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オークの娘さん  作者: yamainu
第1話 『オークの娘さん、城へ行く』
12/51

エドガーと召喚の儀式

 12、


 魔法陣の外側に立って内側を眺めるアレック・ガルムの横には、二人の人間がいた。一人は、タバコをくわえた王子エドガー。もう一人は、三角帽子をかぶった背の低い痩せた白ひげの老人。

 くわえタバコのエドガーが言った。

「オークのおっさん、今日は微妙に浮ついてんな。

 そんなに娘のことが気になんのか?」

「当然だ」

「ちぇっ、言い切りやがった。嫌だねえ、親バカってのは」

 すると、横にいた背の低い老人が言った。

「ヒッヒッ、王子殿も親になれば気持ちが分かりますよ。

 そして、孫が生まれるとさらに分かります。

 娘は可愛い。孫娘はさらに可愛い」

「そんな先のことなんか、考えたこともねえよ」

 エドガーは、老人に対して小馬鹿にしたようにそう答えた。

 老人は、あまり歯の残っていない口をひん曲げて、への字口にしつつ、肩をすくめた。


 それから唐突に、エドガーは、老人に言った。

「なあ、クレテック爺さん。

 魔法陣を改良する目算は、ついてんだろ?」

「む……」

 老人、魔術師、クレテックは、口をつぐんだ。

 彼は、召喚の儀式を管理する老人。

 彼は、召喚の儀式を確立して王家に雇われた初代魔術師の、息子である魔術師。

 エドガーは、言葉を続けた。

「あのアオイって女と話して、だいぶ研究が進んだって言ってたじゃねえか。

 その研究を生かせば、今みてえな、一年そこらでいなくなっちまうような来訪者じゃなくて、ちゃんと残る形で呼べるかもしんねえんだろ?

 そして、生き物だけじゃなくて、その周囲にある物も一緒に持ってこれるかもしんねえんだろ?」

「……。

 ……ヒッヒッ、そうなったら、わしの楽しみが一つ減ってしまいますなあ。

 人間の若い女が召喚されないかと毎回楽しみにしておりますのに、おそらく、魔法陣を改良したら、服も一緒に召喚されてしまいますによって。

 今までのような裸が、なかなか拝めんようになってしまいます」

 冗談めかしてクレテックはそう言ったが、エドガーは冗談には乗らず、言った。

「爺さんのエロ趣味の話なんざ、どうでもいいんだ。

 服が一緒に召喚されりゃ、今まで知識だけだった別世界の服が実品として手に入る。

 服以外の物もあれば、それも。

 それは、もっとこの国を発展させてくれるはずなんだ。

 だろ?」

 クレテックは、への字口になってしばらく口をつぐんでいた後、言った。

「……王の許可をもらっておりませぬで」

「ちぇっ、俺の許可じゃダメだってのか?」

「……」

「なあ、爺さん。

 この召喚用の魔法陣を作ったのは、あんたの死んだ親父さんだ。

 あんたはずっと、それを維持してきた。そりゃ、立派な仕事だとは思うぜ。

 だが、それだけじゃねえか。維持だけ。

 それで、いいのか?

 俺なら、父親のしたことを越えたいと思うぜ」

「……」

「爺さん、俺は知ってるぜ。

 あんたはずっと、魔法陣の研究を続けてきた。

 あんたなら、間違いなく改良できるはずだ」

「……」

 クレテックは、肩をすくめた。

「王子殿。

 わしは、研究が好きなだけの爺ですで。

 実地で試す機会が一生来なくとも、構わぬと決めておるのです」

 エドガーはクレテックをしばらくにらんでいたが、やがて、こちらも肩をすくめた。

「まあいいさ。別に、今日どうこうしようって話じゃねえ。

 だが、覚えとけよ、爺さん。

 親父が引退して俺の時代になれば、もっと好き放題に研究と実験をさせてやる。そのときまで、生き延びときな」

 それから、塔の出入り口の扉まで移動して、内側から鍵をかけた。

 召喚の儀式の間は、そうして鍵をかけるのが決まりだった。

「さて、そろそろ儀式の時間だ。

 爺さん、決まりきった、毎度変わらない、使い古した儀式を始めるとしようぜ」


 ちょうど、そのすぐ後。数秒後。

 出入り口の扉の反対側。外側で。

 扉に鍵がかかっているのに気づいて、ローリエが言った。

「あら、ちょっと遅かったようです」

 チェターラが言った。

「入れないのですか?

 あ、でも、お父様が中にいるのですよね。

 声をかければ開けてもらえるのでは……」

「いえ、もう召喚の儀式が始まっていて忙しいかもしれませんし、ここから入るのはよしましょう」

 塔の外壁に沿って、離れた方向を指さした。

「そちらに別の出入り口があります。

 そちらからなら、儀式が始まっていても入れるはずです♪」


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