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天使見習いフロシュエル物語  作者: 龍華ぷろじぇくと
四日目・ノーマルルートA
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十五日目2

 ついに一つの試練を乗り越えた。

 この調子で次もやってやります。気合いを入れたフロシュエルは井手口さんの家へと向かう。

 ここの奥さんはとてつもなく凶暴だ。だからこそ、自分はソレを乗り越えないといけない。


 堕天使に勝ったのだ。人間相手。魔法や飛行戦が出来ないとはいえ身体強化が使える今、負ける要素などなかった。

 けれど、相手を格下だ。などと見下すつもりは絶対にない。ワルだって見習いの自分に負けることだってあるのだ。慢心は敵。フロシュエルは例え魔法が使えない人間相手だって手を抜く気はなかった。


 チャイムを鳴らしてしばし、やはり出て来たのは奥さんの方だった。

 フロシュエルが何かを言うより先に拳を握る。

 来る。思った瞬間拳が迫る。


「また来たのかいドロボー猫がァ!!」


 ガシリ。

 身体強化を全開にしていたので難なく拳を片手で受け止める。

 にこりを笑みを浮かべて拳を横に退けると、怒り顔の奥さんを真っ直ぐに見る。


「初めまして井手口さんの奥さん。私は小影さ……」


 グワシ。

 あれ? 今なら説明できる。そう思ったフロシュエルの目の前がいきなり真っ暗になった。

 頭をアイアンクローで持ち上げられたことに気付いた時には、ぷらーんと身体が宙に浮いた後だった。


 あ、マズい。思った時には遅かった。

 物凄い速度で地面に顔面が叩きつけられる。

 一瞬、死んだと思った。意識が少しだけ飛んだ。

 フロシュエルの顔が地面に埋まったのを見てふんっと鼻息鳴らして乱暴に玄関を閉め去って行く奥さん。

 後には玄関口の地面に顔だけ埋まったフロシュエルがいるだけだった。


「……ひ、酷過ぎる」


 両手を使ってなんとか顔を救出したフロシュエルはぷるぷると首を振るって砂を落とす。

 完全に髪に砂が絡んでしまっていたので水魔法で洗い流して熱風魔法で乾かしておく。


「まさか油断してなかったのに負けるとは思いませんでした。人間……強いなぁ。これなら魔王相手にしても引けを取らないんじゃ……」


 はぁ。と溜息一つ。身体強化をしていた御蔭でダメージは殆ど無いのだが、精神的なショックはかなりでかい。特に一般人相手なら充分倒せるだろうと思っていただけに、反撃すら出来ずに一撃で沈められたのは想定外だった。


 この辺りは明日にでも龍華たちに相談すべきだろう。

 本日は諦め次に向った方が良い。

 対策と考察は肝心だ。


 公園にやって来ると、噴水広場の椅子に座る一人の男。

 鳩にパンくずを撒いている田辺さんだ。

 彼はフロシュエルが来たのに気付いて一瞬彼女を見たが、直ぐに視線を逸らして餌やりを再開する。


「こんにちは田辺さん」


「はい、こんにちは。何か御用ですかな?」


「借金の五百円を返して頂きにきました」


「もう返しましたよ」


 当然の切り返しだ。

 田辺さんは物品合わせて全部返したと言い張って来る。これをどうするか。未だにわからない。考える力を身に付けた御蔭か、このまま根気強く話しても彼が折れてくれることはないだろうことは確実だ。


 たった五百円。だけどその五百円は田辺さんから返して貰わなければならない。

 自分が持っている五百円を田辺さんから返して貰ったと偽ることはできないのだ。

 むぅっと唸り考える。


「ふふ、話はもう終わりですか?」


「うぅ。はぁ……バロックさんは返してくださったんですけど、流石に皆さん一筋縄ではいきませんね」


「おや、バロックさんを捕まえられたんですか。それは重畳。そうですねぇ。ではヒントを一つ。自力で思い浮かばない時は周囲を頼ると良いですよ」


「いえ、既に頼ってはいるのですが……」


「頼るのは何もアドバイスだけではありません。ほら、私がフロシュエルさんを利用して物品でお金を返したように、他人を使う術を身に付けると良いのです。ああ、そうだ。今度小影さんの借金取りに同行してみてはどうです? 実際にどういう行動をしてお金を回収しているのか、ソレを知るだけでもやり方の幅は広がりますよ?」


 そっか。もともと借金取りをしている小影を頼るという発想はまだなかった。出題者である彼女が協力してくれるかどうかなど思いもしなかったのだ。

 けれど、確かにそれは有用な気がする。

 それに、他人を利用する術……


 騙して動かすのは違法だが、お願いして協力して貰うのは罪ではない。

 色々と考えを巡らせよう。攻略法はいくらでもあるはずなのだ。

 それに……


「あの、井手口さんの奥さん、格闘するしか術はないのでしょうか?」


「ふむ? それを私に聞きますか? そうですね。ではなぜ井手口さんの奥さんは攻撃して来るのでしょう? 根本を考えれば解決策などいくらでも出てきますよ」


「根本? 井手口さんは確か、私を見た瞬間主人に手を出すドロボー猫だって……」


「ふふ。私からのヒントはここまでです。では」


 そう言って去って行く田辺さん。裏切られた時は確かに酷い人だと思ったけれど、やはり根本はイイ人なのかもしれない。思わず彼を信頼しそうになったフロシュエルは慌てて被りを振る。

 信頼はすべきじゃない。裏切りを教えてくれたのが田辺さんなのだから。彼なら教えてくれると信用はしても、信頼はしてはならないのだ。

 心に芽生えた信頼という芽を摘み取り、フロシュエルは次の試練へと向かうのだった。

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