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オークの娘さん  作者: yamainu
第1話 『オークの娘さん、城へ行く』
13/51

魔法陣とゴブリン

 13、


 魔術師の塔の外壁に沿って歩くと、壁にくっついた形で小屋が一つあった。ローリエの話によると、そこは魔術師クレテックの私室であるとのことだった。

 小屋の外には階段があり、上ると、魔術師の塔の外壁の二階程度の高さにつながっていた。塔の中へとつながる扉があった。

「ちょっとここで待っててください♪

 鍵がかかってるはずですけど、ある場所は分かってますから。

 取ってきます」

「?

 あの、開いてますけど」

 チェターラが扉に手をかけると、扉は特に抵抗もなく開いた。

「あら。

 誰か、開けっ放しにしてしまっていたようです。

 なら、入りましょう♪」

 チェターラとローリエは、塔の中に入った。


 塔の中に入ると、そこは、煙突のような円筒状の塔の内壁を巡る螺旋通路の、二階程度の高さにある踊り場だった。

 チェターラは、てっきり屋根がある普通の建物だと思っていたので、まず上方から射す日の光に少し驚いて、真上の空を見た。

 それから塔の中の景色を眺め、内壁を埋め尽くす本棚に感嘆し、視線を下におろしていって、一階にあたる階層を見た。

 環状列石と、その石を結ぶように描かれた魔法陣。

 お父様は、どこにいらっしゃるのでしょうか。

 と、視線を動かして探す途中で。

 環状列石の影に隠れるようにして、小柄な人影が、一瞬見えた。

 ?

 もう一度そちらを見ると、石の影で、魔法陣に何か新しい模様を書き加えているらしい姿が見えた。


 ねじれた四肢の、小柄な、痩せた、けれど獣のように俊敏そうな。

 毛むくじゃらの顔に、金色の目の。

 ゴブリン。


 ゴブリンは、高い位置の踊り場にいるチェターラと目が合うと、動きを止めて何やら考えているようだった。

 だが、やがて口に指を当てて、『静かに』というジェスチャーをした。

 ……あのゴブリンさんはこの塔で働いているゴブリンで、塔の中では静かにしてくれとおっしゃっている、ということでしょうか?

 きっとそういうことだと受け取って、チェターラはおとなしく頷いて返した。

 ゴブリンは歯を見せて笑って、魔法陣の模様を書き換える作業を続けた。

「あ、儀式が始まるようです」

 チェターラの近くにいたローリエが、一階の別の方向を指さして言った。

 そちらには、アレック・ガルムと、エドガー王子と、あともう一人、三角帽子の老人がいた。おそらく老人が魔術師クレテックさんだろう、と、チェターラは判断した。

 アレック・ガルムがこちらを見たので、チェターラは笑顔になって手を振った。

 アレック・ガルムの横にいた老人は、手に液体の入っていた瓶を持っていて、その中身を魔法陣の外円の線に垂らした。

 すると。

 黄色い炎が燃え上がった。

 人が歩く程度の速さで、線に沿って、燃え広がった。

「あの炎が魔法陣に行き渡った後、召喚が行われます。

 来訪者が暴れるようなら、アレック・ガルム様が取り押さえます。

 どんな大型動物が来ても、アレック・ガルム様が颯爽と取り押さえます。

 ええ♪

 ほんとにかっこいいんです! わたしのアレック・ガルム様は!」

「あなたのじゃないですからね! わたくしのお父様ですからね!

 いきなり何を言ってるんですか、あなた!」

 恋する乙女のポーズでのたまったローリエに、また暴走しそうな嫌な気配を感じて、チェターラは言った。

 それから。

 ふと、先ほどのゴブリンさんを思い出して、彼がいた方向に目を向けた。

 あのゴブリンさん、魔法陣の内側にいらっしゃいましたけど、炎とか、大丈夫なのでしょうか?


 一階。

 チェターラの位置から、だいたい魔法陣を挟んだ反対側。

 やや刺激臭のある黄色い炎が魔法陣に広がっていくのを見ながら、魔術師クレテックが言った。

「ヒッヒッ、これで後は待つだけです」

「毎回思うんだが、結構時間かかんだよな。

 ……ん?

 どうした? オークのおっさん。何を見てる?」

 くわえタバコのエドガーは、隣にいるアレック・ガルムの視線に気づいて話しかけた。

 オークのアレック・ガルムは、二階ぐらいの高さの踊り場にいる娘を見ていた。

 エドガーが言った。

「ああ、あんたの娘が来てるのか。じゃあ、笑顔の一つでも見せてやったらどうだ? なんでそんな小難しい顔してんだ?

 まあ、あんたのそんな顔はいつものことか」

「……」

 踊り場にいる愛しい娘は、今はこちらではなく別の場所、魔法陣の内側、ちょうどこちらからは環状列石のせいで死角になっているあたりに視線を向けていた。

 本来なら、何もない、誰もいないはずの場所。

「……お前たちは、ここにいろ」

 アレック・ガルムは、その方向に向かった。

 エドガーが言った。「おい、待てって。おっさん、なんだってんだ」

 エドガーには構わず、アレック・ガルムは魔法陣の外円に走る黄色い炎を飛び越えて、中に突き進んだ。

 人の背丈ほどもある環状列石の間を縫って、先ほど娘が見ていたあたりまで来た。


 その瞬間。

「! お父様! 危ない!」

 少し離れた高い位置から、愛しい娘の、驚く声。

 同時に、キイキイと鳴るような高い声が、すぐ近くの石の影から聞こえた。

「クク、久シブリダナ! あれっく・がるむ!」

 それから。

 毒刃。


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