十七日目3
「天候だけでこれほど……」
フロシュエルは愕然としていた。
普段の龍華の攻撃は確かに驚異的だが何処に来るかはある程度予測はできるのだ。
それは風切り音だったり、龍華の踏み込む音だったり、気配だったりするのだが、周囲に降りしきる雨のせいで音がかき消され、風の動きも読めず、龍華の気配すら洗い流してしまう。
そのせいで先程から正面きっての龍華との闘いであっても避け切れずに身体を切り刻まれていた。
今まで避けられていたという事実に気付かされ、また龍華とそれなりに闘えていたという自信が揺らぐ。
たった数度の打ち合いで気付かされた。
確かに、始めた頃は訳も分からず逃げまどっていたし、今まではここまで自覚は出来なかった。
だけど、雨になり、今まで自分が頼っていた感覚器を狂わされたことで自覚できた。
自分はそれなりに闘えていたのだ。
相手の気配を読み、風を感じ、音を聞く。
それを自然と出来ていたのだ。そのことに気付かされ、そして封じられた今の現状に歯噛みする。
今まで自然と出来ていたことが出来なくなる。それだけでここまで不利になる。
しかも、これは龍華達と闘った事で身に付けたモノであり、本来の自分であればもっと下級の存在だったはずなのにだ。今の状態でも自分が良く動けていると分かるだけに、自分が確かに強くなっていたことに気付かされる。
歯がゆい。自分の身体が思うように動かないことが歯がゆく思える。
修行を始める前ならば絶対思うことなどなかった。多分龍華に斬られてもそれも当然と思えていただろう。でも、今は違う。辛い。龍華の剣撃を避けられないことが、龍華の気配が分からないことが、彼女の期待に答えられない自分が。
雨が降る。
独特の匂いと音が龍華の気配を消して行く。
眼を離しただけで龍華が消えてしまう。
今までは空気の動きや気配で分かっていたのに雨がそれを消してしまうので、フロシュエルはほぼ感だけで避ける。
避けた瞬間左肩に痛み。
ぎりぎり避け損ねたようで龍華の鎌が当ったようだ。
回復魔法で傷を修復しながら反撃のホーリーアロー。
ダメだ、既に龍華の姿はない。
速い、そして隠れるのが上手い。
魔力感知を行うが、雨のせいでこれもうまく機能しない。
全ての雨粒から魔力の残滓が見受けられる。
龍華の魔力は一般人と変わらないので雨の魔力に紛れて感知し辛い。
天候一つでここまで闘いが不利になる。これは新発見であったし、フロシュエルとしても今知れたことは僥倖だった。
何かしらの方法を思いつかなければこのままいいように弄られて終わってしまう。
「風圧装甲」
「ほぅ?」
渦巻く風がフロシュエルの身体を覆う。逆巻く髪が風に揺れる。
雨をも弾く風の装甲。幽霊屋敷を経て手に入れたフロシュエル新魔法である。
成仏装甲を風魔法で作ったのだ。これの御蔭で龍華の攻撃が風に触れた瞬間には何処に来ているか分かるようになったが、それでも反応は遅れてしまう。
これはただの予防線だ。
龍華の姿が認識できなければ意味が無い。
とはいえ魔力も気配察知もダメとなると、新たな索敵方法が必要になる。
フロシュエルは考える。今ある知識を総動員し、雨の中でも相手の動きを察知する術を紡いでいく。
何が出来る? 魔法か、技術か? いや、そう言うことじゃない。気配を察知するのに必要なのは雨のせいで妨害されている状態を解消すればいい。
つまり必要なのは雨の中で相手の動きを理解すること。
風も音もダメならば、飛び散る水で感知するしかない。
魔力を汲み上げ魔術を組む。
思いついたら即実行。
広がる新感知法を展開した瞬間だった。フロシュエルの感覚が一気に広がった。
あまりにも膨大な情報に思わず一瞬我を忘れる。
ビタリ。気が付けば目の前に鎌が止まっていた。
怪訝な顔をする龍華がその先におり、足を止めていた。
どうやらあまりの情報量に一瞬フロシュエルの思考が止まり、隙が出来てしまったようだ。
「どうした? 戦闘中にぼぉっとして」
「あ、すいません。新しい索敵法を展開したんですが情報が多過ぎて、処理するのにフリーズしちゃいました」
「ほぅ、戦闘中に新魔法の開発か、実戦ではすべきではないが、今はまぁいいか。つまり、これから先の動きは先程までと違う、と言っていいのかな?」
「……はい。予想以上に素敵に仕上がりました。行きますよ龍華さん!」
「面白い、見せてみろフローシュ!」
再び姿を消す龍華。
フロシュエルは光の剣を作りだす。
「っそこです!」
斬りかかってきた鎌の斬撃を受け流す。
背後からの完全奇襲を防ぎきった。
気付いた時には既に龍華が消えていて、次の個所から攻撃。
しかしこれにも即座に反応したフロシュエルは剣で弾きながらホーリーアローを発射。
「っ!?」
姿を消した龍華に的確に放たれた一撃に、龍華が息を飲む音がした。




