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オークの娘さん  作者: yamainu
第2話 『オークの娘さん、母の魔法の日記を見る(前編)』
36/51

ハーピーのアパリアス

 15、


 その言葉を言われる前にチェターラが考えていたのは、こんなことだ。

 ……アパリアス伯母様、若い頃は本当にスレンダーだったのですね! 申し訳ございません、信じておりませんでした。


 アパリアスは、アレック・ガルムの腹違いの姉にあたる女性だ。オークの父親とハーピーの母親の間に産まれた、ハーピー娘。

 チェターラの記憶にあるアパリアスの姿は、ここが過去の時代らしいことを考えれば十年近く先の姿。その頃のアパリアスは、丸々と太っていた。どのくらいかというと、卵を抱いていると羽毛でふさふさの翼付き卵が小さい卵を抱いているように見えるぐらい。チェターラは来訪者の館でペンギンを見たが、あのペンギンよりもっと丸い体型。

 その頃にはアパリアスはもう飛ぶことをやめていて、異人族の領地から出ずに暮らしていた。

 だから、人間の街で暮らすアレック・ガルムたちと普段は遠く離れていた。チェターラが顔を合わせたのは、アレック・ガルムに連れられて異人族の領地を訪ねた数度の期間のみ。

 例えば最初に会ったのは、チェターラの幼少期に母親代わりになって住み込みで世話をしてくれた女性が異人族の村に帰ることになった際、彼女を送って初めて異人族の国に行ったとき。


 聞いた話が間違っていなければ、アパリアスは若い頃からずっと同じ仕事に就いていたはずだ。異人族の中でも特にハーピーによく任される仕事。

 外から連れてこられた別種族の女性たちの管理。

 異人族の中心であり略奪婚を基本としていたオークとゴブリンが村へと連れ帰ってきた女性たち。その世話や分配をする仕事。

 そこから発展して、人間の奴隷商から若い女性を買い付ける仕事まで。

「昔ぁさらうほうが多かったって聞くけどさ、今はそっちのほうが多いさね。

 男どもが人間の村から女をさらうのは軋轢を生むし、それなら円満に、金で買うのが互いのためさ。

 それに、言っちゃなんだが、あたしらに買われたほうが女たちもいい暮らしができるさ。気ぃ遣って世話してやってるからね」

 にやっと好色そうに笑って、彼女がそう言ったのを覚えている。

 ともかくそんな風に人間の商人と取引したり、捕まえてきた人間と話す機会が多い関係上、人間の言葉を覚える機会が多い役割でもあった。アパリアスも、人間の言葉を流暢に話すことができた。

 だから、時には本来の仕事から離れた通訳として村の外に出ることもあったそうだ。

 今ここにいるのも、戦利品の管理の他にそういう役割もあってのことだろう。

 そしてチェターラが聞いていた本来の出来事通りなら、アレック・ガルムが捕らえた母親リクアとの会話で初期の橋渡しをしていたはず。


 が、今。

 リクアは逃げてしまい、代わりにいるのはチェターラ。

 アパリアスが言うには、アレック・ガルムにはチェターラに子供を産ませる権利があるそうだ。チェターラは焦った。

 いえ、いいえ、いいえ! それは駄目でしょう!

 アパリアス伯母様はわたくしのことが分からないからそんなことを言うのでしょうけれど、わたくしはお父様の娘ですし……!


 ……どうにか、お父様とお母様を改めて出会わせないと。

 チェターラは、焦って口をぱくぱくしつつも何も言えずにいた。

 その間に、レイヤ少年をナイフで脅しつつ周囲の様子を見ていたトラシが言った。

「ここは粗方、カタがついたな。

 他の連中はみんな、逃げた奴らを追い始めてるぜ。

 俺たちはどうする?」

「む……」

 アレック・ガルムは拳銃を熱心に調べながら考えていたが、眉をしかめ、それからトラシに顔を向けた。

「その人間を縛り上げてから、お前は追撃に参加しろ。

 私はまず傷の手当てをする」

「ま、じゃ、先に行かせてもらうか」

 トラシはアパリアスが携帯していた縄を受け取ってレイヤ少年の腕を乱暴に縛り上げてから、縄の一端をアパリアスに渡し、自分は去った。

 アレック・ガルムはまだ調べ足りない様子で名残惜しげに拳銃を脇に置き、どっかとその場に腰を下ろして、自分の腿に開いた銃創の応急手当を始めた。

 その傷を覗き込み、アパリアスが言った。

「ああ、珍しいね、あんたが行動に支障をきたすような傷を負うなんざ。その見慣れない武器に意表を突かれたのかい。

 意外と深そうだ。

 こりゃ、前線に出るのはやめたほうがいいんじゃないかね。うまいこと戦利品の女と興味のある玩具も手に入れたみたいだし、他の連中に任せて先に村に帰ったらどうさね」

 それを聞いて、思わず、チェターラは言った。

「だ、駄目です! お母様と出会わないまま帰ってしまうなんて!」


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