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オークの娘さん  作者: yamainu
第2話 『オークの娘さん、母の魔法の日記を見る(前編)』
32/51

退却

 11、


 野営地のテントのうち、三分の一ほどが炎をあげて燃えていた。

 周囲の森の闇の内側、まるで別世界のように赤々と染まった景色の中で、炎の音と、武器がぶつかる音と、異人族の雄叫びと、人間の怒声が飛び交っていた。

 それから、におい。物が燃えるにおい。

 異人族の先頭は半人半馬のセントールで、その背にはゴブリンが乗っていた。まだ統制が取れずにいる人間たちの間をセントールは我が物顔で駆け回り、その背ではゴブリンが手に持った火矢を手当たり次第に放ち、そのたびに、新しくテントが燃え上がった。

 騎士たちが彼らを止めようとしていたが、武器を持ったセントールは手強く、背の上のゴブリンに騎士たちの攻撃を近寄らせなかった。

 騎士たちの側になお分が悪いことには、奇襲でテントを焼き討ちされたために武具を持たないまま放り出された者も数多くいた。弓矢などの武具を集めた場所は真っ先に燃やされていた。

 炎が生み出した混乱に続いて森の闇の中から続々とゴブリンやオークの姿が現れ、右往左往する騎士たちに襲いかかっていた。

 

 女騎士リクアは近くの大きなテント付近にいた団長格らしい人々のところに走って向かったが、すぐに戻ってきた。

 それとほぼ同時に、陣鐘の音と伝令の声が鳴り響いた。

 声は言っていた。

「退却だ! 逃げろ!

 この野営地は捨てる! 散開して、各自、フウィスへ向かえ!」

 フウィスは森のすぐ外にある都市で、騎士たちが森に入る前に立ち寄った場所だった。そこまで逃げろと、そういう指示らしかった。

 リクアはマームジーたちに言った。

「聞こえたな!

 退却だ!

 もはや状況が悪すぎる。敵の数も多い。

 この場で抗戦しても全滅するだけだ。

 できるだけ多く生き延びて、森を出ろ!」

 ……。

 え? 退却?

 初めて見る戦場の混乱にチェターラの思考はまだ追いついていなかったが、リクアはそんなチェターラの様子に構う様子はなかった。マームジーに向けて、チェターラたちを示して言った。

「マームジー。この者たちは、ひとまず民間人として扱う。

 私と貴様とで、馬に乗せて逃がす」

「はっ」

「よし。馬のところへ行くぞ!

 馬のない他の者は、自分の足で森を抜けろ!」


 退却?

 ……。

 リクアとマームジーに先導されて馬のところへ向かいながら、チェターラは思った。これは、どういう状況なのでしょうか?

 場所は、夜の森。騎士たちの野営地。

 お母様と同じ名前で、同じ手帳を持っている女騎士。そして異人族の襲撃。

 リクアの名前を聞いたときから、チェターラは思い当たっていた。今の状況は、今朝、お父様から聞いていた状況そのものだ。

 お父様がお母様と戦い、お母様を捕まえたときの状況そのもの。

 でも。

 ならば、ここではお母様は、野営地が退却する前にお父様と出会っていなければならないのでは?


 チェターラは、リクアに言った。

「あの! あなたは今日、オークに会いましたか!?」

「? 何を言っている?

 今まさに異人族の襲撃を受けている。貴様にも見えているだろう。

 立ち止まるな。こっちだ」

 リクアはアレック・ガルムには会っていない。本来は、野営地周囲の森の中で出会うはずだったのに。

 混乱して、チェターラは思わずリクアの腕をつかみ、引き留めた。

「あなたは逃げちゃダメです!

 お父様とお会いにならないと……!」

「意味の分からんことを言うな! 今は黙ってついてこい!」

 リクアは取り合わなかった。当然だろう。

 リクアは引き留めようとするチェターラの腕を振り払い、逆にチェターラの腕をつかんで引っ張っていこうとした。


 引っ張られながら、混乱して、チェターラは戦場を見た。

 騎士たちの一部が残り、他の者たちが森へ離散して退却するための時間を稼いでいた。おもに森の西側方面からは、異人族たちがまだ続々と姿を現していた。

 オークの棍棒や蛮刀が、騎士たちを鎧の上から叩きのめしていた。

 盾を持った騎士たちが壁を作ろうとするが、機動力に優れたセントールや小回りの利くゴブリンに攪乱され、分断され、そうしている間にまた一人、また一人とオークの力任せの攻撃の餌食になっていた。

 その中でも特に。

 ものすごい勢いで騎士たちがなぎ払われている一画があった。

 今もまた、チェターラが見ているうちに、騎士たちが数人まとめて吹き飛ばされた。

 右手に棍棒を持ち、左手に蛮刀を持った姿があった。騎士たちが盾を構えれば盾ごと棍棒で吹き飛ばし、少しでも隙を見せれば蛮刀で首や手足をはねる、血をまとう暴風のような姿。

 あれは……。


 !


 思わず。

 リクアにつかまれていた腕を振り払い、危険も忘れて、チェターラはそちらに向けて走り出した。

 炎のにおいと鉄のにおいが強くなるのも気づかず。血のにおいにすら鈍感なまま。

 リクアが背後で慌てて何かを言ったようだが、聞こえなかった。

 あれは!

 あのお姿は!

 まだ距離があったし、若くて、少し印象は違ったけれど、それでも、分かった。ええ、見間違えなどしませんとも!

「お父様!」


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