浪漫と権利
14、
銃声が響いた瞬間、チェターラは思わずアレック・ガルムに駆け寄っていた。
「お、お怪我は大丈夫ですか、お父様!?」
「……」
太股に銃創を受け、膝をついたアレック・ガルムは、訝しそうにチェターラを見た。その視線を受け、ハッとして、チェターラは思わず若い父の傷口に伸ばしかけた手を止めた。
「あの、その……わたくし、怪我のお手当を……」
「……触るな。奇妙な娘よ」
他人を見る目。
チェターラは、びくっと身を縮めた。
……ああ、やはり、つらい。
……お父様に、そのような目で見られるのは。
アレック・ガルムは涙ぐんだチェターラから視線を外すと、レイヤ少年に目を向けた。
片膝の状態から足に力を込めて立ち上がり、一瞬だけ調子を確かめるような様子をみせた後、太股の銃創から血が吹き出るのにも構わず、少年との距離を無造作に詰めた。
レイヤ少年は、チェターラがアレック・ガルムに駆け寄った時点から戸惑って行動できずにいたところを虚を突かれ、反応が遅れた。
近づかれたことに気づいてレイヤ少年が距離を離そうと後ずさる前に、アレック・ガルムは、むんず、と少年が手に持っていた拳銃を片手で奪い取った。
少年はあっけにとられ、遅ればせながら身構えたが、アレック・ガルムの興味は奪い取った拳銃のほうに向いていた。冷静に見える目で、丹念に調べていた。
「珍しい武器だな」
言った。
「浪漫を感じる」
……浪漫?
いつも現実的な父親の口からはあまり聞いたことのない単語だったので、チェターラは少し首を捻った。
戸惑っているチェターラとレイヤ少年の視線を受けながら、アレック・ガルムは、ぎろりと少年の後ろをにらんだ。
「やめろ、トラシ」
少年の後ろから、声。
「なんだ? こいつ、生かしとくのか?」
ぎょっとして、少年は後ろを見た。
いつの間にか、小柄なゴブリンがそこにいた。面白がるように、手にはナイフを弄んでいた。
アレック・ガルムは言った。「この武器について知りたい。使い方。出所。聞き出すまでは、待っていろ」
それから、拳銃に興味を向けたまま大声で言った。
「おい、アパリアス!」
少しの間の後、離れた上方から騒がしい羽音が近づいてきた。チェターラが見ると、人の腕の代わりに翼が生え、人の足の代わりに鳥の足が生えた、スレンダーな体躯のハーピーがこちらにやってきていた。
「あいさ、アレック。あに用さ」
ハーピーの女性はチェターラとレイヤ少年に気づくと、特にチェターラに興味津々な様子を見せて舞い降りた。
チェターラが避ける間もなく、鉤爪のついた足でチェターラの肩に着地した。「きゃあっ!?」見かけよりは軽かったが、それでもそれなりの重さに少しよろけて、倒れそうになった。
しかし、倒れなかった。というよりも、倒れられなかった。ハーピーの女性がうまく重心を制御していて、チェターラの体は前にも後ろにも動かなかった。あと、肩をがっちり掴まれていて、腕もあげられなかった。
ハーピーの女性は肩の上に乗ったまま、上下逆に覗き込む形で、チェターラの顔をじろじろと観察した。
「ふむふむ。なんでこんな場所にこんな子がいるのか知らんけどさ、男どもから人気が出そうな上玉じゃないか」
ハーピーの女性アパリアスは、さらに顔を近づけて、すんすんと軽くにおいをかいだ。なんとなくローリエを思いだしてチェターラは顔をしかめたが、身をよじらせようにも肩を押さえられてうまく動かせなかった。
アパリアスは言った。
「まだ子供を産ませるには早いか。
しばらくは飼っておくさね」
顔を上げて、アレック・ガルムに言った。
「ああ、アレック。最初の権利はあんたのもんさ。あんたが見つけた女だからね」
「権利?」別の考え事をしながらアパリアスの顔を見ていたので、チェターラは半分上の空で聞いた。
すると、アパリアスは好色そうな顔で、チェターラの顔をまた上下逆に覗き込んだ。
「権利。権利だよ。おぼこちゃん。あんたを好きにする権利。
あんたに子供を産ませる権利」
……は?
なんと、おっしゃいました?




