十三日目10
「は? 堕天使との戦い?」
コンビニにやってくると、本日も雑誌コーナーで本を読むブエルとロスト。魔王二人が並んで本を読んでいる様はどう見てもシュールだ。冴えない男子学生とタイヤみたいに顔だけ姿に五本の足が生えた生物だから仕方無いといえば仕方無いのだが、コンビニ店員はなぜ普通に作業が出来るのだろうか?
そんな面子に合流して話しだす天使見習い。フロシュエルもまたシュールな光景に一役買っていることを、今はまだ知らない。
彼女の話に、読んでいた雑誌を閉じたロストは青いシールを貼り直して雑誌を戻すと缶コーヒーを買いに向う。
「ふむ。なんか面白そうだから付き合おう。とりあえず広い場所に行こうか。付いて来て」
コンビニで買い物を済ませたロストと、ついでに付いて来たブエルと共に、フロシュエルは案内されるまま夜道を歩く。
ふと気付けば魔王二体が真横に居るのだ。天使見習いとしてこれってどうなのだろうか?
堕天案件のような気がするなぁ。思ったフロシュエルだが、やって来た場所を見て呆然とする。
「ここの校庭にしよう。広いし」
小影の学校だった。
こんな場所で暴れていいのだろうか?
焦るフロシュエルだが、ロストは気にしたふうも無く校庭にやってくると、魔法で魔法陣を描きだす。
「はーい、召喚」
そして現れる見るからに漆黒の羽が生えた嫌味な顔の男。堕天使だ。
呆然をするフロシュエルとロスト達を見て意地の悪そうな顔をする。
「ほほぉぅ、俺様を呼ぶ声が聞こえたから誰かと思えば、ロスト様ではございませんか。このイニアエスに何の御用で?」
「うん、そこの天使見習い君が堕天使との戦闘を想定した闘いがしたいというからね。だったら直接堕天使と対戦して貰った方がいいんじゃね? と思ったんだよね」
「ほぅほぅ」
「あ、一応言っとくけど殺害は無しで。あくまで試合でよろ」
「天使見習い相手にですかい。まぁ俺様はいいですけど、相手になりやすかねぇ?」
「じゃぁ、フローシュ。この校庭に結界貼ったから。自由にぶっ倒しちゃって。堕天使だから殺しちゃってもいいから」
「「ええええええ!?」」
ロストの言葉に驚いたのは、フロシュエルだけではなくイニアエスもだった。
「ちょ、俺様は殺し不可なのに、殺されるの有っすかい」
「別に問題ないだろ? 堕天したんだし、君が天使見習いに負けるとでも?」
「ひゃはっ。抵抗する気力すら失わせて目の前で屁ひってやるよっ」
ちなみに、イニアエスはもったいぶった説教師がもっともらしいことを言うのを見つけてはおならをして悦に入る。といった堕天使であるらしい。
元は善性の天使だったが、西暦745年に教会によって弾劾された七天使の一人。
そう、七大天使と呼ばれる程の実力を持つ天使が、堕天してさらに実力を上げた存在なのである。
「なぁに、恐れる必要はないさ。胸を借りる気持ちでやればいいさ」
ロストの言葉にフロシュエルはごくりと喉を鳴らす。
おそらく、これは真剣な堕天使との初戦闘だ。
堕天使対策を相談したら堕天使と闘う事になった。ある意味本末転倒な気がしないでもないが、実際に闘えて命の危険が無いのなら、確かに胸を借りるつもりで戦うべきだろう。
フロシュエルにとってもこの闘いは有益になると分かっている。
「やります!」
自分の実力が堕天使に効くのかどうかを知るいい機会とも言える。
ブエルが見ているのだし、よほどのことがないかぎりは問題無く戦えるだろう。
ならば遠慮はいらない。戦えばいいのだ。
「ひゃはっ。無謀というべきか、それとも恐いもの知らずのド新人か。そのプライド圧し折ってやんよっ」
バサリと黒い翼が空を舞う。
先程戦ったテナー・ピタとの戦いが思い起こされる。
今回は室内戦ではなく本格的な外での空中戦。何でもアリの闘いだ。
ばさりと純白の翼を広げ、フロシュエルが飛び上がる。
「行くぜぇ。トライブリッド!」
三連に別れた魔法の球がフロシュエル向けて飛んで来る。
けれど、あまりにも遅い。
テナー・ピタの30連装光矢程の速さも恐ろしさもない。
旋回しながら魔法弾の中央を潜り抜ける。
ホーリーアローを一発射出。ただのホーリーアローじゃない。避けた先で散弾に変化して背中から急襲するオリジナル魔法だ。
「くっらえ!」
「はっ。初期魔法のホーリーアローなんざ当るかいっ」
全く考えなく避けたイニアエスが楽しげに笑うその背後。無数の矢に分かれた光の矢が彼を後ろから急襲する。
あー。とロストとブエルが見上げる中、避ける暇すらなく背中から魔法を受けるイニアエス。
絶叫を上げて墜落していった。
「え、ええぇぇぇぇ……」
このくらいは避けられるとテナー・ピタ戦から学んでいたフロシュエルは次の行動に既に映っていたのだが、呆気なく撃墜されたイニアエスを見て思わず呆然を見送ってしまったのだった。




