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オークの娘さん  作者: yamainu
第1話 『オークの娘さん、城へ行く』
2/51

アレック・ガルムの過去と今

 2、


 アレック・ガルムは、オークだ。

 オークという種族は人間を二人横に並べたほどの横幅がある頑強な体で、肌は苔むしたような緑がかった色をしている。身長はオークの中でも地域差があるが、このあたりのオークは人間よりやや大きい。

 顔は豚に似ている、と、一般的には侮蔑を込めて言われる。低く大きな鼻と、やや小さい丸い目。

 ただ、アレック・ガルムの口元には凶暴そうな牙が生えていて、飼い慣らされた豚ではなく、危険な猪のようだ。

 このあたりのオークの中でも高身長な背丈と併せて、威圧感がある。


 その一人娘は、チェターラという名前。

 血は確かにつながっているが、人間そのものに見えるし、人間そのものだ。

 オークという種族には男しかおらず、他種族の女と交配して子供を残す。

 歴史上、近年までのほとんどの場合、その交配は略奪婚の形で行われていた。それが、オークという種族が嫌われ侮蔑される原因になっていたわけだが、その種族史を詳しく話すのはまた別の機会にするとして。

 交配の結果生まれてきた子供は、男ならオークだ。

 一方で、比率的にはやや少ないが生まれてきた子供が女の場合、交配した母親の種族の特徴をそのまま受け継ぐ。

 なので、人間の母親から生まれた娘のチェターラは人間そのものなのだ。


 母親は、もういない。

 十三年前。

 王国に仕える女騎士だった母親リクアと、アレック・ガルムは戦いの場で知り合った。戦って、アレック・ガルムが勝った。

 女騎士リクアは「くっ、殺せ!」と言ったが、アレック・ガルムは子供を成すことを望んだ。紳士的に口説いた。

 女騎士リクアは、「自分には国に仕える騎士としての役目と誇りがある」と言った。

 ならば、とアレック・ガルムが言った。「お前が私の子供を産み育てる間、私がお前の国に仕えよう」

 正確には、その頃はまだアレック・ガルムは人間の言葉を流暢に話せてはいなかったので、身振り手振りを交えて片言で話をしていたのだが。大意としてはそんな内容で、誤解や偏見による回り道はあったものの、最終的には意思を重ね合わせることができた。

 アレック・ガルムは、そのときから、人間の王国に仕えた。

 ただ、『女騎士リクアが子供を産み育てる間』という約束は途中で消えた。

 無くなった。

 女騎士リクアは一人娘を産み残して、病で亡くなった。

 アレック・ガルムは娘を一人で育てることになった。

 経緯を考えれば、『王国に仕える』という約束も反故にしてよかったのだろう。だが。

「……妻が愛した国であるがゆえ」

 彼は今も、人間の王国に仕えていた。


 アレック・ガルムの家は、人間たちの街から離れた場所に位置していた。

 海を望む崖の上の一軒家で、古いが、頑健で、恰幅の良いオークの彼が余裕を持って暮らせるだけの広さがあった。

 その家を出発して。

 娘を連れて、海岸沿いを歩き、城下町へと入った。家からかなりの距離が離れているのは、アレック自身も人間たちもその方が良いと感じたからだ。お互い距離を保った方が良好な仲を保てる、という間柄もあるものだ。

 毎日歩く道で、そのまま普段の仕事場である城へと向かう。

 城門の近くに彼専用の小屋があって、何も無い日はそこに詰めていた。

 役職としては、控えの門番ということになるだろう。城門やその他の場所で荒事でもあれば彼が顔を出すこともあるが、ほとんどの時間はあくまで控えとして小屋の中にいた。

 彼がそこにいることは城門を通る者への威嚇として人々に開示されているが、日頃から彼の姿を門の前で見ていたいという人間はおらず、結果として、あくまで控えの門番である今の立ち位置となった。

 いくつかの、彼個人に与えられている特別な仕事がある日を除いては、彼の仕事はこの小屋で時間を潰すことだった。

 大抵の日は、その小屋に書物を持ち込んで読書に興じていた。もともとは人間の言葉をもっと学ぶために始めた読書癖だが、基本的に閑職の現在ではますますそれに没頭するようになった。

 だが今日の予定は少々違う。

 控えの門番小屋に手荷物を置いた後、人間が行き交う城内に入って城の奥へと進んだ。

 その横では娘のチェターラが、やや興奮気味に豪華な城内の様子を見ていた。

「やはりお城は大きくて綺麗ですね! 大人の場所、という雰囲気がとてもします!」


 壁と天井には金銀の装飾をあしらい、床には赤い絨毯を敷き詰めた廊下を歩いた。

 その最奥には巨大な扉があり、その両脇には人間の衛兵が控えていた。

 アレック・ガルムが衛兵に声をかけると、衛兵は一度中に入り、それから戻ってきた。

「王様がお会いになる。

 アレック・ガルムとその娘よ、中へ」



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