十七日目6
魔法の授業も終わり、龍華と離れたフロシュエルとブエルは、雨の道を二人で帰る。
雨は小ぶりになってきたようで、ブエルがコンビニに寄りたいということでフロシュエルも付き添いで向かうことにした。
住宅街を抜けると国道。さすがに国道には車の通りがあり、人がいないというわけにはいかなかった。
「思うんですけど、ブエルさんこの辺り歩いてて大丈夫なんですか?」
「うむ? どういうことだ?」
「いえ、私は別に問題ないですけど、初めて見る人間さんとかブエルさんに驚くんじゃないかと」
「ふむ? 天使見習いは少々この世界に疎いらしいな」
「え? そうですかね? 結構知識は増えたと思いますが」
「ほぅ、ではあそこの人物を見てみるがいい」
言われ、ブエルが足で指し示す場所を見る。
人……ではない物体がいた。
何か黒い生物がうごめいている。
くねくね踊るような人型の影に呆然と魅入る。
まるで幽霊か何かに出会ってしまった顔でフロシュエルは固まった。
「あ、あああ、あれって……」
「最近ラナリアという会社が日本政府に認められてな、怪人に人権が与えられた。怪しい人外を見てもバケモノと言ってはならない。人権侵害にあたるらしいからな。つまり、我もあそこにいる者も日本人。というわけだ。申請しておかねばならんがな」
「えええ!? あのカオ○シ様みたいなヤバそうなのでも人権なんてあるんですか!?」
「さぁ? 一応我はハニエルの勧めで登録はしておいたが、アレが登録されているかは知らんな。ちなみにコレが人外認定バッジだ」
と顔と足の付け根部分の一つを見せて来るブエル。
はーっと納得するフロシュエルはふと気付いた。
自分も人外なのだが登録などはしていない。
「あのー、私もしちゃった方がいいですかね? 登録」
「ん? 別によかろう。正式に天使となった後でもよいのではないか?」
「あ……」
ブエルの何気ない言葉にはっとする。そう、フロシュエルはまだ天使ではない。天使見習い。いつ消されても文句が言えない不安定な存在なのだ。
「頑張らないと、いけませんね」
はぁっと溜息を吐くフロシュエル。二人が歩く歩道の横を、トラックが走り抜けていく。
水溜りがあったらしくフロシュエル達向けてばしゃりと跳ね水が襲いかかる。
「うわー。凄い一撃が来ました」
「魔法で防御していれば問題はなかろう」
「それなんですが、私に掛かった水が跳ね返されてトラックに当ってましたよ今」
「威力はそこまでないから問題ではなさそうだったがな」
そんなどうでもいいことを話ながらコンビニへと辿りつく。
コンビニの中には相変わらずロストが成人コーナーに陣取り雑誌を読んでいた。
「ブエルさん……」
「なんだ?」
「魔統王さんって、学校でしたよね今」
「そう言えば今丁度学校が終わった頃か。なぜ此処にいらっしゃるのか……まぁいい気にしたら負けだ天使見習い。我はコーヒーが欲しい」
「いつものですね。じゃー私は……肉まんを頼みましょうか」
コンビニに入って適当に店内を見回ったあと、思い思いの物を買う。
フロシュエルと共にコンビニを後にしたブエルは買ったコーヒーをその場で開ける。
「好きですねぇコーヒー」
「この黒く苦い感じが良い」
「ブラックコーヒーは苦くて苦手です。おお、肉まんホクホクですっ」
ぱくりとかぶりついた肉まんから肉汁が零れる。
思わずチロリと舐め取りながらフロシュエルはえへらと笑みを浮かべた。
「地上は誘惑が多いな。天使としては堕天の危機が多いのではないか?」
「それはそうですが、ハニエル様見てるとそこまで気を付けることがないような?」
「アレは堕天使というよりは駄天使であろうな。最近食っては寝て食っては寝てしておるぞ? 太るのではないか」
今日も食っちゃ寝デフ。とか告げる丸々太ったハニエルを思い浮かべ、思わずクスリと笑うフロシュエルだった。
「だが確かに堕天している様子はないな」
「今度ハニエル様に堕天に付いて聞いておこうと思います」
「あまり堕落し過ぎて堕天しても困るだろうからな。天使見習いはその可能性は少なく思うが?」
「私だって可能性はあるんですから。田辺さんに騙された時とかすっごく落ち込んで、こう、なんていうか、よくわからない感情が芽生えかけたというか……それよりも絶望が大きかったんですけどね」
あはは。と笑うフロシュエルにブエルはふむと考える。
「お前が堕天したら魔王を名乗れるやもしれんな」
「うえぇ!? 魔王ですか!? ブエルさんと同じ!?」
「確か堕天した天使は瘴気と聖気を取りこめるようになるため大幅に実力を上げられるはずだ。その分思考は悪魔寄りになるらしいが、実力がさらに増えるとなれば我にも匹敵出来るやもしれん。少なくとも雑魚魔王位なら倒せる実力になろう」
「魔王なのに雑魚って……」
そんなお墨付きはいらないなぁ。と思いながら家へと帰る。
実に平和な雨の日であった。




