十五日目4
「はっ!?」
思わず跳び上がって起きたフロシュエルは、頬を染める夕焼け空を見上げて呆然と魅入る。
茜色に輝く夕日は徐々に沈み始めていた。
いつの間に夕方になったのだろう? いや、そもそも、ここはどこ?
洋館内部にいたはずなのに外にいる不思議。
よくよく周囲を見回せば、ちょうど池のほとりに倒れていたようだ。
背後には洋館の後ろ姿が見える。
そう、丁度エントランスで落とし穴に落とされた時にやって来る池の直ぐ横に放置されていたのである。
「うぅ、アレはムリですよ。実は本当に幽霊いるんでしょうか? アレが最新技術とか言われてもどうなってるのか……はっ!? まさか噂のぷろじぇくしょんまっぴんぐ!?」
ここで一人考えていたところで意味はないので、早々に家へと向かう。
「あ、そうです。ブエルさん迎えにいかないと」
フロシュエルは道の途中で方向転換してコンビニへと向かう。
コンビニに向うと、本日もブエルは立ち読みを行っていた。今日はなぜか女性誌を見ている。
おそらくだが週刊誌を全て読み終え、読む物を探している内に女性誌に辿りついたのだろう。
「ブエルさーん。帰りましょう」
「ん? おお、もうそんな時間か。では、お先に」
「んー。またねブエル」
ロストもいつものようにそこに居り、適当に手を振ってブエルを送り出す。
ブエルはバナナミルクを購入してフロシュエル共々外へと向かう。
「どうだね天使見習い。試験の試験とやらをしているそうだが、成果はあったか?」
「はい。バロックさんからお金を返して貰うことに成功しました。残り四つです」
「ほう、それは素晴らしい」
黄昏色に染まる道を、二つの影法師がゆっくりと歩いて行く。
少女の影法師は普通なのだが、魔王の影法師はどう見ても不気味にしか見えない。
「ただ。他の四名はどうしていいかもわからなくて。けん太さんにも靴取られたままですし」
折角なのでブエルに相談してみることにしたフロシュエルは今までの事を説明している。
小出さんは出て来ない。井手口さんの奥さんは強過ぎる。田辺さんを説き伏せる術もない。幽霊屋敷はもはや精神的に無理。
そんな事を言っていると、ブエルはふむ。と足同士を組んで唸る。
「我ならどうするか。ということでよければアドバイスになるかどうかわからんが」
「はい。今は少しでも意見が欲しいです。私では思いも付かないこともあるかもしれませんし。気付いてない簡単なことでも教えて貰えれば嬉しいです」
「ふむ。そうだな。まずは、出て来ない相手に関しては力押しだな。無理矢理篭城の場所を破壊して引きずりだす。籠る場所が無くなれば逃げられまい?」
「それ、天使は堕天案件です」
「魔王だからな」
それもそうだった。とフロシュエルは納得する。ブエルならどうするかを聞いたのは自分なのだ。天使視点でツッコミを入れても意味はない。
「二つ目の件だが、理由を考えたことはあるか天使見習いよ」
「理由?」
「うむ。その人間の女がお前を排除する理由だ」
「えーっと、確か夫の愛人? だとか思われて問答無用で……」
「そう。女性一人で向うから愛人と勘違いされて襲われている。それが分かれば闘う必要などないだろう。任務に自分の何かが支障をきたすと言うのなら別の人物に頼むという方法もある。我も結構部下に指示だけしているぞ」
「……あ、そっか」
うーんと考えていたフロシュエルはあっ、と気付いた。
そう。井手口さんの奥さんは闘う必要などないのだ。
目的は井手口さんからお金を返して貰うこと。ならば、今回は……
「あと、けん太に関しては言わないでおくぞ。自力で倒すつもりだろうしな。残るは田辺と洋館だったな。田辺という男、聞いた限りでは口八丁で頭の回る男のようだ。我ならば無理矢理パンとやらを食わせて金を代わりにもぎ取るかな」
「いや、だから天使な私じゃ出来ませんって」
「最後は、まぁ機械だろうが本物だろうが天使として気絶するのは言語道断だな。敵を怪奇現象ではなく魔物の仕業だと思って任務に当った方がいいのではないか」
「魔物の仕業……ですか」
「うむ。ネビロス等は死者を蘇したりするし、霊体の魔物も結構いるぞ。魔法しか効かない存在とか」
「そうなのですか……」
確かに、幽霊ではなく魔物であると思えば……
それでも無理。フロシュエルは思わず目を瞑り涙を流す。
私には、無理そうです。そう、涙を飲むのだった。
「ふむ、その洋館は面白そうだな。今度は我も誘うが良い。少し見に行ってみよう。何、お前の試験の邪魔はせん」
いいのだろうか? とりあえず小影に聞いてみよう。そう思うフロシュエルだった。
そう言えば小影の借金取り業にも付いて行ってみようと思っていたし、いろいろと小影さんに相談もしてみよう。
ブエルにお礼を言って家へと帰りつく。
そして、小影が帰って来るのを待つフロシュエルだった。




