十八日目4
「やぁお待たせ」
小一時間待っていたフロシュエルたちの元へ、ドクター城内が戻ってきた。
「随分かかったな」
「これでも早いほうさ。あとはキキに任せて来たよ」
「それで、一応こちらも方針を聞いておきたいのだが? 時間についても打ち合わせておかねばならんし」
「放浪の不死者は公園で天使見習いを見ている。修行の一環であればそちらに来て貰うべきでは?」
ブエルの言葉に、ドクター城内はふっと冷笑を浮かべた。
「愚問だな魔王。私は頼まれる側だ。ならば頼む側が来るべきではないのかね?」
「むぅ? しかしそうなると天使見習いがこちらに通うことになる訳だが?」
「道は覚えてますよ?」
フロシュエルは素で答えたが、ブエルは溜息を吐く。そう言う問題ではないと言いたかったがとりあえず話の腰を折る気もなかったので無視しておいた。
「修行時間が削られるだろう。時間の無駄だとは思わんか?」
「それはお前達の願いだろう。私の時間をわざわざ割いてやるのだ。こちらに来るのは当然だろう?」
上から目線で告げるドクター城内にブエルが唸る。
そこで龍華がフロシュエルに小声で囁いた。
「みろ、あれが強かな者というのだ」
なるほど、とフロシュエルは納得した。
魔王だと分かっている相手にあれ程強気で返答しているならば確かに強かだろう。
しかも相手の痛いところを遠慮なく突いている。
しかし、相手が本当に激高する手前で寸止めしているのだから強かと言っても過言ではないだろう。
「つまり、貴様は我らに足を運べと言うか? 魔王を相手に?」
「ふむ。ブエルよ、何を勘違いしているか知らんがここに来るのはそこに居る天使見習いだろう? なぜそちらが来ることになっているのか私にはわからん。それに勝手に着いて来るというのならそれこそそちらの都合だろう。私が合わせる意味はない。お前だって私の立場になった時、相手が勝手に着いて来ているのにこっちに合わせろと言われて納得できるかね?」
「むぅ……」
「敗北だなブエル。フローシュに強かさを教えるのはいいが、それ以上はただのクレーマーだ」
「ふむ。仕方あるまい。だが、確かに一を言えば十返ってくるのは少々ストレスが溜まるな」
「相手が激高する直前を見極めながらこちらの要望を無理矢理通す。これができればお前の求める強かさも身に着こう」
ドクター城内に言われるが、フロシュエルには無理としか思えない交渉だ。
おそらく今のフロシュエルがドクター城内の立場になっていれば、ブエル相手にはい、向かわせていただきます。とでも告げていただろう。
しかも何の疑問も思わず、自分が向かうモノと思っていたはずだ。
天使の中でも下っ端中の下っ端なため、例え相手が頼む側だったとしても自分から向かってしまうのだ。
「確かに、コレが身に付くなら私としては願ったりですけど……」
「ふむ。その見習い天使。私も手伝ってやろうか真一」
ドアを開き、茉莉がキキと共に現れる。
不敵に微笑む茉莉は、意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「レウもやる気か。あまり酷く扱うな。堕天させてはならんのだぞ?」
「分かっているさ。ちゃんと加減はするよ「レウちゃーん。茉莉も手伝うよー?」お前は向かんだろ」
未だに成れない茉莉とレウの掛け合いを横目に、フロシュエルは考える。
確かに、強かさを身に付けるなら彼らに教わるのがいいだろう。だが、それで本当に自分の能力強化に繋がるのだろうか?
「それで? どうするフローシュ? ここまでお膳立てはしておいたが、決めるのはお前だ。こやつらに強かさを習うか?」
かなりピーキーな人格者の面々だ。彼らに教わるとなれば堕天の危険もあるだろう。
それでも、強かさを身に付けるか? それとも……確かに、彼らではなくとも、小影も強かだし、田辺さん自身に教わるのもありだろう。
選択肢H:
→ 強かさ修行を受ける
自分で何とかする
「そうですね。あの、お願いします!」
「ふむ。了解した。既に報酬も貰っているしな。嫌やはない」
「よーし、それじゃーレウちゃん。早速変身して対戦なんだよ! 実力確認したーい!!」
「ああ、そう言えばそんな話もしていたな」
フロシュエルはあれ? と気付いた。
強かさはともかく、なぜこの少女と闘うことになっているのだろう。
理解できないことに首をひねりながら、対戦施設へと案内される。
キキに付いて部屋を出たフロシュエルは、茉莉に手を引かれて通路を移動。訓練施設内にある対戦用施設へと連れて来られたのだ。
「んじゃー、闘おうねフローシュちゃん!」
「え? え? はい?」
「ふふん。アン姉ちゃんみたいに強くなろうって思ってたんだよねー。怪人化したから絶対強いよ、ねーレウちゃん? 「ふむ。まぁ、力を付ける場所はあるしな。明日から遠征だ」ええー。聞いてないよそれー!?」
よくわからないコントを披露しながら茉莉は仕方ないなーっと溜息を吐く。
「じゃあ行くよー。flexion!」
茉莉の身体が光り輝いた。




