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オークの娘さん  作者: yamainu
第2話 『オークの娘さん、母の魔法の日記を見る(前編)』
34/51

愚かさとは何か

 13、


 数分前。


「くっ」

 と、女騎士リクアは思わず歯噛みした。

 突然走り出したチェターラと、数秒遅れて後に続いたレイヤ少年の姿は、子供らしい敏捷さで離れていった。騎士と異人族、大人たちが血を流している場所へと。

 リクアは、思わず追いかけようとしていた自分を制止した。

 団子鼻のマームジーが言った。

「ど、どうします?」

「……捨て置け。脱出を急ぐぞ」

 踵を返して、リクアは馬をつないである場所へと向かった。

「あら」不審人物三人の中では唯一その場に残っていたローリエが、リクアの後に続きながら言った。「いいんですか? なんだか後ろ髪を引かれているようですが♪ 助けに行きたいんじゃないですか?」

「わざわざ自分から死に近づく無分別な子供たちに構う余裕はない」

 リクアは顔をしかめてローリエを見た。

「貴様こそ、連れの自殺行為を何とも思わないのか?」

「人の命って、そんなものでしょう?」

 ローリエは肩をすくめた。

「死ぬときは死ぬものです。死の理由が愚かさであることも、珍しくはないものです。

 生きていて欲しいとは思いますが。それだけです」

「貴様は信用できんな。一目見たときから思っていたが」

「まあ♪」

 ローリエは、気にした様子もなく笑顔を返した。リクアはますます不機嫌顔で、馬の場所へと急いだ。

 到着すると、自分の馬をつないでいた縄を素早くほどき、飛び乗った。

「後ろに乗れ」

 事務的に、ローリエにそう言った。

 ローリエを後ろに乗せると、リクアは馬を進めて少し開けた場所に出た。

 マームジーや他の騎士たちが馬に乗るまでの間、リクアは周囲を警戒して異人族が近づいてきていないか見張った。その合間に、自分たちが来た方向を振り返った。

 燃え落ちていく野営地。炎に包まれたテントとまだ無事なテントが並んだ合間の向こうに、先ほどチェターラたちが向かった先が見えた。

 チェターラとレイヤ少年が、屈強なオークと対峙しているのが見えた。

 距離は遠く、リクアにはどうすることもできないと分かっていた。それでも顛末ぐらいは見届けようと、見つめた。

 オークの巨躯が少年に迫ったとき、距離のために小さくだが、聞き慣れない乾いた音がした。

 銃声のようだ、と、リクアは思った。

 銃。

 王都にある魔術師の塔に時折現れる来訪者からもたらされた知識で、城に仕える一部の者はその存在を知っていた。リクアは、試しに作られた実物を見たこともあった。もっとも、いくら来訪者が別世界からもたらした知識があっても、この土地で再現する技術は未熟で、実戦に配備するに足るものは作れていなかった。

 ましてや、あの少年が隠し持てるような小型化されたものなど、考えてもいなかった。

 オークの動きが止まり、膝をついた。

 そのとき、馬の後ろに乗せていたローリエの体がわずかに強ばったのにリクアは気づいた。振り向いて見ると、ローリエが、じっと子供たちとオークの様子を見ていた。

 またオークと子供たちに目を向けると、膝をついたオークの横に、まるで思わず心配してそうしたとでもいうように、チェターラの小柄な姿が駆け寄っているのが見えた。

 リクアは困惑して顔をしかめた。そもそも危険な戦場に走り出したこともそうだが、あの子は何を考えているんだ?

 ともかく、オークの傷は深くはないようだ。膝こそついたものの、倒れる様子はなかった。

 再びローリエを見ると、もう何事もなかったような顔をしていた。

 言った。

「そろそろわたしたちも逃げませんか?

 ふふ♪ オークに捕まりたくはないでしょう?

 それは素敵な出会いかもしれませんが。捕まって、愛が芽生えて、素敵な子供をもらうかもしれませんが♪」

「笑えん冗談を言うな」


 マームジーや他の騎士たちが一通り馬に乗って森に駆け出し終えたのを確認して、リクアも馬を森へと走らせた。


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