若き日の姿
9、
チェターラは、驚いて目の前の女騎士を見た。怒りっぽそうな女騎士さん。
リクアという名前の女騎士。
チェターラの母親と同じ名前の女騎士。
……名前が同じ、だけなのでしょうか?
女騎士リクアは、チェターラが日記を取ろうとする動作を急に止めたのを不思議そうに見たが、これ幸いと日記を懐にしまい、自分に呼びかけてきた声のほうを向いた。
近づいてきた金髪で糸目の騎士が、チェターラたちに気づいて言った。
「おやおや、なんですかね、その子たちは」
「知らん。だが捨ててはおけんだろう」と、リクア。
「あの、お聞きしてもよいですか?」
と、ローリエ。
「そもそも、ここってどこでしょう? わたしたち、道に迷ってしまいまして♪」
「迷って、こんな森の奥まで? そんな格好で?」
リクアは、じろじろとチェターラとローリエを見た。メイド服。
確かに、森の深くに出入りするような格好ではなさそう。
「信用できないな」
「じゃ、斬り捨てましょうかね」と、金髪で糸目の騎士。
ぎょっとして、チェターラは金髪の騎士を見た。騎士は、ニヤニヤしていた。冗談のようにも見えたが、本気のようにも見えた。
リクアが、咎めて言った。「やめろ。貴様は短絡的にすぎる」
騎士は、肩をすくめた。
リクアは続けて言った。
「私がこの者たちを本営につれていって詳しい話を聞く。
貴様は、ここに待機して私の代わりに見張りをしていろ」
「見張り? ここでですか?」
騎士は、さらに大仰に肩をすくめた。
「リクア殿、警戒しすぎじゃないですかね。
隊長殿もおっしゃってたでしょう。ここまで敵は来ませんよ。
無駄に一晩中、私に目を開け続けてろってんですか」
「……」
リクアは、気難しげに金髪で糸目の騎士をにらんだ。
それから、森の一方をにらんだ。
「この森の遙か西は、異人族の森につながっている。
私には、この森が安全だとは思えない」
「ははっ、それこそ心配性が過ぎますよ。
どんだけ距離があると思ってんです。
その途中も、ずっと森ってわけじゃない。人の行き交う道が横断して、関所だってあるんです。
見つからずにここまで来れるだけの脳味噌は、異人族の奴らには無いと思いますがね」
「……いいから、私が戻ってくるまで見張っていろ。
なるべく早く戻ってくる」
「はいはい、リクア殿に従いましょうか」
金髪の騎士は、不承不承と言った様子で頷いた。
リクアはそれを見てから、チェターラたちに顔を向けた。
「貴様ら、ついてこい。斬り捨てられたくなければ」
チェターラは、ローリエを見た。
ローリエが答えた。
「他にしようもありませんし、ついて行きましょう」
チェターラは頷いて、それから、少年を見た。少年に言葉を伝えるための辞書はまだ持っていたので、言葉を探して、ひとまずついていこうという意志を伝えた。
リクアにつれられてチェターラたちがその場を離れるのを、金髪の騎士は気だるそうに見送った。
彼らの姿が見えなくなった後、金髪の騎士は一人ごちた。
「やれやれ、女騎士殿の生真面目さには付き合いきれんね。
付き合わされて損をするのもやりきれない。
……酒でも持ってくりゃあよかったかね」
しばらく焚き火の明かりの中で、手持ち無沙汰に時間を潰した。
すると。
背後から。
森の奥から。
キイキイと甲高い音が混じるような、しゃがれた声がした。
「クク、人間。コッチヲ向キナヨ」
驚いて、金髪の騎士はそちらを見た。
見えたのは、人間ではなく異人族の人影。
ゴブリン!
そう気づいて、仲間を呼ぶ声ためにか、それとも雄叫びか、武器に手を伸ばしながら声を上げようとした瞬間。
喉に、ナイフが突き刺さった。
声もあげずに倒れる金髪の騎士を、ナイフを投げたばかりのゴブリンが、馬鹿にしたように見守った。
そのさらに後ろには。
腕を組んで品定めをするような表情の、緑褐色の肌の、猪顔の巨漢が見えた。
彼が、異人族の言葉で言った。
「ナイフを投げる前に声をかけてやる必要があったか? トラシ」
「ふん、ハンデさ」人間の言葉をしゃべるときとは違い、流暢な声でゴブリンが答えた。「そのくらいはしてやってもいいだろ。そして、こいつはそれを生かせなかった」
ゴブリンは、馬鹿にしたように騎士の死体を見下ろしてから、猪顔の巨漢に笑顔を向けた。
「貴様が出てくるまでもなかったってこったな。アレック・ガルム」
と。
ゴブリンのトラシは、若いオークのアレック・ガルムに言った。




