母の日記
5、
え!?
チェターラは、日記に書かれていた名前に驚いた。
女騎士リクア。
それは。
チェターラの母親の名前。
字も、見覚えがあった。チェターラの家には母親が残した日記があって、手帳の文字は確かにそれと同じだった。
……お父様の部屋にあるお母様の日記は、ちょうどお父様がお母様に出会う少し前のところで終わっていて。その後の日記は残っていないと聞いていたのですけれど。
それが、こんな場所にあったなんて!
チェターラは、ページをめくった。
ところどころを走り読みしつつ、最後がどこまで書かれているかを知りたくて先へ先へとページを進めた。
日記は手帳の途中で終わっていて、後半は白紙になっていた。
最後の数ヶ月は、病床の日記。
チェターラが生まれた後のことで、母親は娘のことを案じながら、自分の体が良くなるのを願っていたようだ。
『元気になって、娘が育つのを見続けたい。夫と二人で』
最後は、そう書かれていた。
チェターラは、目頭が熱くなって涙が出そうになるのを感じながら、最初のページに戻って、じっくり改めて読もうとした。
けれど。
そこで、自分が今は仕事中であることを思い出した。
……名残惜しいですが、後で読むことにしましょう。この手帳は、クレテックさんにお願いしてお借りして。
そう思い、散らばっていた他の本を本棚にしまってから、手帳を持って、クレテック老人たちがいる一階に下りた。
すると、後片づけはあらかた終わっていて、そこに、いつの間に来たのかエドマンド王子がいた。
ハンカチを鼻に当ててクレテック老人と話をしていたエドマンドと目が合ったので、チェターラはお辞儀をした。
クレテック老人がこちらに気づいて、言った。
「ヒッヒッ、本の片づけは済みましたかな。ありがとう。
わしはこれから王子と話がありますによって。後の戸締まりはクローブたちと済ましてください」
「あの、本を一冊お借りしていきたいのですけれど」
「ヒッヒッ、勤勉ですな。どうぞどうぞ」
クレテック老人はチェターラが見せようとした手帳には目もくれずに了承すると、エドマンドと一緒に、塔に隣接した自室へと去った。
ローリエが近づいてきて、言った。
「いい時間ですし、わたしたちも休憩です♪
城に戻って、調理場からお昼をもらいましょう」
チェターラは、手帳をメイド服の腰につけていたポーチの中にしまった。そのポーチには、朝、父親から預かった来訪者の言葉を記したノートも入っていた。
それから、ちょっと考えた。
エドマンド様がこちらにいらっしゃったということは、来訪者の少年としていたお話は済んだということでしょう。
でしたら、今なら来訪者の館に他に人はおらず、あの少年とお話できるのでは?
そう思い、ローリエに言った。
「わたくし、お昼ごはんをいただく前に来訪者の館に行ってきます」




