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オークの娘さん  作者: yamainu
第2話 『オークの娘さん、母の魔法の日記を見る(前編)』
27/51

ドアの前で

 6


 来訪者の館には、ローリエもついてきた。

「……あなたはついてこなくてもいいのですけど」

「あら、つれないですね♪

 まあ、新人メイドを一人で歩き回させるのもどうかと思いますので。あなたのお父様からも、あなたのことを頼まれてますから」

 館の中に入ると、二階に上がる階段の前に、エドマンドの部下らしい兵士が二人待機していた。

「お前たち、何の用だ?」

「二階にいる、来訪者の方にお会いしたいのですけれど」

 チェターラがそう言うと、兵士はチェターラたちを通すかどうか迷う様子を見せた。

 だが、

「これから何度もお掃除に来るので、挨拶に来たんです♪

 今まで来られた方にも、そうするのが慣例でしたので」

 ローリエがそう言うと、兵士は場所を開けて通した。

 階段を上ってから、ローリエが言った。

「こういうのはですね、自分はここを通る当然の権利があるという顔をしておくものです。

 実際、わたしたちはやましいところの何もないメイドですから。城の敷地の隅々まで、掃除をする必要のある場所すべてに当然の権利があります。はい♪」


 二階の、一番奥の部屋に向かった。

 昨日までは、アオイという女性が住んでいた部屋。それが、そのまま少年の部屋になっているとのことだった。

 ドアの前に立ってノックしようとしながら、チェターラは内心ドキドキして、ためらった。

 昨日会ったとき、少年は、チェターラのにおいをかいで鼻水とくしゃみでひどいことになっていた。そして、近づかないでくれと、拒絶された。

 それは、どうやら香水のせいだったということで。

 今日は、香水をしてこなかったから大丈夫と思いたいけれど。

 もし変わらなかったら、どうしよう。

 香水のない、わたくしそのもののにおいでも、嫌われてしまったら。

 ドキドキ。

 そうして、ノックしようとする手がずっと止まっていると。

 背後から。

「す・き・あ・り♪ すー、はー、すー、はー」

「きゃあっ!?」

 なんか邪悪な気配、というか、うなじあたりにローリエの呼吸を間近に感じたので、慌てて前に飛び退いた。

 ドアを背にして振り返り、ローリエをにらんだ。

「何をしてるんですか!」

「いえ、緊張してると、汗のにおいがしてきますよね♪ 素敵ですよね!」

「意味が分かりませんけど!」

「まあ、そんなことより……」

 ローリエが、ずずいと近づいてきた。

 思わず、のけぞって、さらに背後のドアに寄りかかった。

 そのとき。

 背後のドアが開いて、バランスを崩して、背後に倒れた。

「きゃっ」

「! ▽◇×」

 だが倒れる前に、誰かに抱き留められた。

 誰か。

 というか、昨日の少年。

 思わず、背後から抱き留められたまま首だけをひねって、少年の顔を見つめた。

「……迷ってないで、さっさと入ったら、と言おうと思ったんですが。なんだか大胆な形になりましたね」と、ローリエが言った。


 それから。

 チェターラはハッとして、少年の顔色をうかがった。

 チェターラより少し年長の、黒髪の少年。別世界から来た少年。

 少年は、抱き留めたのが昨日出会った少女だということに気づくと、一瞬、体をこわばらせた。どうやら、昨日チェターラのにおいで香水アレルギーの症状が出たことを思い出したらしかった。

 だが、どうやら今日は大丈夫らしく。

 少年は離れることなく、そのままでいた。

 チェターラは、ほっとして、それから、自分が背後から抱き留められているのを意識して顔を赤くした。

 こんなつもりじゃなかったのですけれど、でも、悪くないんじゃないでしょうか!? 今日は少しでもお話できればぐらいに思っていたのですけれど、でもでも、こういうアクシデントも、ありなのでは。どうでしょう!


 少年は、チェターラがもう倒れかかっていないと判断すると、慎重に、手を離した。


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