だけでも知っておきたかったものだ。

 何一つ知ることなく縁を逃すとは」

 と今、目の前の若い父親は言った。


「どうした?」

 チェターラの顔を見てアレック・ガルムは言った。

「え? いえ、その……」

 チェターラは迷ったが、聞いてみた。

「お父様は、お母様がどんな女性か心当たりはないのですか?」

「?

 無い。

 その女と私が出会うのは今日だったのだろう?」

「ええ、確かにそう聞いてはおりますが……」

 でも。

 お父様から聞いていた話と、少し違うような。

 チェターラは、言葉に迷う顔をした。

 アレック・ガルムはそれを観察していたが、言った。

「あるいは、そのような場合もあるか」

「?」

 今度はアレック・ガルムがしばらく黙って何か考えていたが、首を振った。

「情報とは利用すべきものだ。縛られるべきものではない。

 情報自体、不定ではない。真実は一つではない。観察者の数だけ存在する情報をどう利用するかが重要だ」

「?」

 チェターラが要領を得ない顔をしていると、アレック・ガルムは言った。

「私がお前の母親を愛するかどうかはまだ分からぬ、ということだ」

「! そんなことはございません!

 お父様はお父様です。そして、お父様はお母様を愛するはずです」

 だって。

 わたくしのお父様とお母様ですもの。

 理屈もなく、チェターラはそう思った。

 アレック・ガルムは自分の半分ほどの身長の娘から急に詰め寄られて微妙に目を丸くして見ていたが、否定せず答えた。

「愛するかもしれぬ。そうであれば浪漫だ。

 だが愛さぬかもしれぬ。

 それは今議論して判明することではない」

「でも……!」

 チェターラはなおも反論しようとした。

 が、アレック・ガルムは冷静にそれを制止した。

「議論を先にすべき事柄もあれば、実践が先の事柄もある。

 これは後者だ。

 実践すれば判明する。単純だ。

 会えば分かる。それだけのことだ」

「……それは、お母様と会ってくださるということですか?」

 アレック・ガルムは頷いた。

「私にも好奇心はある。

 明日から追ってみるとしよう。

 すぐにとは行かぬが、追いつけるだろう」

 チェターラは内心ではまだ納得していなかったが、少なくとも父親が母親に会おうとしてくれることは願ってもないことだったので、頷いた。「お父様も、きっとお母様に会っていただければ分かってくださるはずです」

「かもしれぬ」

 それから、アレック・ガルムは独り言のようにつぶやいた。

「お前は強情な娘だな。

 未来の私は、お前をどのように扱っていたのか」

 チェターラは、少し驚いてそれを聞いた。

 改めて思い返してみると、アレック・ガルムは冷静な態度の裏で未来の娘を扱うのに少々困惑していたようだった。

 ……わたくしの側は、お父様があまりお変わりないので、つい慣れた調子で話しかけてしまうのですけれども。

 ……お父様の側は、さすがに実感などないでしょうし。

 と、チェターラは思った。

 けれど、とも思った。

 わたくしが気安く話しかけてしまうのは、お父様が若い頃からあまりお変わりが無いのが悪いのです。若い頃から頼れる素敵なお父様であることが悪いのです。わたくしは悪くありません。ええ。えっへん。

 そんな風に唐突に自慢げな顔をしたチェターラを、アレック・ガルムは訝しげに見た。

 チェターラは、ちょっと気恥ずかしくなりながら言った。

「お父様は、今とそんなにお変わりないです」

「そうか」

 アレック・ガルムは頷いた後、ふと気になったらしく言った。

「未来の私は、お前のことをどう呼んでいるのだ?」

「『愛しい娘』と、そう呼んでくださいます」

「む」

 アレック・ガルムは、明らかに困惑した顔をした。今の若いアレック・ガルムからすると、そんな風に愛情を平然と表にした呼び方は選択肢になかったらしかった。

 その顔があまり見慣れなくて珍しかったので、チェターラはつい楽しくなった。

「呼んでくださいませんか?」

「……お前が本当に生まれた後に考えるとしよう。

 未来から来た奇妙な私の娘よ。今夜はもう遅い。休め」

 アレック・ガルムは会話を終わらせて、テントから立ち去った。


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