後片づけ中の読書
4、
魔術師の塔に行くと、魔術師のクレテック老人が昨日の召喚の儀式の後片づけをしていた。孫娘であるメイドのクローブもいて、それを手伝っていた。
「来訪者の館にいるものと思ってたけど、そちらはもう済んだの?」
ローリエが聞くと、クローブは答えた。
「あ、はい。えっと、一階の動物たちの世話は終わりましたので。
二階は、昨日いらした方と話すためにエドマンド様たちが午前中ずっといらっしゃるとのことでした。ので、後回しにして今はこちらに」
「ヒッヒッ。クローブ、この薬品瓶をわしの部屋に運んでおいてくれ。
そっちの瓶は火薬が入っておるから、わしが運ぶ。
そちらのメイドさんお二人は、このあたりの掃除をお願いできますかな。おっと、魔法陣の中は入らんでください。わしがやりますによって」
「承知いたしました」
しばらく、後片づけを手伝った。
そうしているうちに、ふと。
視線を上げたチェターラは、煙突のような構造の塔の内周を巡る螺旋通路の途中に、本が散らばっているのに気づいた。
昨日、自分たちがいたあたり。
そういえば。
昨日の騒ぎの最中、階下にいた闖入者のゴブリンに投げつけようと、塔の壁一面に並ぶ本棚から手当たり次第に本を取り出したのをチェターラは思い出した。それがそのまま、まだ転がっているようだ。
片づけておきましょう。わたくしが散らかしたものですし。
「上の通路に本が少々散らばってるようですので、わたくし、そちらを片づけてきます」
そう言うと、クレテック老人が顔をこちらに向けた。
「ヒッヒッ、頼みます。
あ、もし怪しい本を見つけたら、中身は見ずに本棚につっこんでおいてくだされ」
「怪しい本、ですか?」
「ヒッヒッ、ここには雑多な本がありますによって。わしも把握しておらぬものも混じっております。
父が残した魔法書や、わしが作ったあと忘れた魔法書が、たまに紛れておりますによって」
「もう、お爺ちゃん。整理もせずに本を本棚に入れないでっていつも言ってるのに。
片っ端から本棚に入れちゃうから、何がどこにあるんだか」と、クローブ。
ローリエが口を挟んだ。
「魔法書には、危ないものもあると聞いてますが。読んだら呪われたり、読んだら中に書かれた魔法が勝手に発動したり」
「ヒッヒッ、魔法書というものは、中身に書かれたキーワードたる文字を読み解かねば何も起こらぬもの。所詮は、本ですによって。
ですので、中身を見ずに本棚にそのまましまっておいてくだされば、なんの問題もないのです」
クローブは言った。「えっと、問題なくないから。お爺ちゃん、少しでも危ない要素があるなら、そんな本を他の本と同じ本棚に入れないで」
「ヒッヒッ、さすがにこう本が溜まりすぎると、もう今更整理が追いつかんでなあ」
「とにかく、怪しい本があってもそのまま本棚に戻せばいいのですね。分かりました」
チェターラは、梯子を使って二階程度の高さにある螺旋通路の踊り場に上った。
高い位置から改めて塔の内観を見ると、壁一面に並ぶ本棚が壮観だった。いったい、どのくらいの本があるのでしょう。
クレテックお爺さんも言ってらっしゃいましたが、さすがにこの数を整理するのは大変だと思います。
そう思いながら、床に散らばった本を拾い上げた。
数冊手に取って、題名だけ見て。
特に興味も引かれずに本棚に戻した後。
他の本よりも小さな、手帳のような本が、ふと気になった。
昨日は、こんな本を手に取った覚えはなかった。他の本の間に紛れて落ちたのかもしれない。
題名は無かった。
先ほど聞いたばかりの魔法書の話を忘れたわけではなかったが、地味な装丁で、怪しい本というよりも本当にただの手帳のように見えたので。何気なく開いて。
最初のページを見た。
正式な書物のような整えられた書式ではなく。
白紙のページの上に書かれたメモのような字で、こう書かれていた。
『四月七日
前の日記のページを全部埋めてしまい、新しい日記帳を入手しなきゃと思っていたところで、ちょうどいい白紙の手帳を見つけた。
ここ(※魔術師の塔)にはこれだけたくさんの紙があるのだから、手帳の一つぐらいもらってしまってもよいだろう。クレテックさんに一声かけると、他のことに没頭していてこちらを見もしなかったが、いいと言ってくれた。
だから、この手帳が今日から私の日記帳。
まずは自分の名前から。名前はリクア。
メルシア王国の、城に仕える女騎士』




