十七日目5
午後からは魔法の訓練である。
龍華は傍観に回り、ブエルが指導に入る。
「本日はそうだな。完全とやらと闘うらしいし、不意の一撃も防げる自動盾の魔法でも練習といくか」
「自動盾……ですか? 普通の盾と違うのですか?」
「基本は同じだ。だが、まぁいい。可視化して見せてやろう」
言うが速いか、高速でブエルの口が動く。詠唱を唱えているのだが、魔族の魔法ということもあり正気度を削りそうな呪文が二倍速ほどで口から漏れ出ていた。
次の瞬間、ブエルの目の前に一枚の板が現れる。黒色の50センチ程の正方形の板である。
「おおぅ、これが自動盾、ですか?」
「うむ。では適当に我を攻撃してみよ。出来るだけ単発で四方八方から狙ってみせよ」
なんか難しい攻撃を指定して来るな。と思いながら時間差を掛けてホーミングホーリーアローを数発打ち込む。
無数の光の矢はデタラメな方向に打ち込まれるも、ブエル向けて角度を変えて襲いかかる。
だが、黒い板がその度に動いて光の矢を弾き飛ばした。
「どうかね。これが自動盾。一度生み出せば勝手に防御してくれるのだ」
「はぁー。そういう盾でしたか。リフレクトシールドと組み合わせればかなり有用になりそうですね。でも詠唱が大変そうでしたが?」
「魔法は発想力だ。今、我が使ってみせたことで魔法の効果を見ただろう? 後は自分が生み出したい魔法をお前自身で生み出せばいい。そういうのは得意だろう。天使見習い」
言われてみればその通り。
フロシュエルは既存の魔法をそのまま使うよりは自分で使いやすくカスタマイズしたり新たに自分式で生み出す方が得意だ。
ブエルから発想を貰ってフロシュエルが生み出す。変化する魔法の矢もそこから生まれたのだから。
フロシュエルは目を閉じ考える。
ブエルが見せた魔法で発想には問題はない。
でも、どうせなら一枚ではなく無数に、折角なので変化魔法も使ってみよう。
魔法名は何が良いだろう。自動ならオートマティック。あるいは迎撃? いや、それならオートシールドが、でも安直過ぎる気もする。
無数の属性を使ったシールドなのでマクスウェルシールドでもいいような?
でもせっかくなのでなんかこう、しっくりくる魔法名が良い気がする。
フロシュエルは思わず名前の方に思考が持っていかれる。
「雑念が入っているぞ、大丈夫か?」
「構わんよ。天使見習いらしい魔法が生まれそうだ」
「ふむ。そんなものか」
「よし、閃きました!」
駄々漏れだった魔力が意志を受け取り変化を始める。
「ほぅ!」
「またなんとも言いづらいモノを……」
七色に煌めく八角形のシールドが作られる。大きさは10センチ程、数は数百。
それがフロシュエルの回りを旋回し始める。
「どうですか! プリズムリフレクションです!」
「すばらしい。この全てが盾であり反射機能を有するか! どうだ不死者よ! 我がヒントを教えるだけでこの発想力!」
「まったく、またフローシュの力が強化されたではないか」
そう言いながらゾクゾクとした何かが龍華の全身を振るわせる。
さらに強くなったフローシュにどこまで強くなるのかと身体がウズついているのだ。
強くなったフローシュと闘いたい。
そんな思いが湧きあがり、必死に理性で押し込める。
今はまだ、全力を出す程の力をフローシュが持っていない。
ここまで強くなったがまだ、死力を尽くす程の実力ではないのだ。
「楽しみだな……」
いつか来るだろう闘いの予感に、龍華は思わず呟いた。
「どうしました龍華さん?」
「なんでもない」
暗殺拳を体得し、索敵も強化され、防御面も申し分なくなれば、頃合いにもなるだろう。
もう少し、きっとこの試験の試験が終わる頃には……
一部の打算を押し隠し、龍華はふと思いつく。
「そうだな。折角あの悪人の元へ連れて行くのだ。アレとぶつけてみるか」
「龍華さん?」
「ン? ああ、気にするな。今後の方針を考えていただけだ」
楽しみにしておけ。そう告げる龍華に一抹の不安を覚えるフロシュエルだった。
「あの、ところでブエルさん、この盾、いつ消えるんですかね?」
自動盾は作り出す時に多くの魔力を消費するものの、あとは自動で動いてくれるため魔力を込める必要はない。
つまり、魔力を送らないことで消失させるという手段が使えないのである。
「……さて? 我が作ったこの盾は魔力消費型なのでな、そればかりは我にもわからん」
「えええええっ!?」
同じ魔法を作ったつもりで本当に別の魔法を作ってしまったらしい。
戻す方法すら分からなくなってしまった自動盾は、属性変化で風に変えて見えなくすることで常時展開しておきながらも目立たなくすることでなんとかなった。
見えないだけで展開されたままなのでフロシュエルが不意の一撃を受ければ自動で跳ね返すのだが、そればかりは攻撃した相手の自業自得だろう。そう思うことにするフロシュエルであった。




