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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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十五日目3

 公園の次はけん太である。

 何度も靴を奪われたあの犬に、今度こそリベンジするのである。

 魔法は使わない。相手は犬だ。魔犬でもあるけど犬なのだ。


「わふ」


 フロシュエルの姿を見つけたけん太はその顔を見てすっと立ち上がる。

 犬小屋で暇そうに眠っていた彼は、後ろ足で鎖を蹴りあげ、首輪に繋がった鎖を止めてあるピンを蹴り抜く。

 大空舞ったピンを口でキャッチして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 やるんだろう、見習い天使?

 そう告げているようだ。

 フロシュエルだって今回はただただやられるつもりはない。


「行きます! てやぁぁぁっ」


 激闘が始まった。

 そして……終わった。


「ウオォォォォーーーーン!!」


 勝者の雄たけびがただただ響く。

 敗北したフロシュエルを蹴り転がし、その後頭部を前足で押さえつけての勝利の咆哮。

 目をくるくると回すフロシュエルは、一体何が起こったのか全く理解できなかった。


 走り出したけん太が迫る。だから構えて対処しようとして、気付いた。いつの間にかけん太の口に何も無いことに。

 噛みついて来るタイミングで気付いたフロシュエルが顎を掴み取って反撃に移ろうとした瞬間、【ごっ】と後頭部に衝撃が走って意識が飛んだ。


 気付いた時にはけん太が雄たけびを上げており、自分は地面に寝そべっていたところである。

 よくよく考えれば周囲の観察をしているつもりで魔力を切っていた。つまりは周辺探査の魔法なども使っていなかったのだ。ゆえに後頭部からの襲撃に反応出来なかった。

 視野狭窄。けん太だけを見ていたからこそやってしまった失態だ。


 闘いの基礎を忘れた彼女が負けるのは道理。

 こんなヘマをしたと知られれば龍華に怒られかねない。

 身体はただの犬に見えるが、目の前の存在は魔獣なのだ。決して手を抜いていい相手ではない。

 そもそもが闘う時に手を抜く方が間違っているのだ。どのような相手でアレ全力で挑め。堕天使相手にしていた自分が、逆に自信から盲目になっていた。犬相手に魔力探知など不要などと無意識に見下していた自分を恥じる。


 代償の靴も本日分を回収され、泣きながら壁を越える。

 次だ。次は絶対に油断はしない。全力で闘う。遠慮はしない。

 相手は格下だ犬だと思わない。思ってはならない。

 フロシュエルは強く心に刻みつけて丘の上の洋館へと向かった。


 ここでは魔法をいくら使ってもいいと言われてるので遠慮はいらない。

 雪辱戦だ。今度こそエントランスを越える。

 扉を開き、屋敷内へと入る。


「ライト」


 バサリと翼を開き、光の魔法で光源を作りだす。

 動き出す青銅甲冑が一歩を踏み出す時間で一気に駆け抜ける。

 階段に一度足を付けて見ると、仕掛けが作動。階段が閉じて急な斜面に早変わり。

 よく見れば油も塗ってあるようで見事に滑り落ちる状態になっている。


 飛行で二階へと上がり、ドアを確認する。

 三つある。

 左右と真ん中。

 しかし、真ん中と右のドアには鍵が掛かっていた。


 作為的な何かを感じながらも左のドアへと向かう。

 ドアを開くと奥へと続く通路。

 通路の左側に三つほど部屋がある。そこを過ぎると奥に一部屋あるようで、計四つのドアがあった。


「さて、この先がどんな状態かは未知。青銅甲冑からしてホラー系の可能性は高いですよね」


 怪しいのは一番奥の扉だが、罠の匂いしかしないので、とりあえず手前のドアから入って行くことにする。

 そーっとドアノブを回す。

 ちょっとだけドアを開いて反応を確認。

 いきなり内側から開かれることもなかったので隙間から部屋を覗く。

 どうやら普通に人が生活するための部屋のようだ。


 そーっと部屋に入り、まずはドアの後ろを確認。

 何も居ないので部屋を見回す。

 シャンデリアがある。電気はついてないので暗いままだ。

 フロシュエルの魔法による光源だけのため、部屋の隅の方は薄暗い。


「ひぅっ!? 今そこに人影が……あ、光のせいで出来た影でしたか。うぅ、やっぱり心霊現象系はちょっと苦手です」


 いくら試験だと言われても怖いものは怖い。

 天使だからと言っても霊を浄化出来るかといえば別だ。フロシュエルには……

 あれ? と気付いた。霊を浄化する以前に、この洋館に本当の霊がいるのだろうかと。

 これは試練だ。試練なのに心霊現象など起こせるだろうか? いや、まず無理だろう。ならばこの洋館はどうして青銅甲冑が動くのか。可能性があるとすれば……


「そうか、この洋館、落とし穴があるし、おそらく私のために作られたハイテク系お化け屋敷ですね! そうですきっと。だから心霊現象などないんです。機械仕掛けだと思えば全然恐くな……」


 不意に、姿見が視界を掠めた時だった。

 入口に青白い女が立っているのが鏡に映っていた。

 俯くそれに気付いた瞬間、フロシュエルは慌ててドアを見る。

 誰もいなかった。


「あ、あれ? おかしいな。ここってハイテク機械の洋館なのでは? 今のも、あ、あはは。幽霊さんじゃないですよ、あ、あはは……」


 そう言いながら鏡を見た瞬間、フロシュエルの後ろに恨みがましく彼女を見つめる血塗れ女の姿。

 ふっと、フロシュエルの意識が消え去った。

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