十三日目9
「えーっと、この場合、また最初からになるんですかね?」
「え? いえ、私に会った時点で問題無いわよ」
フロシュエルを立ち上がらせたテナーは窓に向かうと、そこから外へと飛び出す。
驚くフロシュエルは手を引かれていたので一緒に落下する事になった。
「塔周辺は認識阻害魔法が掛かってるわ。敷地内なら飛んでも問題は無いの」
バサリと羽を羽ばたかせて庭へと舞い降りると、そこには既に龍華と完全が待っていた。
テナーとフロシュエルが地面に降り立つと、そこへと近づいて来る。
「ほぅ、もっと時間が掛かると思ったが、二日で攻略したか」
「急成長もいいところね。やはりそろそろ相伝すべきかしら」
完全の言葉に首を捻るフロシュエル。その頭の上に遅れてピクシニーがやってくる。
「いやー、なかなかすごかったよふろーしゅ」
「ふむ。とりあえず明日からはまた森に向おうか。テナー・ピタが合格を出すのならばもう塔攻略を行う意味は無い」
「ちょっと龍華さん、その用済み感、私に対して酷くないですか?」
「ふん。地上に居続ける事を選んだ腑抜けには充分な態度だろう?」
「うっ……そこを突かれると弱いわね。まぁいいわ」
溜息ついて、テナーはフロシュエルに振り向いた。
頭の上に乗るピクシニーが気になって仕方無いフロシュエルが真上に視線を向けている状態だったが、噴き出すことなく呆れた顔で視線を向ける。
「フローシュさん」
「ふぇ? あ、はい。何でしょう」
「私との戦いで翼を持つ存在との戦いは多少想定できたと思うの、あとはシュミレートになるけどいつ堕天使と敵対してもいいように訓練はしておいた方がいいわ」
「あ、はい」
反射的に応えたフロシュエルだが、テナーと闘った状態では周囲が狭かったからああいう戦法を取ったのであって、もしも外での空中戦となればまた違った状況になるだろう。
できるならそちらもやってみたいと思うフロシュエルだったが、テナーはもう戦ってくれるつもりはないらしい。
フロシュエルは考える。
自主練習をするにも限界はあるし、シュミレートと言われてもどうしたらいいか分からない。
これは誰かに聞いておいた方がいいだろう。
小影? 龍華? 完全? ピクシニー? それともテナー?
いや、彼女等に聞くよりは、驚いた顔で褒められたい。
ならば彼女たち以外に聞いた方が良いだろう。
選択肢F:
→ 魔統王に聞いてみようか?
ハニエル様に聞いてみようか?
そうだ。確かロストが自分も手伝ってやろうか? とか言っていた気がする。
気は引けるが何かしら方法を知ってるかもしれないから聞いてみようか?
じゃぁ、早速今日の修行終わりに聞きに行こう。
「ところで龍華さん、フローシュさんのテストってどの辺りまで終わってるの?」
「ん? ……あ」
……あれ? 龍華さん? あの、もしかして……忘れてた?
「そ、そうだな。フロシュエル、そろそろ借金取りの幾つかを終えておいてもいいかもしれんな」
「ふえぇ!? ど、どういう事ですか!?」
「今までの応用で洋館以外は大体いけると思うぞ。身体強化魔法も覚えただろうし、捕獲も出来るし、人間と闘う事も出来よう」
確かに、五件の借金返済は今全く行われていない。
そろそろ、数件攻略してもいいのかもしれない。
期日も少ないのだ、出来ることはやっておいてもいいだろう。
「だが、その分修行の時間も少なくなるな」
「ふむ。ではここからは自由行動だフロシュエル。私たちは森で待つ。修行なら朝一で森に、試験の試験を攻略するなら借金取りを行えばいい」
なぜかフロシュエルを放置してフロシュエルの行動が決められている。
困った顔をするフロシュエルを、頭上でくすくすとピクシニーが笑っている。
「となると、明日からでも始められる訳か。その辺りはフロシュエルの自由意思に任せるとしよう」
「そうですね。一応小影さんから告げられたのは二カ月以内に返して貰えれば良いといってましたので、問題無いようでしたら明日以降に向ってみたいと思います」
「ふむ。では小影に伝えておくか」
自分は家が小影さんの家だから普通に会うのですが。そんなことを思ったフロシュエルだが、龍華が報告する事に意味があるのかもしれなかったので何も言わないでおくことにした。
龍華たちと別れ、フロシュエルは地図作成を行い始める。
かなり埋まりはしたものの、迷路のように連なる街はかなり入り組んでおり、地図にすると縮尺の仕方が難しい。何度も書き直す事になり、結局殆ど進めなかった。どこからどこまでを書くかを決めておかないと難しいかもしれない。
地図の書き方も誰かに聞くべきだろうか。うーんと唸るフロシュエルは、暗くなって来たので次の目的地である人物の元へと向かう事にしたのだった。




