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3、
城に着くと、父親のアレック・ガルムは自分の仕事場である城門傍の待機小屋へと向かった。それを見送ってから、チェターラは城の中に入った。
メイドたちの休憩場所になっている部屋で、メイド服に着替えた。先輩メイドのローリエが今日も面倒を見てくれるはずだったので、ローリエと待ち合わせていた時間まで、しばらく待機。
待つ間、部屋にいた他のメイドと軽く話をした。ただその合間合間にも、なんとなく、自分のにおいが気になった。
いつもの香水をつけていないので、まるで裸のような無防備な気分。
心の底の方でそう感じていると、栗色髪のメイド姿のローリエが部屋に入ってきた。
「チェターラちゃん、おはよう♪ ……あら?」
「おはようございます。……なんでしょうか」
ずずいっ、と、ローリエはいきなり近づいてきた。
嫌な予感がした。
ずずいっ。
「あの……、わっ!?」
がばっ、と。
正面から抱きすくめられた。
またですか!?
というか、正面からだと顔に胸を押しつけられて息ができないんですけど!
窒息未遂。凶器は胸。
「んーふふふふふふ♪ 今日は香水をつけてないんですね! 良いです♪
んふー、あの人の娘さんのにおい♪ 昨日より直で鼻に! 納豆と魚のにおいの下に! ナチュラルに! ああ、あの人のにおいを間接的にでもかげる幸せ!」
「……ぷはっ!」
ローリエの胸からどうにか暴れて顔を出して、呼吸ができるようになった。
「だから! においをかがないでください! 放してください!
そんなことしたらお父様に言いつけますと昨日言いましたよね! あなた、記憶力ないんですか!」
「……むぅ。そうでした」
じたばた暴れるチェターラをしばらく名残惜しげに抱きしめていた後、ローリエは仕方なさそうに放した。
「あ、わたし、記憶力ないので明日になったらまた忘れます。つまり明日も抱きつきます♪ 忘れるので仕方ないですね!」
「本気で言ってるんですか?」
呆れながら、チェターラはメイド服の乱れを直した。
一時的にだが、自分のにおいを気にするのを忘れた。
というか、ちょっとどうでもよくなった。
その後はローリエに連れられて、ハウスメイドの仕事に回った。
実を言えば、すぐ来訪者の館に行って昨日の少年と話をしてみたいとも思った。だが、自分は城にメイドとして来ているので、当然仕事が優先。
……来訪者の館には、昼休みのときにでも行くことにしましょう。
そう考え、午前中は仕事に集中することにした。
城内の部屋の掃除をある程度済ました後、チェターラとローリエは魔術師の塔に移動した。
「今は、昨日の儀式の後かたづけをしていると思います。手伝いに行きましょう」




