十四日目2
フロシュエルは思った。
悪いのだが、既にピクシニーが教えようとしている魔法はブエルさんから習ったところであると。
フロシュエルは思った。
ピクシニーにこれ以上教わる意味は有るのだろうかと。
しかし、得意げに語るピクシニーには悪いので、もういいです。などとは言えないフロシュエルは、明日だけ借金取りで休むことを伝えてピクシニーの授業を終えるのだった。
「フローシュ」
「あ、龍華さん。何でしょう?」
「先程の授業。どうにも身が入ってなかったように思うが、ピクシニーの言っていたことは間違ってはいないぞ? どうした?」
「あーいえ、その~」
頬を掻きながらそっぽ向くフロシュエルに怪訝な顔をする龍華。
「実はですね。今の講義、すでにブエルさんに習っておりまして……」
「成る程。既に知っていた知識だったわけか。混合魔法は確かにお前は既に使っていたらしいな」
「そうなんですよ。ピクシニーさんも見てたとは思うんですが……」
「ふむ。復習と思って聞いておけばいいだろう。だが、一応それとなく伝えておこう。魔王に魔法を教わっているとなれば授業内容も確認しながら進めた方がお前の能力底上げに繋がるしな。で、どうだ? 魔力は自由に使えるようになったのか?」
「今まで使っていなかったので全部は……今は大体半分位までですね。全身に流したり無数の魔法を同時撃ちしたりはできますけど、まだまだやれそうな気がします」
「それはいい。まだ伸びしろがあるのなら修行内容を上げてもいいかもしれんな」
「え゛ぅ!?」
これ以上されたら本気で死にませんか私。口から出そうになった嘆きを思わず飲み込む。どうせ言ったところで、お前なら行けるだろ。と気にせず言うだろう。
「では、私はこれから堕天使対策に行ってまいります」
「その前に地図の確認だ。どの辺りまでできた?」
龍華の言葉にフロシュエルは完全の近くに置かれていたスケッチブックを取りに行く。
「とりあえずこんな感じになってます」
地図を受け取り真剣に見る龍華。
完全も寄ってきて覗き込む。
「ふむ。地図の縮尺はともかく道に関しては良く描けている」
「ありがとうございます。こうやって地図にして行くと結構道って覚えやすいですね」
「ほぅ、どうする龍華、一歩先を越されたんじゃないか?」
「馬鹿を言うな。私は方向音痴ではないと言っているだろう」
地図をフロシュエルに返し、龍華はムッとした顔で完全に抗議する。
「まぁ、その話はまた今度にしましょう」
「ふん。まぁいい。フローシュ。地図の描き方は覚えたようだし、これについてはもうよかろう。後は自力で方向音痴を治せ」
突き離されたっ!?
いや、これはもう卒業していい。ということなのだろう。
フロシュエルはスケッチブックを見て感慨深げに空を見上げた。
地図の大切さを知った。見知らぬ場所での周囲の観察法も覚えた。例え遠回りのように思えても、基礎をしっかりと築いてから動く方が早く覚えられる事を覚えた。
たった数日。なれど、地図を描くだけでかなりのことを覚えられた気がする。
龍華達にお礼を言って、コンビニへと向かう。
やはり本日もここに屯っていたロストとブエル。なぜか本日はワルまで一緒になって雑誌を読んでいた。
堕天使がここに居るんですが……
「やぁ、じゃぁ、昨日と同じ場所に行こうか」
「あ、はい」
小影の学校の庭にやってきたフロシュエルは、ワルと対峙する。
「そういえばイニアエスさんは?」
「あー、アレは魔界に帰したよ。今回の事で彼も真剣にレベルアップ始めるみたいだし」
フロシュエルの修行のはずが、イニアエスを焚きつけることに一役買ったらしい。
堕天使を強くしてどうすると他の天使には言われそうだが、ソレを言わせればフロシュエルだって魔王から対堕天使対策を受けているのだから強くは言えないのである。
「今回はあの危険な魔法は無しにしろよ」
「あ、アレダメですか?」
「下手すりゃ俺が死ぬだろうが」
「堕天使倒すのは別にいいような?」
「ぶっ殺すぞ天使見習いっ」
「ひぃっ!?」
フロシュエルからすればワルの実力は手が届きそうで届かない実力だ。
多少格上とも言える存在で、有効打を与えようと思うならブラックホールとホワイトホールを使うしか今はまだ手が無い。
こうなれば戦闘中に新しい魔法を編み出すしかないだろう。あるいは今までの経験からテナーの扱っていたディメンションソードを編み出すくらいだろうか?
とにかく、堕天使戦を体験できる今のうちに堕天使の闘いに慣れておくべきだろう。
「んじゃ、行くぜ天使見習い!」
「こちらこそ! ホーリーアロー……スプレッド!」
「アホが、技名わざわざ叫んでんじゃねぇよ!」
軽々避けるワルが羽ばたき宙空へと身を躍らせる。
さぁ、二度目の闘いだ。今回は実力で拮抗させてみせる。
フロシュエルは決意と共に翼をはためかせた。




