十七日目4
また一段階引き上がった。
龍華は思わず舌舐めずりをする。
強敵だ。ただ強敵なだけじゃない。闘う程に強くなっていく最高の好敵手になりうる存在だ。
初めは不安になる程弱い天使見習いだった。
かなり手を抜いて、それでも闘いにすらならない存在。
だが、ちょっと教えるだけで瞬く間に強くなる。
小影からは天使試験に合格するだけの実力が付けばいいと言われていたが、未だに修行を続けてさらに高みに引き上げている自分が居る。
龍華自身、楽しいのだ。
フロシュエルを鍛え、強くなる彼女を見守るのが。
今も、ついさっきフロシュエルの動きが止まるまでからは想像もつかない反応で自分に攻撃を加えて来ている。
あまりに的確に居場所を感知されるのは驚きに値する。
並みの大天使でも雨という限定空間では龍華は負ける気すらしないのだが、今のフロシュエルが相手となると十回戦えば一回くらいは負けるんじゃないかと思う。
とはいえ実戦になれば龍華も今までのような手ぬるい攻撃をする気はないのでフロシュエルの勝機はないのだろうが、それでも、試合となれば話は別だ。フロシュエルの実力は既に龍華に追い付ける程に強くなっているのだ。
ホーリーアローの連弾を斬り払いながら走る。
自分の動きは嫌に的確に捕捉されている。
魔力での感知も空気での感知も出来ない状況で、何をどうしたのか、フロシュエルはまた強くなってしまった。
さらに……
「スペクターアロー!」
初めはホーリーアローの強化版かと思った。
だが、斬り払う瞬間、それは風の矢に変化して鎌をすり抜ける。
かと思えば氷の矢へと変化して龍華に突き刺さった。
「魔法が途中で変化した!?」
「おお、我が空想していた通りの魔法だ!」
ブエルが思わず叫ぶ。
どうやら彼が発案した魔法らしい。
途中で属性が変わる魔法の矢。
確かにこれは厄介だ。
光の矢であれば鎌の一撃で弾けるが、風の矢となると実態が無いので切り裂けない。
魔法を斬るということ自体が特殊ではあるのだが、流石に切り裂けないものもあるのだ。
そして当る瞬間には質量のある氷の矢。これが毒矢となったり、呪い付きであればそれだけでも致命傷の攻撃となるだろう。
属性を変化させられるというのは思った以上に凶悪らしい。
龍華は思わず笑みを零す。
少し前までは田辺さんに騙され泣き濡れていた小娘がよくもまぁここまで成長したものだ。
言葉には出さずとも、彼女はフロシュエルを認める。
ここからは、さらに一段階引き上げさせて貰う。
フロシュエルに伝えることも無く動きを速める。
だが、フロシュエルは即座に気付いたらしい。
先程までと速度が違う。動きが違う。
気合いを入れたフロシュエルの側面から、鎌が襲いかかる。
「っ!?」
途端、光り輝くフロシュエル。
突然の目晦ましに驚き目を瞑る龍華。
その背後に回り込んだフロシュエルが光の剣を龍華の後頭部に向けた。
「チェックメイト、です!」
「……すばらしい。まさか裏を掻かれるとは思わなかった。全身が光るとは想定外だったぞ」
「龍華さんこそ、最後の動き、また一段階引き上げたでしょうっ。ちょっと焦っちゃいました」
「今のは?」
「成仏装甲です。霊体くらいしか意味無いんですけど、小影さん曰く物凄く眩しいそうで。私自身はそこまで気にならないんですけど」
「成る程、目晦ましには十分使えるな。初見であれば完全も圧倒できるかもしれんぞ」
「ほんとですか! よーし、今度は完全さんから一本取るぞーっ」
「逆に手加減出来ずに無意識で殺されるかもしれんがな」
「ひぃぃっ!?」
歴戦の強者の場合、不意の一撃を放った弟子を思わず殺してしまうということが起こり得ない訳じゃない。これは自分の危機に身体が反応してしまっただけなのだが、完全ならば普通にやりそうなのが恐い。しかも暗殺拳の使い手だ、フロシュエルの一撃にカウンターで致死の一撃を叩き込むくらいはやりかねん。
「いや、すばらしい。良いモノを見せて貰った」
「ブエルさん、ありがとうございました。ブエルさんから教わった属性変化、凄く使えます」
「で、あろう? 我も想像以上の出来に鼻が高いぞ」
龍華との対戦が終わると、昼食の為公園を後にする。
近くのファミレスに入り食事を取ることになった。
ブエルの姿に驚いていた店員や御客が居たが、コスプレだ。という龍華の一言で普通に接客されることに、フロシュエルは複雑な顔をしながらも、龍華のお任せでお子様ランチを食べることになった。
「おお、旗持って帰っていいんですか!?」
「お子様だな」
「足でナイフやフォークを使うブエルさんに言われたくありません。マナー違反です」
「手がないのだから仕方無かろう」
そんな話をしながら再び公園へ。
午後からはブエルとの魔法訓練が始まった。




