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オークの娘さん  作者: yamainu
第2話 『オークの娘さん、母の魔法の日記を見る(前編)』
31/51

野営地

 10、


「愛しい娘よ。私が妻の顔を初めて間近に見たのは、チェタ森でのことだ。

 お前の名前は、その森の名から取った」

 と、チェターラにとっては数時間前の朝、父親のアレック・ガルムは言った。

「当時、私たちはデイラ王国と秘密裏に協定を結んだ。敵軍の移動経路の情報提供を受け、森の中を少人数に別れて進み、騎士たちの一団を急襲した。

 妻は、騎士たちの野営地の端で、見張り役をしていた。

 同行していたゴブリンのトラシが、まずは彼女に仕掛けた。彼女は奇襲をかわし、声をあげた。声は野営地に伝わり、周囲は騒がしくなった。

 トラシと彼女の戦いは彼女が優勢で、トラシは下がり、私が彼女と戦った。彼女を打ち負かすまでには、数刻もかかった。

 その間に、私たちの軍が野営地を攻撃していた。騎士たちは劣勢を悟り、彼女を置いて退却していった」


 今。

 チェターラはリクアの横に並んで、騎士たちの野営地を歩いていた。

 ローリエと少年が前を歩かされていた。その位置関係は、リクアが二人を視界の外に出さないためのようだ。もし彼らが逃げてもすぐに人質にできるように、リクアはチェターラの肩をしっかりとつかんでいた。

「そんなに警戒しなくても、何もしませんよ?

 わたし、おとなしいメイドですから♪」と、ローリエ。

「なら、おとなしく前を歩いていろ」

 リクアは疑わしげにローリエを見ながらそう言った。

 ローリエが歩きながら振り向いて、リクアに聞いた。

「で、どちらに向かいます?」

「まっすぐだ。一番大きいテントの、一つ向こうのテントに入れ」

 いくつもテントが置かれた野営地を横断し、そちらへと向かった。

 夜も遅い時間らしく、テントの多くは寝静まっていて、起きている人影は少なかった。ところどころにある焚き火の周辺に、ちらほらと姿が見えるくらい。彼らは軽装の騎士と兵士たちで、チェターラたちを見ると、何人かは物珍しげに寄ってきた。

 リクアが彼らと言葉を交わし、道を開けるように言いながら先に進んだ。

 しばらく歩いていると、馬の軽いいななきが聞こえた。

 チェターラがそちらを見ると、馬が数十頭ほど見えた。騎士たち用の馬のようだ。テントの数から想像できる人間の数に比べて馬の数は少なかった。後で知ったが、一部の騎士たちが自分の愛馬をつれてきていた他は、みな徒歩で、森を抜けた先で改めて馬を調達する予定だったらしい。

 指揮官クラスがいるらしい大きめのテントの前を通り過ぎ、少し離れたテントの中に入った。

 中には、騎士と兵士が数人いた。そのうちの一人、丸顔で団子鼻の、人の良さそうな若者が、先頭で入ってきたローリエを見て言った。

「うわっ、メイド?」

「はい、メイドです♪ こんな森の奥に突然メイドですが、怪しい者ではないです♪」ローリエが答えたが、相手の顔をよく見て、言った。「あら、あなた、マームジーさんでは?」

「?」

 人の良さそうな若者は、ローリエに名前を呼ばれて驚いた顔をした。

 リクアが言った。「マームジー、貴様、この女を知っているのか?」

「いや、知りませんが……」

 マームジーは、戸惑った顔でローリエを見た。

「メイドさん。初対面、ですよね?」

 ローリエは言った。「……そうですね。人違いみたいです。わたしがお城で知ってるマームジーさんは、もう少しお年が上でした♪」

「城のメイドさんですか? メイドの顔は全部覚えていると思っていた僕がまだ顔を覚えていないメイドがいたなんて! しかも、どうやら僕の父が先にあなたと会っている? メイドの人脈で父に負けた!

 あ、おそらくあなたが言っているのは僕の父のことかと」

「わたしの知っているマームジーさんも親子二代のメイド好きでしたね♪」

 リクアがローリエに言った。

「貴様、城のメイドか? だとしても、ここにいる理由がやはり不可解だが……。

 まあ、いい。それも含めてこれから問いただせてもらう。

 マームジー、貴様は出入り口を見張っていてくれ」

 マームジーは見張りとして出入り口に立った。他にも数名の兵士がいて取り囲まれた状態で、チェターラたちは座らされた。

「改めて貴様たちの言葉を聞こう。

 まずは名前だ」

 リクアにそう言われて、チェターラとローリエは自分の名前を名乗った。

 次にリクアは少年を見た。慌てて、チェターラが言った。

「この方は、わたくしたちの言葉を知らないのです。

 少々お待ちくださいませ」

 辞書を取り出してめくり、少年に聞いた。

「(名前)(聞かれてます)」

 少年は頷くと、リクアとチェターラに答えた。

「ホテイ・レイヤ」

 それが少年の名前のようだ。ホテイという名前には聞き覚えがある気がしたが、チェターラたちには馴染みがなく聞き取りづらい発音で、確信はなかった。

「ローリエに、チェターラに、レイヤだな。

 さて……」

「あの」チェターラが口を挟んだ。「お聞かせくださいませ。今は何年何月なのでしょうか?」

 急に質問されて、リクアが不機嫌な顔をした。

「質問はこちらがする。貴様たちはまず、聞かれたことを答えろ」

 だが、会話はそこで中断された。


 突然、外から大きな破壊の物音がした。それから、声と雄叫び。

 危急を告げる声と、高揚の雄叫び。

 人間の声と、人間とは違う者たちの雄叫び。

「!」

 リクアは素早く、テントの出入り口に向かった。出入り口から外を見ていた団子鼻のマームジーに聞いた。

「おい、どうした!?」

「分かりません!」

 出入り口の隙間から、外の光が見えた。たき火だけでなく、もっと大きな炎。

 それからようやく、外からの人間の声が聞き取れた。

「敵襲だ!

 異人族だ! 応戦しろ! 寝ている者は起きろ!

 もう野営地に入り込まれている! ……ぐぁっ!」

 その声は途絶え、別の人間の慌てる声と、異人族の雄叫びの中に消えた。

「……くっ! 奇襲を完全に許したか!」

 リクアが歯噛みして、テントの外をにらんだ。


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