表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オークの娘さん  作者: yamainu
第1話 『オークの娘さん、城へ行く』
4/51

エドガーとエドマンド

 4、


 扉を開けると、強いタバコのにおいがした。

 部屋の中には、三人の男がいた。

 一人は、猫背の初老の男。王冠をかぶっているし、彼が王様だろう。

 残りの二人は、王様とはだいぶ年が離れた青年。二人は、ほとんど同じ顔をしていた。双子のようだ。

 部屋には他に、誰もいない。とすると、この二人が王子様! この国の王子様が双子だということを、チェターラは聞き知っていた。

 双子は同じ顔に違う表情を浮かべ、口論の真っ最中のようだった。

 一人は、最新式の紙巻きタバコをくわえ、短気そうな表情。

 もう一人は、タバコの煙を嫌うのか口元をハンカチで覆いながら、いらいらしつつも忍耐を見せた表情。

 くわえタバコで短気そうな表情の王子が、言った。

「道理の分からない奴だな、てめえ。石頭のエドマンド。良いものは良い。良いものは積極的に取り入れるべきだ」

「分かってないのは兄さんのほうだ。タバコの煙に頭をやられてる我が兄エドガー。急すぎる革新は国の生活を壊すものだ。ましてや別世界の文化など……」

「笑えるぜ、既にどっぷり使ってる生活をしていながら何を言う。

 てめえがオムレツからポタージュまで何にでもどっぷりかけて食いやがる、お気に入りのウスターソースも、別世界から伝わったもんだぜ?

 そもそも『ウスター』ってのが何の意味かも分かりゃしねえ」

「名前の意味は自分も知らない。

 だがその例で言うなら、別世界から受け入れたのは、あくまで技法だ。

 料理という既にある一文化における、調味料という一品の、製造技法。

 そういった技法の流入はまだいいんだ。いずれはこの世界でも誰かが同じことを考えつくだろう。それが早まるだけのこと。

 だから技法を取り入れることは、自分は許すつもりだ。

 ……それも、急すぎなければだけれど。

 だが、兄さんが押し進めようとしているのは、それとはレベルの違うことだ。文化の促進ではなく、文化の破壊だ」

 口論する二人を前に、栗色髪のメイドが話しかけるタイミングを伺い、チェターラと父親がただ待っていると、うんざりした様子で二人の青年の会話を見ていた王様が、チェターラたちに気づいた。

「おお、来たか。

 して、そこの娘がアレック・ガルムの娘か」

 アレック・ガルムが頷き、チェターラはドレスの裾をつまんで上品に一礼した。

「はい、王様。

 わたくしが、父アレック・ガルムの娘でございます。チェターラと申します」

「はっはっはっ、本当に、父親には何一つ似ておらんのう。

 ほれ、エドガー、エドマンド。我が息子たちよ。

 言い争いは止めて、こちらを向かんか」

 言われるまでもなく、二人は既にこちらを見ていた。

 まず最初に、くわえタバコのエドガーが、ちらりとチェターラを一瞥した後、アレック・ガルムに言った。

「なあ、猪面のオークのおっさんよ。あんたはどう思う。

 この国は、もっと新しいものを取り入れるべきだ。そうは思わねえか?」

「おいおい、まだその話を続ける気か……」

 王様がうんざりした顔をしたが、それにも構わず、今度は弟エドマンドが言った。

「オークの騎士殿は、野蛮なオークの文化を捨てて人間の文化を尊び礼儀を重んじる稀なお方だ。ならば、理解してくれるはずだ。

 この国の文化は、今のままであるべきだ。そうだろう?」

 アレック・ガルムは、肩をすくめた。

「私はただ、仕えるのみだ。

 それが私の誓いだ。お前たちがどのようであろうとも。妻の魂が見限らぬと思える限りは」

 アレック・ガルムの言葉を聞いて、くわえタバコのエドガーはつまらなそうに肩をすくめた。

「ちぇっ、オークのおっさんらしいや。つまりまあ、お互い勝手にやってろってことだな。

 話は終わりだな。俺は忙しい。もう席を外させてもらうぜ」

 外への扉に向かう途中、エドガーはチェターラとアレック・ガルムの横を通り過ぎた。話しかけてみるかどうかを内心で迷ったチェターラの鼻に、タバコの強いにおいがした。

 エドガーは気安く、アレック・ガルムの腕を叩いて言った。

「相変わらず、ひでえ香水のにおいがしてんな。

 じゃ、おっさん、また後でな。

 今日の正午、魔術師の爺さんのとこだ。忘れんなよ」

 エドガーはそのまま、チェターラには興味を示さずに扉の外に去った。


 ぐぬぬぬぬ!!!

 と、内心でチェターラは歯噛みした。

 わたくしにも、もう少し目を向けていただいてもよろしいと思うのですが!?


「では、自分も」

 兄エドガーが扉の外に去るのを待ってから、弟エドマンドも言った。

「残念だが、自分も予定があるんだ。人を待たせてる」

 エドマンドもチェターラとアレック・ガルムの横を通り過ぎて退出しようとしたが、ふと立ち止まった。ハンカチを鼻に当てたままだったが、チェターラに目を向けた。

「オークの騎士殿の可愛い娘さん。君は今日から城で働くんだったかな?」

「はい」

 内心で得意げに感じながら、表面上は出来る限り澄まし顔で、チェターラは答えた。

「そのつもりで参りました」

「そうか。なら、これからも顔を何度も合わすだろう。よろしく」

「はい。こちらこそ、でございます」

 礼儀正しくチェターラは一礼し、退出するエドマンドを見送った。


 内心は、こう。

 やった! ぃやっほう! 話しかけてもらえました!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ