玉座の間
3、
きっとここでなら、わたくしのことを愛してくれる人がいるはず。
だって、お城は上流階級の場所。
口さがない町の人々とは文字通り住む世界が違う、洗練された場所。
ここでなら。
わたくしを、わたくしが愛するお父様の娘としてのまま、そのまま愛してくれる誰かが、きっといるはず。
と、チェターラはそう思いながら、玉座の間に入った。
最初に正面の玉座を見たが、その豪華な椅子には誰もいなかった。
栗色髪の年若いメイドが一人、入り口のすぐ傍でアレック・ガルムと娘のチェターラを待っていた。
「王様は今、談話室にいらっしゃいます。
こちらへ」
メイドはそう言うと、玉座に向かって右側にある扉へと、先に歩んで案内した。
扉を開けると、柔らかな青い絨毯が敷かれた廊下が伸びていた。両側の壁には、幾つかの扉。どうやら、王族の私的な部屋が多くある区画になっているらしかった。
三人は、廊下を歩いた。
城に仕えるアレック・ガルムは談話室の場所も分かっているらしく、メイドに案内されるまでもなく進んだ。栗毛髪のメイドがその横を並んで歩き、チェターラは二人の間、半歩後ろを歩いた。
メイドはアレック・ガルムと顔見知りらしい様子で、言った。
「そちらの子が娘さんですか。
話は聞いていましたが、綺麗な娘さんですね」
「うむ。
目に入れても痛くない、可愛い娘だ」
「おやおや、相変わらずの子自慢で」
チェターラは良い気分でその会話を聞きながら、メイドに言った。
「わたくし、チェターラと申します。
父がお世話になっております」
「……」
メイドは、笑顔のまま、無言で、妙に目力のある動かない瞳で、チェターラを見ていた。
チェターラがその様子に首をひねる一瞬手前で、メイドは言った。
「……フフッ。はい♪ こちらこそ、もっとお世話をさせていただきたいと思ってます」
「?」
チェターラが改めて首をひねる前に、廊下の途中の扉の前で、メイドは立ち止まった。
「王様は、こちらに王子様方と一緒におられます」
王子様!?
それを聞いて、チェターラは、こっそりと、着衣の身仕舞いを改めた。
王子様ぐらい高貴なお方なら、きっとわたくしの美しさにすぐ目を留めていただけでるでしょう。外見には一目で。そして、心の美しさにもすぐに。
ええ、きっとそう。そうでなくては!
扉が開いた。