ドアの前で
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来訪者の館には、ローリエもついてきた。
「……あなたはついてこなくてもいいのですけど」
「あら、つれないですね♪
まあ、新人メイドを一人で歩き回させるのもどうかと思いますので。あなたのお父様からも、あなたのことを頼まれてますから」
館の中に入ると、二階に上がる階段の前に、エドマンドの部下らしい兵士が二人待機していた。
「お前たち、何の用だ?」
「二階にいる、来訪者の方にお会いしたいのですけれど」
チェターラがそう言うと、兵士はチェターラたちを通すかどうか迷う様子を見せた。
だが、
「これから何度もお掃除に来るので、挨拶に来たんです♪
今まで来られた方にも、そうするのが慣例でしたので」
ローリエがそう言うと、兵士は場所を開けて通した。
階段を上ってから、ローリエが言った。
「こういうのはですね、自分はここを通る当然の権利があるという顔をしておくものです。
実際、わたしたちはやましいところの何もないメイドですから。城の敷地の隅々まで、掃除をする必要のある場所すべてに当然の権利があります。はい♪」
二階の、一番奥の部屋に向かった。
昨日までは、アオイという女性が住んでいた部屋。それが、そのまま少年の部屋になっているとのことだった。
ドアの前に立ってノックしようとしながら、チェターラは内心ドキドキして、ためらった。
昨日会ったとき、少年は、チェターラのにおいをかいで鼻水とくしゃみでひどいことになっていた。そして、近づかないでくれと、拒絶された。
それは、どうやら香水のせいだったということで。
今日は、香水をしてこなかったから大丈夫と思いたいけれど。
もし変わらなかったら、どうしよう。
香水のない、わたくしそのもののにおいでも、嫌われてしまったら。
ドキドキ。
そうして、ノックしようとする手がずっと止まっていると。
背後から。
「す・き・あ・り♪ すー、はー、すー、はー」
「きゃあっ!?」
なんか邪悪な気配、というか、うなじあたりにローリエの呼吸を間近に感じたので、慌てて前に飛び退いた。
ドアを背にして振り返り、ローリエをにらんだ。
「何をしてるんですか!」
「いえ、緊張してると、汗のにおいがしてきますよね♪ 素敵ですよね!」
「意味が分かりませんけど!」
「まあ、そんなことより……」
ローリエが、ずずいと近づいてきた。
思わず、のけぞって、さらに背後のドアに寄りかかった。
そのとき。
背後のドアが開いて、バランスを崩して、背後に倒れた。
「きゃっ」
「! ▽◇×」
だが倒れる前に、誰かに抱き留められた。
誰か。
というか、昨日の少年。
思わず、背後から抱き留められたまま首だけをひねって、少年の顔を見つめた。
「……迷ってないで、さっさと入ったら、と言おうと思ったんですが。なんだか大胆な形になりましたね」と、ローリエが言った。
それから。
チェターラはハッとして、少年の顔色をうかがった。
チェターラより少し年長の、黒髪の少年。別世界から来た少年。
少年は、抱き留めたのが昨日出会った少女だということに気づくと、一瞬、体をこわばらせた。どうやら、昨日チェターラのにおいで香水アレルギーの症状が出たことを思い出したらしかった。
だが、どうやら今日は大丈夫らしく。
少年は離れることなく、そのままでいた。
チェターラは、ほっとして、それから、自分が背後から抱き留められているのを意識して顔を赤くした。
こんなつもりじゃなかったのですけれど、でも、悪くないんじゃないでしょうか!? 今日は少しでもお話できればぐらいに思っていたのですけれど、でもでも、こういうアクシデントも、ありなのでは。どうでしょう!
少年は、チェターラがもう倒れかかっていないと判断すると、慎重に、手を離した。




