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オークの娘さん  作者: yamainu
第1話 『オークの娘さん、城へ行く』
19/51

塔への帰還

 19、


「えええええ……」

 チェターラが、ぼろぼろと涙を流しながら愕然としていると。


 父親のアレック・ガルムが、戦車の上から降りてこちらにやってくる途中で、それに気づいた。

 飛ぶようにチェターラに駆け寄り、娘の目線を追って原因が少年にあるらしいと知ると、憤怒を抑えられぬという顔で、少年をにらんだ。

 チェターラは慌てて、言った。

「あ、お父様! こ、これは、ぐすっ、違うのです、ぐすっ。

 うえええええん」

「……む」

 アレック・ガルムは少年を問答無用で叩き潰さんばかりに見えたが、娘の声で落ち着きを取り戻したようだった。

「……少なくとも。

 娘を助けてくれたことには礼を尽くさねばならぬな」

 アレック・ガルムが仏頂面で近づくと、少年のくしゃみがまたひどくなって、何か異国の言葉らしきものを言いながら後ずさった。

「◇×○○……」

「……む?」

 アレック・ガルムは立ち止まって考えていたが、少年に言った。

「××□◇」

「……? ○▽?」

 少年は、涙が止まらない目をしょぼしょぼさせながら驚いた顔をした。

 それから、アレック・ガルムに言葉を返した。アレック・ガルムは、さらに言葉を数言返した。

 チェターラは、言った。

「お父様は、この方の言葉がお分かりになるのですか?」

「うむ」

 アレック・ガルムは頷いた。

「彼は、香水が苦手のようだ。

 好き嫌いではなく。体質らしい」

「体質……」

 チェターラは、複雑な気分になった。体質なら仕方ない、などとは考えられなかった。

 それに、もしも。もしも香水のせいだけでなく、チェターラの本来のにおいも体質的にダメだったら。救いようもないということになりはしないだろうか。そうならないと言えるだろうか。

 父親のアレック・ガルムは少年とさらに話をしていたが、その後、ふと気づいた様子で周囲を見た。

「霧の壁が、崩れてきたようだ」

 チェターラがつられて周囲を見ると、確かに、円形の空間を保って周囲を覆っていた霧の壁が、いつの間にか、内側に流れ込んできていた。

 まるで、劇場の幕が降りるよう。

 あるいは、劇場の明かりが消えるよう。

 チェターラたちの視界が霧に覆われるまで、数分も無かった。

 チェターラには馴染みのなかった人工の景色が急速に霧に覆われる合間。その中に散らばっていた環状列石が、半透明から、再び元の白灰色の不透明に戻っていくのが見えた。

「元の場所に戻るのやもしれん。

 時間か、それとも、少年の死因を取り除いたゆえかは分からぬが」

 アレック・ガルムは霧の中で離れないようチェターラを片手でつかんだ後、もう片方の手で、少年の腕を無理矢理むんずと掴んだ。異国の言葉で何か言ったのは、おそらく、「香水のにおいはしばらく我慢していろ」とでも言ったのだろう。

 霧の中で、少年の連続くしゃみと鼻水をすする音がした。


 この場所に来たときと同じように、景色のすべてが霧に一度覆われた後。

 次に霧が晴れると、チェターラたちは、元の魔術師の塔にいた。


「アレック・ガルム様♪ 良かった!

 あ、もちろんチェターラちゃんも、ご無事で♪」

 魔法陣の外で待っていたらしいローリエが、駆け寄ってきた。

 その後ろには。

 魔術師クレテックと、くわえタバコのエドガーがいた。

 それから。

 チェターラたちが別世界にいた間に来たらしく、エドガーと同じ顔のエドマンドが、私兵らしき数名を引き連れて待っていた。

 エドマンド王子は、アレック・ガルムがまだ腕を握っている少年を見て、言った。

「その少年が、今回召喚された来訪者だな。

 ご苦労だった。後は、自分が引き取ろう」


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