十四日目1
堕天使ワルと模擬戦を行った翌日。
フロシュエルは爽快な気分で起き上がった。
昨日の話を思い出すに、今日からは借金取りを再開するのもアリだし、修行を行うのもアリ、自由に過ごしていいのだ。
部屋から出て階段を降り、ダイニングルームへ。
丁度小影がいたのでおはようと答えながら対面に座る。
小影は丁度朝ごはんを食べており、ゆったりしているようだ。
これから学校に向うのだろう。
「おはよフローシュ」
「おはようございます」
「今日から修行以外も解禁だって?」
「はい。小出さんたちに再挑戦です」
「まぁ、ここから先はフローシュしだいだからね。期限内に全部なんとかするように。私は学校行ってるからがんばってね」
「はい!」
フロシュエルが食事を終える頃には既に小影が出てしまっており、一人食事を片付け、小影の母に外出を告げることにする。
お気に入りの靴は既にないので、小影が買ってきてくれた靴を履くのだがこれを履く度に悔しさが募ってしまう。けん太とはそろそろ決着を付けなければならないかもしれない。
さて、どうしよう?
選択肢G:
借金取りを行う
→ 修行に行きましょう
気分じゃないので今日はパスで
折角なので借金取りを。と思ったフロシュエルだが、森で今日も待つ龍華たちに連絡も無く借金取りを行うのは申し訳ないような気がして、今日はとりあえず修行の方に向おう。そう思ったのである。
公園に向うと、丁度龍華と完全が森の前に佇んで会話していた。
フロシュエルを見た完全が眼を見開く。
「驚いたな。まさかこちらに来るとは思わなかったぞ」
「今日は修行なしかと思っていたが、こちらに来たのかフロシュエル」
「はい。一応、事前連絡をしておいた方がいいかと思いまして。流石に森で修行を行うと言って下さった手前、借金取り業を行うのも気が引けまして」
「成る程、まぁいい。それならそれでやるとしようか」
三人して森へと向かう。
まずは身体強化。
完全に点穴を突かれ、疲れ切るまで全力でトレーニングを始めるフロシュエル。
毎回思うのだが、この点穴、一歩間違えば全身麻痺とかにならないのだろうか? 不安で仕方ない。
腕立て腹筋。数えるのも億劫になる程の連続で行われる。
正直つらい。それでも強くなれると分かっているのでフロシュエルは黙々と作業をこなす。
力尽き動かなくなったあとは回復魔法で筋肉を癒し、龍華との対戦を行う。
森に囲まれた広場で迫り来る龍華の連撃を避けて行く。
これも辛い。油断すればサクッと刺さるし、腕が取られる可能性すらあるのだ。
けれども避けられるだけでもかなり凄いと思う。
最初の頃にこれを行えば、おそらく一歩も動けなかっただろう。
今でこそ身体強化魔法で身体の動きが加速され、一撃一撃見ながら避ける事も出来始めているが、やはり予測を鍛えるためには龍華のこの修行もフロシュエルの糧になっているのだろう。
龍華との修行が終わると、今度は完全による暗殺業の修行に入る。
本日からの新しい修行なのだが、フロシュエルは暗殺者になる気はなかった。
けれども完全が乗り気なので、仕方無く習うことにする。
きっとこれも強くなる上で必要なことなのだろう。
まずは指先を鍛えるために剣山の上で一点倒立を……は流石に無謀なので、再び点穴突かれて指の筋力を上げる修行と、人体の点穴についての知識を同時進行。まずは指で腕立て伏せしながら頭に知識を叩き込まれる。
正直知識入らないと思うのだが、そこもまた点穴を突かれて覚えやすくなっているらしい。
フロシュエルの額のあたりに突かれた痕が赤くなっている。
この光景を見た龍華は語る、「阿呆としか言えん」と。
勉強が終わると、回復魔法を唱えて実戦練習。森の中に出現するゴブリンやコボルトを相手に点穴を打つ練習を行う。
何度か突き指しながら練習していると、上手く入ったのだろう。緑色の肌のゴブリンが一瞬で赤い肌に変化した。
「なんでっ!?」
「うむ、今のは体色変化の孔だな」
「そんなのあるんですか!?」
「人間の場合は多少時間が掛かるが結構変化するぞ。赤色とか黒色とか緑とか」
気持ち悪い。緑の完全を思い描いたフロシュエルは思わず脳内から画像を消し去った。
ちなみに、体色変化したゴブリンはその後の数撃で「あひん」と声を上げて絶命してしまったが、完全に言わせれば押す場所を間違えているらしい。
フロシュエルには未だに何処が正解のツボかなど全く分からなかった。
「ふむ。今日はこのくらいにするか。午後からはピクシニーだったな。呼んで来よう」
昼休憩で本日も田辺さんからの差し入れを貰って食事をしているフロシュエルを放置して、完全がピクシニーを迎えに行った。




