十六日目4
「とりあえず、今日の回収はこんなところかなぁ」
組事務所に新興宗教、工場長にヒキコモリ、最後にすでに死んだ人。
想定外過ぎる回収を行った小影を見守ったフロシュエルは、これ、まだ簡単な方だから。と小影に言われて絶句していた。
これ以上どんな事があるのかと聞いてみれば、金借りた奴が高跳びして外国に逃げていたり、兵役に付いて戦場に逃げていたり、別の闇金に手を出し既に海の中に入っていたりなど、回収困難な事もあったらしい。
それでも、紆余曲折、その辺りも含めて今のところ回収率は100%を誇っているというから驚きである。
「まぁ、海に沈められてた時は焦ったけどね。聖戦士に成れてたからなんとかできたわ」
話を聞けば沈めた誰かを特定して沈められた奴に金貸してた奴とかに情報を売って貸した金より多く回収したんだとか。とりあえずお金として返ってくれば結果オーライなのだそうだ。
無茶苦茶だと思いながらも、金に執着している小影に何も言えないフロシュエル。
実際問題フロシュエルが急成長出来たのは彼女の采配によるものであることは確かなのだ。
「そうそう。フローシュには強かさが足りないみたいだから、もうちょっと相手と交渉できるようになった方がいいわね」
「強かですか?」
「ええ。田辺さん相手に手も足も出てないでしょ」
「あ、はい。どうにもお金を回収する糸口が見つからなくて……」
「交渉というのは相手にとって旨味を見せてこちらの要望を通すのがベストなのよ。たとえばこんな道端に落ちてる石。これに付加価値を付けて相手に欲しいと思わせる。そして交渉で500円返してください。そう告げる」
「うーん。理屈は分かる気はしますけど……お金がなかったら返せないですよね。田辺さんから500円。本当に返して貰えるんですか?」
「え? そりゃあの人大会社の理事長だし。社長顎で使える程には金持ってるわよ」
「えええっ!? あの人大富豪!? なんで浮浪者みたいな真似してるんですか!?」
「もともと浮浪者だったからね。ちょっとしたことで大富豪になったけど、慢心してしまわないように定期的に浮浪者生活してるらしいわよ。金を持つことなく生活することで金のありがたみを再確認してるんだって」
「それは……存在全部が詐欺な人だったんですね田辺さん」
真相を知らされてもただただ溜息しか出なかった。
「フローシュ。龍華たちの御蔭で戦闘力はかなり上がって来てる。でもあなたの人格はどうかしら?」
「人格……ですか?」
「田辺さんに手酷くやられたのは、まぁ、愚直だったからだけど、性格ってのは早々変わるものじゃない。つまり、あなたはまだ愚直なままじゃないかなって」
「結構強かさはでてきたつもりなのですが……」
「その辺りはハニエルを一日観察して見るのも良いと思うわよ。あのダメ大天使がどれだけ堕落してることか。なのに堕天していないってことは、その辺りまでは問題ないってことになるわよね」
「そう言えば、時々ハニエル様って結構堕天使寄りだなぁって思う時ありますね。今度聞いてみようかな」
フロシュエルは小影と共に家路をたどる。
しかし、小影は途中で立ち止まる。
「ああ。そうだった。ついでだからあそこにも行っとくか」
「はい?」
「フローシュの為に、幽霊屋敷に行きますか」
え? やめて? 涙目になったフロシュエルを引き連れて、小影はぐいぐいと引っ張っていく。
連行されるフロシュエルは首根っこひっつかまれてずるずると連れ去られるのだった。
しばらく歩き、やって来たのは一軒家。
戸建住宅だがボロボロにさびれた家はどう見ても幽霊屋敷。
いつ崩れてもおかしくない状態の家の前には立ち入り禁止の札と黄色と黒のストライプで出来た縄が入口を塞いでいた。
「ハニエルからここに魔穴開いてるから近いうちに閉じて来て。って言われてんのよねー。いい機会だしちょっち行っとく?」
小影はソレを乗り越え家へと入って行く。
かなり戸惑ったが、小影を信じて家宅侵入。多分、家主に許可は取っているのだろう。
取っているはずだ。
光が差し込まない暗い家内だ。
土間は閑散としており、来る者を拒んでいるよう。
廊下に足を踏み出せば、ぎぃ……ぎぃ……と床が軋む。
正直これだけでも恐い。
なのに小影は気にせずギィギィ鳴らしながら前進する。
ガタンッ。通り過ぎようとした襖の部屋から音がした。
パンッパンッと何かの弾ける音がする。
ドアの部屋を通り過ぎる。フロシュエルが通り過ぎた瞬間バンッと強烈な体当たりでもしたかのようにドアが音をたてた。
さらに連続で体当たりが始まる。
フロシュエルの心臓は既に限界まで高鳴り、恐怖が鎌首をもたげ出す。
意識が消えるのは時間の問題だとも思えた。
「こ、小影さん……よく平気ですね」
「え? だって幽霊とかって結局アストラル体でしょ。魔物と何の違いがあんの? 神聖技使えば成仏するし」
「ちょっ……それ、否定になってない……」
そう、彼女は否定するつもりはなかった。つまり、ここはそういうものが出る場所なのだ。




