十六日目5
「うきゃあぁぁぁぁっ!?」
肩に置かれる手の感触に思わず叫ぶ。
「そいやっ」
ルミナスナイト化した小影の一撃がフロシュエルの背後に居た幽霊を成仏させる。
既に気絶したいくらいに恐れているフロシュエルだが、気絶するより早く小影が幽霊を撃破してしまうので恐がるに恐がれないでいた。
「そーれ」
「きゃあああああああああっ!?」
前方から両手で走り寄って来る上半身しかない女性を拳で昇天させる小影。
さらに迫り来た天井から近づいて来る血涙流す男を蹴りで黙らせる。
「な、何なんですかここは!?」
「幽霊屋敷」
「それは知ってますッ」
「ほら、神聖技で倒しちゃいなさい」
ふらふらと近づいて来る子供の霊を指差し小影が告げる。
恐怖に怯えるフロシュエルだが、必死にホーリーアローを紡ぎ出す。
放たれた一撃が霊を霧散させる。
「上出来上出来。あとは恐れず立ち向かうだけね」
「ソレが出来ないから恐いんですよぉっ」
「倒せる相手を恐れる意味が分からないわね。やらなきゃやられる。所詮この世は弱肉強食よ。恐れる前に足を前に出して手を向けなさい。光を集めて成仏させる。それで終わり」
「そ、そう言われましてもぉ……」
やはり恐いモノは恐いのだ。
フロシュエルは泣きそうな顔で小影に助けを求める。
「そんなに恐いならいっそこの屋敷ごと成仏させなさいよ。そうすりゃ一匹残らず成仏させられる上にこの家に幽霊が出ることもなくなるわよ」
この屋敷ごと?
フロシュエルは小影の言葉に、思わず視界が晴れ渡った気がした。
そうだ。恐いのならいっそ、屋敷丸ごと浄化してしまえばいいのだ。
フロシュエルは精神を集中させる。
魔法は自分の空想を形にする力。
この屋敷を包み込む魔法陣。光り輝き柱と化す。
内包された場所全てに浄化を……
「ちょ、え? 何その魔力!?」
あれ? とフロシュエルは驚く。脳内に突然浮かびあがって来る言葉の羅列。
これはなんだろう? そう思いながら、歌を紡ぐように口にする。
「我求む光の柱。我願う浄化の光。祖よ輝け、迷えし子らを魂の輪廻に戻したまえ」
身体の中からかつて無いほどの魔力がごっそり消えて行く。
「昇天王国」
ぴっかー。
建物全体が光り輝いた。
「ちょ、何してんのフローシュ!?」
「小影さんに言われた事を……うぅ、凄い魔力が消費されてます……」
「いや、まぁ、屋敷全体やってみればとは言ったけど……流石にハニエルくらいに魔力ないと難しい気が……でも、できてるわね」
呆れた顔で告げる小影。
実際にフロシュエルの魔法は屋敷全体を包み込むように光を起ち上らせており、無数の幽霊が消滅していく感覚がフロシュエルに伝わっている。
「ふはぁ」
一気に魔力を消費したせいでその場に尻持ちを付くフロシュエル。
思った以上に一気に魔力を使う事が出来た。半分以上の魔力が一瞬で消えたのは初めてかもしれない。
「んー。さっきまであった瘴気が全く無くなってるわね。メルト、どっか残り居る? あー、居ないんだ」
誰かと連絡を取ったようで、小影ははぁと溜息を吐く。
立てないでいるフロシュエルをその場に放置して、屋敷の確認に走りだしてしまった。
一人、ぽつんと残されるフロシュエル。
幽霊はいなくなったと言われても、薄暗い民家の廊下に一人放置されてしまうと恐怖心が鎌首をもたげて来る。
「うぅ、恐い、やっぱり怖いですよぉ小影さぁん」
なんとか恐怖を克服しないと。
働かない頭で必死に考える。
幽霊は浄化の光で何とかできる。
となれば、その光を自身に纏えば、自分に近寄って来ることはないのでは?
そう、蚊を寄せ付けないようにスプレーを吹き付けるように、全身を浄化の光で、纏うっ。
「成仏装甲」
フロシュエルは光り輝いた。
それはもう眩しい位に光り輝いた。
自分ではそこまで眩しくないようにしておいたが、周囲が明るく照らされている。
「うわぁ。これはちょっと……やり過ぎたような?」
「フローシュ、どうも幽霊全滅したっぽいよー。魔穴も塞がれてたから帰ろ……うっわ眩しっ」
戻ってきた小影は光り輝くフロシュエルを見て思わず目を顰める。
「なにそれ?」
「えっと、幽霊が自分に触れなければいいかなっと思いまして……」
「触れたら成仏する装甲かい。なんとまぁ。これはまた面白い事を。あ、でもその魔法使えば他の属性装甲にも使えるわね」
「あ。本当ですね。えーっとこうしたら確か炎に変化して……」
輝くフロシュエルが一瞬で元に戻り、暗がりが支配する。
フロシュエルの身体を包み込む炎の鎧が燃え盛る。
「フローシュ、それ、髪燃えてない?」
「えええええっ!?」
即座に魔法を水へと変化させたフロシュエル。一瞬でずぶ濡れになる。どうやら装甲として向き不向きの魔法があるらしい。




